15話 風説の流布は忍者の特技
天文5年(1536年 初夏)――5歳
今川家の跡目争いに便乗し、米5,000石の転売ビジネスが成立した!
畿内で仕入れた5,000石の米――仕入れ値は2,500貫、つまり約3億円相当。
それが、なんと……!
12,500貫(約15億円)で売れたのだ!
爆益! 爆益! 笑うしかない!
いや、本当に安心したよ。なにしろこれ、俺にとって初の大プロジェクトだったからね。もし失敗していたら、伊賀に帰る顔なんてなかったかもしれない。
でも、運は俺に味方してくれた!
さらに――別口で買い占めていた米5,000石。
ちょうどその頃、京では「法華の乱」と呼ばれる焼き討ち事件が発生!
大名や商人たちが、慌てて米を買い漁りはじめた。
当然、米の値段は暴騰!
その米を――米相場で一儲けしようと目をギラつかせる堺の商人たちに転売!
売値はなんと……10倍の25,000貫(約30億円)!
あっははははっ……笑いが止まらんぞ、これ!!
この取引の裏では、伊賀忍者総出で風説の流布をやりまくっていたからね。
さぞかし皆があわてたことだろう。
「今買わないと米がなくなるぞ」
「三好家が京に攻め込むぞ」
「来年は飢饉が来るぞ」
などなど、ありとあらゆる噂を流した。
戦国時代には、前世のような取り締まりもない!
風説の流布なんか、やりたい放題。
もうね、いくらでも相場が操作できるんだよ!
この噂に釣られた堺の強欲商人たちには、しっかりと最高値で米を売りつけてやった。いや〜、いいカモだったな。
損をした商人たちには――「今後は地道にやりなよ」と優しく忠告しておこう。
……もちろん、心の中ではニヤニヤしながら、ね。
堺の店には、とりあえず5,000貫を残しておくことにした。
残りの銭は、当然ながら次の米の買い占め資金へ回す!
今度は“買い占め”だけじゃない。
“売り崩し”も仕掛けてみようか――米相場の。
……だってさ、米相場なんて、忍者がいれば無敵なんだよ?
情報操作、流言飛語、謀略の数々……なんでもアリ!
儲け放題ってわけだ。
それはそうと――オヤジは俺のこと、どう思ってるんだろう?
頼もしいと思ってる? 心配してる? それとも……ちょっと怖がってる?
……ま、気にしないでおこう。
さて、大儲けした銭で、家畜(馬・牛・鶏)や蕎麦・麦の種を大量購入。
伊賀の村で米作りが難しい土地や、隙間みたいな空き地にも、麦や蕎麦をどんどん植えさせるつもりだ。
ちなみに当時の日本には、“食肉禁止”の禁令がある。
天武天皇が「牛馬犬猿鶏の肉を喰うべからず」と命じ、聖武天皇が「殺生禁断の令」を出した影響で、家畜である牛や馬、犬、鶏は食べるべからずとされていた。ただし鹿と猪は除くみたいだ。
だが俺は、そんな禁令なんか――完全に無視するつもり!
家畜が増えたら、ありがたく食べさせていただきますとも!
鶏の唐揚げに、牛のステーキ……
食べたいに決まってるよね!?
誰だってそうでしょ!?
それだけじゃない。
猪も近隣の山から、“生きたまま”捕獲してくるように、すでに指示済み。
家畜化して、いずれは……トンカツに! フフフ……
ちなみに一応気になって、伊賀では昔からどうしていたのか、オヤジに聞いてみたところ――
「伊賀では四つ足なんか、とっくの昔から食っとるぞ!」
……うん、ですよねぇ〜〜〜!
まあ、腹が減れば何でも食うよな。当たり前の話だった。
何はともあれ、俺のおかげで――
伊賀には、驚くほどの銭が転がり込んできた!
その結果、最近ではみんな、俺の言うことを素直に聞いてくれるようになってきた。
うん、やっぱり“実績”ってのは、ありがたいもんだよ。世の中、そういうもんだ。
ちなみに俺も、一応“忍者の卵”ってことで、
伊賀流の“組み打ち術”の稽古が始まっている。
とはいえ、まだ子どもの体だ。
だから、今はかなり緩〜く、優しく指導してもらっている。
で、道順の評価はというと――
「若の才能は……普通ですね」
……うん。やる気、なくなるわ、それ。
俺って“褒められて伸びるタイプ”なんだけどな!
ちなみに――
1つ年下の藤林保正君も、俺と一緒に修行中だ。
で、彼の評価はというと……
「見どころあり」
……って、道順がニッコリ言ってた。
いや、いいんだけどさ。別に嫉妬とかじゃないよ?
でも、ちょっとだけ……心がざわつくよね!
「若は、若が得意なことを伸ばせば良いのです」
そう言ってくれた道順には感謝してる。
うん、優しい人だ。
だけど――
俺の“得意なこと”って、いったい何だ?
皆は、俺のことをどう見てるんだろうか?
……ちょっとだけ、気になってきた。




