20話 貧乏メシじゃないぞ
天文7年(1538年 秋)――7歳
牧場はまだまだ発展途上だけど、麦と蕎麦の収穫量はかなり増えてきた。
でっかい蔵も建てたし、そこにしっかり詰め込んでる。……うん、見た目はなかなかの豊作っぷりだ。
が――村人のリアクションが、どうにも薄い。
「いや、そんな喜ぶほどのもんじゃないし……」みたいな冷めた空気。
どうやら、“麦と蕎麦=仕方なく食う貧乏メシ”という認識が強固らしい。
どんなに実ってても、感動ゼロ。拍手もゼロ。
なんか、がっかりだ? 苦労してるんだけどな……。
これじゃ、麦や蕎麦も泣いてるぞ。
「こんなに頑張ったのに……!」って。
たしか、村人たちは蕎麦粉に熱湯を加えて、餅みたいに捏ねて食べてたはず。
……うん、健康的ではある。が、美味いかと言われれば――微妙だ。
そもそも調味料ってどうしてたんだ?
塩なんてこの時代では高級品だし、「敵に塩を送る」なんて話が美談になるくらいだ。
(あれだよね、謙信さんと信玄さんのやつ)
……まさか、そのまま食ってたんじゃ?
そりゃあ、不評にもなるわけだ。俺だって塩なしの蕎麦団子とか、遠慮したい。
「飢饉の時でも、美味しく食べられるものができたぞ! やったー!」
って、そんな風に村人たちが喜ぶ顔が見たかったのに――この現状は、正直めちゃくちゃ不本意である。
まあ、調味料の確保は今後の課題として……
せめて小麦や蕎麦ってのは、本来“美味しい料理の材料”なんだってことは知ってほしい。
前世では、小麦からパンやうどん、蕎麦からはざる蕎麦・かけ蕎麦と、どれも美味しく食べられていたんだ。
専門店が立ち並ぶくらいにね。
――ああ、食べたい。パン。ラーメン。うどん。蕎麦。
腹が減ってきたぞ……。
よし、お料理教室でも開くか。
うどんや蕎麦を美味しく食べるには、やっぱり醤油と出汁が欲しい。
……けど、どっちも今はない。
いきなり出鼻をくじかれた感じだな。
でも醤油は、味噌樽の底に溜まる“味噌たまり”で代用できるはず。あれは醤油の原型みたいなものだから。
少しくらいなら、屋敷の味噌樽から掬ってこれるだろう。
そうだ、腕のいい味噌職人をスカウトして醤油作りを始めさせるのもアリだな。これも伊賀の特産品になるはずだ。
京からの流民の中に味噌職人が紛れているかもしれないし、いなければどこかから引き抜いてこよう。
味噌職人のために、小さな醤油蔵を建てて、そこで研究してもらおう。
「そのうちできればいい」くらいの気持ちで、いろいろ種をまいておくことが大事だ。
醤油があれば料理の幅も広がるし、煎餅だって作れるな。煎餅、大好きなんだよね俺。煎餅も立派な名産品になると思う。
出汁はなくても、鶏肉と味噌たまりがあれば、そこそこに美味しいつけ汁くらいは作れるはず。
多少失敗しても、この時代の料理になら負ける気はしない。
よし、まずはうどん作りから始めてみよう。
……といっても、7歳児の力じゃうどんの生地を捏ねるのは無理があるので、道順に手伝ってもらっている。
最初は嫌がるかと思ったけど、意外と面白がっている。
うどんは、前世のネットの記事見ながら作ったことがあるから多分大丈夫だ。
小麦粉に対する水の量と塩加減は分かっている。
小麦粉をコネコネする力仕事を、道順が楽しそうにやってくれている。
腰の使い方が上手い気がするな。道順は武術で体幹が鍛えられているのだろうな。
道具類は、こっそり“至高の匠スキル”で作っておいた。
うどんを捏ねる大きな平板や、捏ねた奴を麺の太さに伸ばすための丸い棒、その他にふるいや麺きり包丁等の道具も揃えておいたのだ。
このスキルの存在はまだ秘密にしておきたいから、道具は「堺の商人から買った」ってことにしてあるけど、信じてくれるかどうかはわからない。
“至高の匠スキル”は便利なんだけど、
「どのくらいの大きさまで創造できるのか」
「どれくらい精密なものまで作れるのか」
――その辺りが、まだよく分かっていない。
あの残念神様に貰ったスキルだから、一抹どころか大いに不安がある……。
でもまあ、今のところ問題ないし、あまり気にしないでおこう。




