157話 義賢の矜持と狂気
天文15年(1546年秋) ――15歳
六角家は根こそぎの総動員をかけたようだ。総勢15,000人のうち5,000人を、目賀田綱清を大将に据えて、日野城に攻めかからせてきた。
しかし、ライフル隊の弾幕とクロスボウ隊による榴弾攻撃により、兵たちは城のそばにすら近づけない。
ダーン! ダーン! ダーン!
ズドーン! ズドーン! ズドーン!
爆風が地を裂き、敵陣のど真ん中に火柱が立つ。
兵に持たせている二重の盾や竹束も、榴弾攻撃の前には無力だった。城門に寄りつくどころか、攻撃のたびに兵が減っていく。
『守りが固すぎる。それに、こちらの兵はすでに半数に減っている。撤退すべきか? それとも攻撃を続けるべきか?』
そう――“攻撃を継続するか?”、“いったん引くか?”、心に迷いが出てきたのだ。
その時──
日野城の城門が開いた。
城から槍兵1,500人と、ライフル隊1,000人が勢いよく出撃。
敵が進退に迷い始める瞬間を見逃さなかったのだ。
ライフル隊が銃を連射する。
ダーン! ダーン! ダーン!
ダーン! ダーン! ダーン!
目賀田の兵が、次々となぎ倒される。兵たちが一斉に浮足立つ。
そこに、槍隊が突撃する。
混乱と絶望の中――
藤堂虎高の怒声が、戦場に突き刺さった。
「目賀田綱清、討ち取ったり――ッ!」
その声は勝鬨となり、戦の帰趨を決した。
***
一方、甲賀では勘助と義賢の戦いが始まっている。
義賢率いる兵1万の陣容は、本陣に旗本500人、前衛が槍隊9,000人、その後ろに弓隊500人という布陣だ。
義賢の攻撃開始の合図を受けて、前衛の槍隊9,000人のうち5,000人が、弓隊は全員が前進を始める。本陣の守りは槍兵4,000人と旗本500人。
前進する槍隊5,000人の先頭には、盾を2枚重ねたものを持たせている。前方の盾で銃弾を防ぎつつ、後衛の弓隊が敵の陣形を崩したところで、槍隊が一気に押し込む作戦だ。
本陣で義賢は、薄笑いを浮かべながら上機嫌だった。
「北畠家ごときが、名門六角家に歯向かえると思うなよ。六角家を裏切った甲賀はもちろん、伊賀も皆殺しにしてやる。降伏など絶対に許さぬ。伊賀に溜め込んでいる銭もすべて奪い尽くしてやる」
目は血走り、顔は怒気と興奮で醜く歪んでいた。
「前進している部隊に伝令を出せ。北畠の兵を皆殺しにせよ。敵にやられて逃げ帰ってくるような弱兵は斬り捨てろ」と義賢が得意げに伝令の若者へ命じる。
伝令の若者は、その言葉に一瞬たじろいだが、すぐに駆け出していった。
義賢は満足そうに、薄く笑みを浮かべた。
その姿は、もはや狂気と紙一重であった。
一方の勘助は、陣の前方に深さ1m程度の堀を作り、その土を前方に盛り上げて土手を築いている。土手の前には柵も設けられており、その上には盾を持った槍隊1,000人が並ぶ。
ライフル隊は堀の中から、並べられた盾の隙間に銃口を差し出して、敵の槍隊に狙いを定めている。榴弾クロスボウ隊は、ライフル隊の両脇に500人ずつ配置されている。
敵兵が300m以内に近づいたタイミングで、ライフル隊が盾の隙間から一斉に弾幕を張り始める。ライフル隊の両脇では爆弾クロスボウ隊が、弓隊に向けて榴弾を撃ち込む。
ダーン! ダーン! ダーン!
ズドーン! ズドーン! ズドーン!
敵の弓兵たちが吹き飛んでいく。
敵槍隊の前衛が抱える盾も、ライフル隊との距離が縮まるにつれ、貫通力を増した弾丸の前では、もはや意味をなさなくなる。
ダーン! ダーン! ダーン!
ズドーン! ズドーン! ズドーン!
爆弾クロスボウ隊の榴弾が敵弓隊を直撃し、隊列ごと吹き飛ばしていく。ライフル隊は容赦なく銃弾を浴びせ続け、敵槍隊5,000人はすでに2,000人ほどまで減少している。
弾幕の音と爆炎の中に、兵たちの悲鳴と恐怖が入り混じる。
兵の中から不安の声が漏れてくる。
「お、おい……おれたち……前に出れば出るほど、死ぬぞ……」
「盾を……貫通してる! こんなもん、意味ねえよ!」
「誰だよ、“奴らの銃なんて怖くない”とか言ったやつは! ウソじゃねえか!」
「う、後ろに下がろう。もうムリだ……!」
進軍スピードも著しく低下し、敵の足取りは明らかに鈍っていた。
もうすぐ進軍は完全に止まりそうだ。
義賢が血走って目をして叫ぶ!
「何をしておるのだ! 槍隊に死ぬ気で突撃しろと伝えるのだ! 名門六角家の兵士に臆病者はいらぬ! 死を恐れるな! 伝令! 今言ったことを伝えてこい!」




