3話 赤ちゃんに転生
目の前が、じわじわと明るくなっていく。
まだ視界はぼんやりしていて、輪郭もあやふや。でも、なんとなくここは……和室?
この感じ……昔、おばあちゃん家に行ったときの記憶に近い。
古い農家みたいな、ちょっと土っぽい匂いもするし。
耳を澄ますと、女性たちの声が聞こえてきた。
「まあ、かわいい男の子。あなた様にそっくりですよ」
若い男の声も混じってる。どうやら“父親”っぽい。
その声の主が俺の顔を覗き込んできた――と思った次の瞬間。
ぶんっ!
容赦なく、ぶん投げるような勢いで抱き上げられた。
(おいおいおい! 首すわってない新生児に、その扱いは雑すぎるだろ!?)
今の俺、見た目はどう見ても生まれたての赤ん坊なんだぞ。
そういうのはもっとこう……包み込むように、そっとだな?
「オギャー! オギャー!」
……くそっ、言いたいことは山ほどあるのに、出てくるのは「オギャー」だけ。
このもどかしさ、マジでつらい。
父親らしき男は、完全にテンションMAX。
笑顔というより、もう顔全体が笑ってる。
「お前は嫡男、百道三蔵だ!」
満面のドヤ顔で、名付け宣言。
(いや、だからさ! 抱き方の話は!? その前に首の心配してくれよ!)
どうやらこの「三蔵」という名前、父・三太夫の“三”を継いだらしい。
嫡男の証、というやつだ。
母親らしき女性も、嫡男を授かって満足そう。
その後ろに立っているのは、どう見ても“お手伝いさん”な3人組。
つまり、ここは使用人がいるお家――これはちょっとした安心材料だ。
父親は一通り騒いだあと、どこかへスーッと退場。
残された女性陣は、すぐに“女子トーク”モードに突入した。
「お顔が綺麗ですわねえ。この子、将来は女泣かせですわ」
「本当ねぇ。フフ……若子様の将来が楽しみですこと」
……頼むから、赤ん坊の股間を見ながら「フフ……」とか言うのやめてくれ。
おもちゃじゃないんだ、これは。
トーク内容も、完全にどうでもいい話題。
「どんな人が好き?」
「え~それわかる~」
みたいな会話が延々と続く。
まあ、今後のためにも情報収集は大事……と思って耳を傾けていたけど、最後まで有益な情報は一切なし。
これはもう、寝よう。
できればもう少し静かにしてほしいところだが……とにかく寝る!
とはいえ、ひとつだけ収穫はあった。
お手伝いさんがいるってことは、貧乏ではなさそう。
少なくとも、極貧生活の心配はなさそうだ。
ただ、家そのものは――うん、まあまあ年季入ってる。
質素というか、ぶっちゃけちょっとボロい。壁に虫まで這ってるし。
おい、その虫、素手で叩いて潰すなよ……!
もうちょっとこう、スマートな方法あるだろ!?
でもまあ、そんな環境でも、じわじわ眠気がやってきた。
生まれたばかりの脳みそ、体力ないのだ。
それにしても、オヤジの職業ってなんだろう?
さっきのハイテンション具合からして、なんか偉い人っぽかったけど……。
まあ、それよりも気になるのは――“特典”、どこいった?
天使様、忘れてませんよね?
人助け転生の特典、ちゃんと付いてますよね??
家を見る限り、いわゆる“金持ち設定”って感じでもないし。
ってことは……俺自身に何か特別なスキルがあるパターンか?
だったらワクワクするじゃないか。
俺に授けられた特別スキル、いったいどんなやつなんだろう?
魔法でも構わない。
実用系スキルでもまあいいかな。
今、期待値が爆上がり中です。
まずはこの家をなんとかしたいな。
虫の出ない、快適な住環境にリフォームしたい。
それから、服も。お手伝いさんたちに、もうちょっとオシャレで清潔感あるやつを着せてあげたい。清潔感は大事だよ。
……って、赤ん坊が考えることじゃないよな、普通。
でもまあ、これが“中身大人”の赤ん坊ライフってやつか。




