146話 大戦略発動
天文15年(1546年秋)――15歳
歴史が、少しずつ変わり始めている。
前世の歴史とは異なり、河東の件に俺が介入したことで、武田家・今川家・北条家による“史実にある三国同盟”は成立しなかった。
武田家は北信濃に侵攻しようにも、背中を預けるはずだった北条家と同盟が結べなかったことが原因で、北信濃への侵攻を中止した。
北信濃の強豪――村上義清との戦いもなくなり、現在では村上家とは“不戦同盟”を結んでいる。
前世の歴史では、武田家が村上家を破り、さらに北へと領土を広げていく。その過程で、上杉謙信との“川中島の激戦”が何度も繰り返されたのだ。
その歴史の中で、勘助は命を落としている。
だが、俺が歴史へ介入したことによって――そのイベントはなくなった。
その代わりに、武田家は今川家・斎藤家・長尾家・関東管領の上杉家(憲政)と、“五カ国同盟”の締結に成功した。まさに大連合の結成だ。
盟主は、関東管領・上杉憲政。
もっとも……無能な憲政……こいつはただのお飾りに過ぎないけどね。
この“大連合”が狙っているのは、北畠家と北条家。
今川家・武田家・斎藤家が狙うのは北畠領。
長尾家と上杉家が狙うのは北条領――というわけだ。
「こんな大掛かりな同盟を作られて……大変迷惑ですよ! 我らになにするつもり?即刻、大連合をやめてもらっていいですか?」──なんて言っても、止めるような奴らじゃない。
どいつもこいつも、“腹が減ったら、持ってるやつから奪え。渡さないなら殺してしまえ”という人たち。素晴らしいね、シンプルで。
優秀な頭脳を、もうちょっと別の方向に使ってくれないかな……
(やっぱり早々にこの戦国の世から退場してもらうしかない)
「大連合が怖くないの?」って、そりゃ怖いよ。
信玄、景虎(謙信)、義元、道三という恐ろしい奴ばかりが、束になって襲ってくるんだもん。
戦国時代の有名人たちが揃いも揃って、北畠と北条に襲いかかってくる。
少しでも下手を打てば、即アウト……あの世に退場だ。
「その中で、誰が一番怖い?」と聞かれたら、そりゃもちろん長尾景虎だよ。軍事の天才だからね!
(越後の強兵を、天才的な閃きで指揮されたら、誰だって勝てる気がしないでしょ)
(恐怖、恐怖だよ)
軍神さん相手に、自慢のライフルをずらりと並べたとしてもだよ……正攻法で攻めてくるはずがない……。
(“どう攻めてくるか?”、“何を仕掛けてくるか?”、まったく予想不能だ)
(天才の閃きに勝てる奴はいない)
はっきり言って怖い。
俺は凡人。天才には勝てる気がしない。
そうなのだよ……後の上杉謙信こと長尾景虎こそが、最大の懸案事項。
とにかく、こいつが戦の経験を積んで、“軍神”に成長する前に、どんな手を使ってでも始末しなければならない。神になったら終わりだぞ。
軍神に比べれば、はっきり言って信玄や義元、道三なんて“優等生レベル”。
つまり、“そこまで怖くない”のだ。動きが読めるからね。
じゃあ、天才をどう料理するかって……?
そりゃもう、天才を“凡人の群れ”に放り込んで、身動きできなくするしかないでしょ。
(だって凡人ってすごいんだよ!)
天才の才能を削り、輝きを曇らせ、最終的には“ただの人”に仕立て上げるプロフェッショナルなんだ。
世の中には、凡人の手で凡人に変えられた天才がゴロゴロいる。
ね、面白いだろ? ムフフ。
しかもだよ、“キング・オブ・アホ”な奴が率いる凡人の群れに放り込んでやれば完璧だと思わない!
その“キング・オブ・アホ”は誰かって……上杉憲政に決まってるじゃないか……
だからね……景虎を何としても、アホの上杉憲政の指揮下に放り込まないとダメなんだ。放り込んでおけばアホの憲政と凡人たちが、景虎を凡人に変えてくれる。天才の閃きは凡人の中に埋もれてしまうだろう。
憲政の指揮下に景虎をはめ込んだら、長尾家・上杉家には北条家を攻めてもらう。今川家・武田家・斎藤家には北畠家を攻めてもらう。
北畠家と北条家は同盟を結んで、大連合軍に対抗し、これを打ち破る。信玄、謙信、義元、道三という恐ろしい奴らにはこの世から消えてもらう。
良さそうな作戦でしょ。
氏康さんには、蝦夷に行く途中で説明したけどね。すごく喜んでもらいました。
俺は、氏康さんに信用されてるな。
これで、今川家・武田家・斎藤家・長尾家を一気に始末できるし、“軍神”も始末できる。そう考えると、ちょっと痛快ですらあるな。
***
その作戦を実現するために……
そのために、去年から上杉憲政のもとに、優秀なる……“くの一お姉さん”たちを送り込んでいるわけね。
憲政は、酒にも女にもだらしない。
しかも、管領としての能力もゼロ。戦の才能もゼロ。
オールゼロ。通信簿オールゼロの落第人材。
──最高の素材がいてくれて助かる。
持っているものといえば、“管領の家に生まれた”という、ありがたい肩書きのみ。
それ以外はオールゼロ。
こんな素晴らしい人材が関東にいてくれて、本当に感謝しかない。




