2話 特典の説明がないんですけど
……なんだこれ、体がめちゃくちゃ軽い。
重力、どっか行った?ってレベルでフワッフワ。
ジャンプすればビルのひとつやふたつ、飛び越えられそうな気さえする。
……いや、待てよ。
この感じ、もしや――死んだ? 幽霊ってやつになっちまった……とか?
あたりを見渡す。
眩しい。いや、とにかく眩しい。
目がチカチカするほど真っ白な空間。
壁も天井もない。部屋って感じじゃないけど、空でも地でもない、不思議な場所だ。
まあ、もう死んじゃったし。怖いもんなんて、今さらない。
このあと幽霊が出てきたって、俺のほうが幽霊なんだからな。大丈夫。
ふっと気持ちが落ち着くと、視界が少しずつクリアになってきた。
――そして、現れたのは。
金髪。青い瞳。
美術館に飾ってある宗教画から抜け出してきたような、完璧すぎる美女。
……あれ?もしかして天使?
いやもう、これ説明不要だろ。見た目が“天使です”って言ってるもん。
こんなハイスペック天使に会えるなら――死ぬのも悪くなかったかもしれん。
(死んだけど、“アタリは引いていた”ってやつだな)
『目覚めましたか?』
そのとき、頭の中に直接“声”が響いた。
音じゃない。でも確かに聞こえる。不思議な感覚……これって、テレパシー?
うおお……!
これ、もし研究対象にできたらノーベル賞いけるな、確実だ!
『えっ、天使様……ですか? ここって、天国なんですか?』
『天国ではありません。この場所は、人助けにより命を落とした者のみが訪れる領域です』
――なるほど。じゃあ俺は、どうやら“該当者”ってわけか。
死んだ理由に関しては、ぼんやりとしか覚えていないが、確かに……誰かを助けようとして、ああなった気がする。
ってことは……この流れ、もしかして、“ご褒美を授けます”的な展開に入っていくんじゃないか?
よくあるやつだ。異世界転生もののテンプレってやつ。こっちが聞いてもいないのに、勝手にスキルとかチート能力をくれるというお宝展開。
期待値が爆上がりしていく。だって、目の前にいるのは天使――しかもただの天使じゃない。
まぶしいほどゴージャス。神々しさ全開。まるで高級百貨店のショーウィンドウから抜け出してきたような存在感だ。
ドレスはキラキラ、笑顔はまぶしくて直視できないレベル。
(これは……あるな。絶対、何かある)
天使様は口を動かさないまま、頭の中に心地よい声を流してくる。
まさに“脳に優しいボイス”。いやもう癒し成分たっぷりで寝落ちできそう。
『人は死後、記憶を消されたうえで赤ん坊として転生します。通常は人間界ですが、ご希望があれば、魔法や魔獣の存在する異世界を選ぶことも可能です』
(おおお……転生システム来た……! それも選択制!?)
――って、それ普通の転生と変わらなくない?
え、人助けで死んだ“俺だけの特典”は……?
『人間界も異世界も、それぞれが独立したパラレルワールドであり、各世界には神々が存在し、それぞれを管理しています』
(おお……世界観の補足タイムに入った。ってことは……そろそろ来るぞ、メインディッシュ!)
『この場に来た“人助けで亡くなった者”は、希望すれば“記憶を保持したまま”転生が可能です』
(えぇぇ……それだけ?)
(いやいやいや待って!? 特典、それだけ!? 記憶保持だけ?)
さすがにちょっとショボくない?
もっとこう、“魔王もワンパン!”みたいなド派手特典あると思ってたんだけど。
だってこのビジュアルだよ!?
こんなゴージャス天使が登場しといて、まさか“記憶だけ”で終わりってことある?
『人間界に、記憶保持での転生を希望します』
異世界で魔物とチャンバラやるより、人間界でのんびり暮らしたい。
それが俺の選択。
(で、で? 天使様? ここからが本番の“特典説明”ですよね?)
『ご希望、確かに承りました。どうぞ転生後の人生をお楽しみください』
(え、ちょ……)
『あの、特典……特典って――』
言いかけたその瞬間、意識が――ふっと、闇に沈んだ。




