19話 教育なくして富国強兵なし
天文7年(1538年 春)――7歳
だけど問題は――
鶏舎と牧場の管理をしてくれている人たちの中に、かろうじて読み書きができる人がたったの1人しかいないという現状!
そして……計算ができる人となると、まさかのゼロ! なかなか厳しい現実だよ!
たとえば鶏舎の場合、
「鶏が1日でどれくらい餌を食べるか」
「月の餌代がどれくらいかかるか」
「鶏は月に何個卵を産んで、それが1個あたりいくらで売れるか」
――こういったことをきちんと考えられる人が、最低でも鶏舎と牧場それぞれに1人は必要なんだ。
でないと、ただ動物を飼ってるだけになってしまう。
ビジネスとして成立させるには、しっかりと管理・運営してもらわないと困るんだよね。
ビジネスにならなければ、儲からない。富国にはならない。
とりあえず正直屋の丁稚に手伝わせることはできるけど、いつまでも頼りっぱなしってわけにはいかない。
鶏舎の事だけを切り取って考えても、民を教育しないと国が豊かにならない事が理解る。
しかも教育の成果が現れるには時間がかかるだろう。
となれば、今すぐにでも教育を始めなきゃいけない。
前世では普通に学校があったから、こんなこと、考えたこともなかったな……。
だが今の俺は違う。
伊賀を豊かにするには、学校を作らないとダメだ。それも、なるべく早く。
読み書きと計算ができる人間を育てなければ、富国強兵は実現しないのだ。
いきなり前世でいう義務教育を始めるのは、さすがに無理がある。
この時代の人々の意識が追いついていないだろう。
だったらネーミングを工夫しよう。
「武官と文官の育成を始める」と言えば、納得してくれるかもしれない。
伊賀の子どもたちだって、みんなが忍者の適性を持っているわけじゃない。
文官向きの子もいるはずだ。
そういう子どもたち、そして流民の中にも適性がある子がいるなら、文官教育として読み書きや算術を教えよう。
さらに適性がある者には、前世で使われていた方式の簿記も教えたい。
算術と簡単な簿記については、俺が教科書を作るとしよう。
そして、成績が良ければ、文官として伊賀で雇うという“人参”をぶら下げてやる。
やる気を引き出せるといいんだけどな。
読み書きの指導は――まあ、坊主にでも任せておこう。
お教はいらんから、文字を覚えさせてくれ。頼んだぞ、坊主!
……問題は、計算だよ。
まさかとは思うが、これ、教えるの俺か? やっぱり俺か……!?
あ〜また俺の仕事が増える!
米の転売で毎日てんてこ舞いだってのに、次は算数教師かよ!
――まあ、仕方ない。これも明日の伊賀のためだ。
先生業、頑張るとしますか。
武官の教育は、軍師や武将が揃ってからにしよう。しばらく後回しだな。
忍者の教育は、もちろん今まで通り続行だ。
やっぱり忍者ってのは、“優秀で便利”、“伊賀の宝”! もっともっと増やしたい!
忍者は調査に商売、軍事に暗躍――何でもできるスーパー万能職。
なんなら、常備兵を全員忍者にしてもいいくらいだ。
ただし、忍者の養成には時間がかかるのが玉にキズ。
即席忍者なんてものは存在しない。
ラーメンじゃないんだから。
でも、これからの忍者には、手裏剣だけじゃなく、そろばんも使ってもらわないと困る! 米の転売ビジネスでも、忍者の力が必要なのだ!
だから読み書きと算術は必修科目に決定。
忍者には、“戦国の商社マン”としても活躍してもらうぞ!
最近では、流民の中にもやる気満々で忍術に適性のある子が出てきた。
未来のスター忍者候補だ!
忍者? いくらいても困らないよ。
むしろ足りない。10人いたら、20人欲しくなるのが忍者ってもんだ!
まずは今のような小規模な形でスタートするけど、いずれは領地の子どもたち全員が、読み書きと算術をマスターできるようにしていくつもりだ。
だって、民が“読めない・書けない・数えられない”じゃ、未来の話なんて始まらない。
「無知は罪なり」とは昔の偉い人も言ってた(ような気がする)けど、本当にそう思う。どこまでできるかは分からないけど、焦らず地道に続けていくさ。
教育なき富国強兵なんて、例えるなら――
刀を忘れて戦に行くようなもんだ! そりゃ勝てんわ!




