17話 正直屋誕生
天文6年(1537年 初夏)――6歳
流民が伊賀に、少しずつ流れてきているそうだ。
“伊賀の神童”とか“神様の加護を持つ子供”とか、苦しい現実からわずかな希望にすがるように、人々がとぼとぼと集まって来ているらしい。
俺としては、神様扱いされるのは正直かなり迷惑なんだけどな……
楓母さんは、なんだかとても喜んでいる。
楓母さんが嬉しいなら、それでもいいか。
そういえば昨年、妹ができた。名前は「幸」。
妹って本当に可愛い。前世では妹が欲しかったから、本当に嬉しかった。
守るべき家族が一人増えた。
絶対に幸せにしてやらないと。
人質として嫁に差し出すなんて、そんな未来には絶対させない。
そのためには今のままじゃダメだ。伊賀はもっと強くならないといけない。
流民の受け入れについてだが、資金に余裕が出てきたので、常備兵になってくれる者を優先的に受け入れている。
子連れの母親は、見捨てるわけにはいかないので、牧場や焼酎造りの手伝いなどをしてもらっている。
なんだかんだで、伊賀の人口がかなり増えてきた。
その分、周囲の大名の領地では、人が減ってるかもしれないな。
今はまだ、周囲の連中を刺激したくないところだ。
……とはいえ、ヤクザ大名どもが、戸籍なんかちゃんと作ってるとは思えないし。
たぶん、自分の国の人口なんて、まともに把握してないんじゃない?
足し算できるかも怪しい。脳筋だけが取り柄だからな。
だけど……俺も戸籍を作ってなかったな。他所の大名のことは言えないな。
そろそろ作るか。だけどこれが、けっこう大変なんだよな。
流民を常備兵として大勢雇ったけど、残念ながら軍事訓練を任せられる武将がいない。
だから今は見習いとして、体力づくりを兼ねて道路整備や水路整備など、いわゆる公共事業に従事させている。
将来的には工兵部隊として、戦場での陣地構築などでも役立つはずだ。
伊賀はこの2年で、明らかに金回りが良くなった。
ようやく、あの貧乏生活から脱出できた感じだ。
最近では、大名からの――危険なうえに、銭にもならないクソ依頼を、内容も聞かず次々とお断りしている。丁重にだけどね。
その結果、伊賀に来ていた依頼は、全部、甲賀に回っているらしい。
……ごめんね、甲賀さん。
良い仕事が一つもないと思う。本当に申し訳ない……。
でも、いつか甲賀も助けるからね。
同じ“忍び仲間”なんだ。それまで、もう少しだけ待っていてください。
これから伊賀は総力を挙げて、儲かるビジネスに全力投球する!
全力で金儲けをする!
「金目の物を全部出せや!」と周辺のヤクザ大名たちに攻め込まれる前に、銭を蓄えて富国強兵を進めないとダメなのだ!
今は、ほぼ無防備!
そういえば堺で乗っ取った店だけど、名前を“正直屋”にした。
仕事の内容からすれば、“ザ・商社正直屋”だな。
名前の響きがいいし、“正直”なんてネーミング、伊賀が経営しているなんて、誰も思わないでしょ?
忍びの拠点も複数必要になる。商業地に“正直屋 博多店”、“正直屋 柏崎店”、“正直屋 熱田店”、“正直屋 沼津店”を開設。
これらの拠点を足がかりに、九州・中国・四国・近畿・東海・関東まで、戦と米の生育状況に関する情報を集める。
おかげで、ヤクザ大名たちの動向は手に取るようにわかる。
他国の忍びとの提携はまだできていないが、伊賀が国としての体裁を整えれば、きっと可能になるはずだ。
米の買い占めと転売についても、忍者さんたちも、だいぶ慣れてきたようだ。
計算もできるようになってきたし、売り買いの勘所もつかめてきたみたいだ。
もちろん簡単ではないけど、俺がすべて指示しなくても、正直屋の番頭たちで、売買で儲けてくれたら嬉しい。
少しずつでいいからね。頑張れ!
正直屋は瀑益継続! 銭がどんどん貯まっていく。
とはいえ、こういう時ほど――商売敵にイチャモンつけられる。
対策を考えておかないとな。
……いや、いっそイチャモンつけられる前に、そういう店を傘下に組み入れるか、あるいは潰してしまえばいいだけか。
商いの世界も戦と同じ。容赦はなしだ。戦国時代ということ忘れたらダメだ。食うか食われるかだ。
ところで――
傘下に加えた商人たちを集めて、“ザ・商社正直屋コンツェルン”を作るのも面白そうだな。系列店も増やしていこう。商人の世界で天下統一するほうが、意外と早かったりして?
それもまた、面白そうじゃないか。
遠い未来、戦国時代が終わって平和な時代が来たら――
“ザ・商社正直屋コンツェルン”が大活躍すると思う。




