145話 洋風結婚式
天文15年(1546年夏)15歳
「保正は、俺の護衛を務めてくれているが、幼い頃からずっと一緒に育ってきた。もはや兄弟同然だ。一緒に、祝いの日を迎えようじゃないか」
こうして、結婚式の準備が少しずつ進んでいく。
装飾、衣装、料理――やることは山ほどあるけれど、こういう忙しさなら大歓迎だ。
みんな笑っていて、空気もやさしい。
……うん、こういうの、悪くないな。
***
……そして迎えた、特別な日。
今日は、俺とサラ、保正とルーシー――
二組の門出を祝う結婚式だ。
サラとルーシーは、結婚式に向けて張り切っていた。
2人は「洋風の式典に合わせて、皆さんの衣装も、私たちに考えさせてください」と申し出てくれたのだ。
俺や保正、妻たち、そして母や重臣たちの奥方にまで――どんな服を着てみたいか、色や形の好み、思い描くスタイルを丁寧に聞き取っていく。
そしてその希望をもとに、礼装やドレスのイメージ図を1枚1枚、丁寧に描き上げていった。
異国の文化を感じさせるそのデザインに、皆も興味津々――
「こんなの着たことない!」
「どんな髪型が合うかしら」
――皆が目を輝かせて大騒ぎだ。
女性たちの輪の中には、いつの間にか笑顔があふれている。
ドレス案が決まったようだ。
「この案をもとに職人に作らせておく。楽しみにしておいてくれ」
……(職人は、俺だけどね)
俺は、“至高の匠スキル”で、ドレスをどんどん作成していった。
もちろんサイズは分からないので、何通りか作っておいた。
余れば、サイズの合う他の女性にプレゼントすればいい。
『蝦夷に職人さん……いたっけ?』とか疑問は持つかもしれないが……
『神童ならそんなものか』と思ってくれるに違いない。
いつの時代でも女性たちは、こういうのが楽しいのだ。
希望を聞きながらアクセサリーや靴なんかも作ってあげたら、大喜び、大騒ぎだ。
『誰がどう作った?』
そんなこと、彼女たちにはどうでもいいのだ。
それにしても……結婚式……忘れてないか?
もうビーツで砂糖も作っている。卵も小麦粉もそろっている。
泡立て器などの道具は、至高の匠スキルで作成済みだ。
数日前から試行錯誤でウエディングケーキを作らせている。
「これができないと結婚式はできないんだぞ」と料理人に伝えたら、必死の努力で、及第点レベルのウエディングケーキが完成した。
戦国ウエディングケーキだ。なんか感慨深い。
料理はアイヌから肉や魚をもらった。豪華な肉・魚料理がどんどん作られていく。
1品だけ、俺が食べたい料理を追加してもらった。
その料理は――ピザだ。
至高の匠スキルでピザ窯を作成した。
チーズは伊賀の牧場を作った時から改良を進めてきており、最近は良い出来になってきている。
皆の感想を聞いて、好評なら“正直屋ピザ店”でも作ろうかな。
ピザの店が流行るようなら、チーズも販売開始しよう。
ピザは料理人にレシピを伝えて、数日間チャレンジさせている。
これもウエディングケーキと同じぐらいの期間で完成した。
仕上げにワインなのだが、伊賀守の時から山葡萄を使ったワイン造りをさせているものの、前世で飲んだような味にならないのだ。
少し甘いような気がする。お酒に弱い女性向きかもしれない
早く売り物にしたい気はあるのだが……やはり葡萄の種類が色々と関係するのかもしれないな。
料理に華を添えるべく、式で使用するグラスを至高の匠スキルで作成してみた。
前世でも使っていた“ベネチアングラス風のワイングラス”と、ウイスキーを飲むための“ショットグラス”だ。
“ガラス製品”も伊賀守の時から試行錯誤させているが、まだ売り物になるレベルではない。
デザインはともかく、基本技術レベルは向上してきているので、俺が作ったグラスを見本にチャレンジさせよう。
(職人は生涯チャレンジだよ)
結婚式が開宴し、妻や重臣たちの妻たちがドレスに着飾って登場。
重臣たちもビックリだ。惚れ直したかな?
もちろん、俺と保正は西洋風の正装だ。
このドレスは堺や京で売れそうかな?
……俺はそんなことばかり考えているな。ダメだ、もう癖になっている。
宴が始まると、呑兵衛たちがワインに群がる。好評そうだ。
しかし、呑兵衛たちはすぐに澄酒や焼酎の方に流れていく。
やはりワインはイマイチの出来なのかな。
あるいは、早く酔えるのを美味いと感じるのか?
(いっぱい食べれたから美味い的な……)
それにしても、グラスにももう少し注目してほしいぞ。
飲めれば何でも良いのか? 呑兵衛オヤジども! グラス。グラスに注目しろよ!
幸隆だけだな、グラスを褒めてくれるのは! わかってくれて嬉しいよ。
呑兵衛オヤジと女性たちは違うようだ――
「この色具合いいわね」
「この形が優雅ね」
――しっかり吟味しながら褒めてくれる。
価値が分かるのは、頼りになるのはやはり女性だ。
呑兵衛ども、女性を見習え。飲んでるだけじゃダメだぞ。
普光に「これ、公家の奥方たちに売れそうか?」と尋ねてみた。
即答――「間違いなく売れます」とのことだ。
よし、さっそく各種デザインの試作品を、主上や普光の親しい公家筋に送りつけよう。まずはマーケット・リサーチからだ。ここを外すわけにはいかない。
そして、ワイン造りにも本格的に取り組みたい。
そのテコ入れ役は、サラとルーシーにお願いしようと思う。
とはいえ……山葡萄ではなく、ちゃんとしたワイン向きの葡萄が欲しい。
問題は、それをどうやって手に入れるかだ。
そもそも、日本にはどんな葡萄が自生しているのだろう?
その辺は――山を知る者に聞くのが早いな。信濃衆なら詳しいはずだ。
……気づけば、また信濃衆に頼っている。
彼らの力には助けられてばかりだ。
ピザだが――これは女性・男性問わず大好評。
まずピザを流行らせておいて、チーズの販売という順番かな?
旨いチーズ、これもサラとルーシー案件にしよう。
産品がまた増えるな。
久しぶりに楽しく過ごせた。
しかし、そろそろ餓狼たちが動き始めるな。
戦の時間がまた始まるだろう。
優秀な部下たちだ。そのことは分かっていると思う。
今日をしっかり楽しんでほしい。




