26話 至高の匠と、うどんセット
天文8年(1539年元旦)――8歳
そろそろ、至高の匠スキルでいろんなものを作りたい。
このスキルのことを、皆には何と言おうかな?
ずっと秘密にしておくわけにもいかないし。
“戦をなくし民を幸せにする”という約束と引き換えに、豊穣神様から与えてもらった“神通力”としておくか!
俺の部屋には傅役の道順が来てくれている。
大事な話があるからと俺が呼んだのだ。
俺は“戦をなくし民を幸せにするという約束”で、豊穣神様から与えてもらった“神通力”について説明する。
あれ? 道順が驚かないな? 病気が治せる神通力も、何か作り出せる神通力も、同じようなものだと思ってくれてるみたいだ。
(まあ結果オーライだ。驚かれて騒がれたら、“至高の匠スキル”は隠れてこっそり使わなきゃならなくなるからね)
こうして、“至高の匠スキル”のカミングアウトは、サクっと無事に終わった。
いや〜、ホッとした! 心の荷がひとつ降りた気分だ。
……でもさ、冷静に考えてみると、今のところ“至高の匠スキル”で作ったのって――うどんセットだけじゃない?
いや、美味しかったけども! 伊賀を守るための武器や防衛設備を作れるかどうか、まだ分かってないんだよね……。
これはさすがに、試してみないとマズいでしょ!
何しろ、“うどん”じゃなくて“戦国最強軍団”を作ろうとしてるんだよ。
(……でも、もし本当に、うどんセットしか作れなかったらどうしよう?)
(あの神様だと……十分ありえるんだよな)
その時、頭の中に声が響いた。神様からのメッセージだ!
『京からの流民を助けてくれてありがとう。ほんの少しだけど私の評価が上がったのよね!』
『ところで、“うどんセットしか作れなかったら”とはどういう意味かしら?』
『至高の匠スキルで作れるのは、“うどんセット”みたいな簡単なものだけよ。……それじゃダメなのかしら?』
(……やっぱりか〜。そうなる気がしてたんだよ!)
(俺が作りたかったのは――うどんセットじゃない!)
いや、たしかに美味しかったよ?
でもね!
うどんセットで戦ができるかってんだ!
どんぶりで敵を殴れってのか!? 箸で矢を受け止めろってか!?
……そんなわけあるかい!
伊賀の国には今、確実に危機が迫ってるんだ。
その上、俺の命だって風前の灯火じゃないか。
このままだと、「うどん職人としての余生を送りました」っていう戦国珍人物図鑑に載っちゃう未来しか見えない!
本気でやばい!
使える“至高の匠スキル”を寄越せ!
寄越せ! 寄越せ! 寄越せ!
『神様! 誠に申し上げにくいのですが、“うどんセット”では伊賀の民を守れません! すでに伊賀周辺の大名たちは、伊賀が豊かになったことを知り、略奪に動こうとしているのです!』
『このままでは伊賀は蹂躙され、せっかく助けた民も、再び流民となってしまいます。伊賀の民を守るための兵器を、至高の匠スキルで作れるようにしてください! 助けてください! お願いします!』
『助けた民が再び流民に戻ったりしたら、私の評価が下がっちゃうわね! それはダメ! 絶対にダメ! 評価ダウンは断固阻止! 私にもいろいろ都合があるのよね!』
『至高の匠スキルは、創造しようとするものの細かいパーツ形状まで頭に描けないとダメなのよ。それと製造過程もね』
『だからね、あなたの前世にあったような最先端兵器なんかは、複雑すぎて作るのは無理よ! でもこの世界にあるようなものを、多少進化させる程度なら可能じゃないかしら。あなたの知識でなんとかなるでしょ?』
『神様……いくらなんでも、細かい製造過程までの知識はありません!』
『不足している知識を自動的に補うには、あなたの持つ“至高の匠スキル”をかなりパワーアップさせなきゃダメね』
『……先ほど申し上げたとおり、伊賀は危機なのです! どうかスキルの強化をお願いします!』
『あなた、本当に要望が多いわ! でも要望を聞かないと私の評価が下がのね。私には評価を上げなきゃいけない理由があるのよ! ちゃ〜んと成果を出してくれるならいいわ! 成果よ! 成果! いつも見てるから! 頑張るのよ。じゃあ!』
(え〜……もういなくなったのか)
相変わらず、急に現れて急に消えるな。
それに“いつも見てる”ってストーカみたいで怖いんだけど。
変なこと言えないじゃん。
それになんだよ、評価とか成果とか……
まるで昔の会社の上司みたいじゃないか。
(……俺、いつの間にか神様の部下になってないか?)
でも、まあ――ほんっとに危なかった!
もし“うどんセット”しか作れなかったら、伊賀が全滅するところだったぞ……。
神様とのやり取り、道順からはどう見えていたのだろう?
「若、先ほどから考え込まれておられましたが、どうされました?」
(伊賀の危機だったなんて、とても言えない……)
とにかく、作ってみるか。




