144話 蝦夷丸を乗りこなせ
天文15年(1546年夏)15歳
俺は航海練習中の蝦夷丸に乗船している。
九鬼の話では、今年中には乗りこなせるらしい。
“船を壊してもいいから乗りこなせ”というやり方は、上達が早いに決まっているよ。
大金を叩いて購入した船だったら、こんな無茶でもったいないことはできないけどね。壊れたらまた作ればいいというのは本当に助かる。
ただし、“学ぶより慣れろ”方式の操船訓練中は、危ないので函館の港が見える範囲で航行訓練をしてもらっている。
デッキにいる俺の横には妻たち、サラ、ルーシーが立っている。その後ろには若手武将たちと、乗船を希望した兵たちが並んでいる。
船から眺める蝦夷も、なかなかのものだ。皆さん、楽しんでいるかな?
「風がなくなっても動くというのは便利だろ!」と九鬼に話しかける。
「船の速さにも驚きました。海兵たちも大喜びです。玄武王様、素晴らしい船をありがとうございます」
(“新しいおもちゃをありがとう“と言うかと思ったぞ)
船速は日本丸の2から3倍ぐらいかな。
まあ、速さうんぬんよりも、風がなくても動くのが何より良い。ベタ凪が何日も続いて、大海原で飢え死にとか……絶対お断りだ。
この時代では、SOS連絡で救助を求めることなんてできないからね。
「この船を乗りこなしたら、外国に行ってみたくないか? もちろん、日の本が安定してからだが、どうだ?」
「行きたいです。絶対行きたいです。海で生きる者の夢ですから!」
「年中暑い国や、年中寒い国もある。肌の色が真っ黒な人たちの国もあるぞ。象という、蔵よりデカい動物や、建物の2階に届くほど、首が長い動物もいる。面白いだろ!」
「象という動物は見てみたいです。何だかワクワクしますね」
「俺も行きたいのだ。そのためには、さっさと日の本を平らげないといけないのだ」
「はい。さっさと片付けましょう。海戦はお任せください」
「この船の操船に慣れてきたら、迫撃砲や大型ライフルなどの武器も訓練しておいてくれ」
「もちろんです。この船の方がキャラック船と比べて揺れが少ないようです。武器の攻撃精度はかなり高くなると思います」
「期待しているぞ!」
サラがこちらにやってきた。
「サラ、この船は変わっていて面白いだろ?」
「はい! こんなに速くて快適な船、フランスでもポルトガルでも見たことがありません。蝦夷国の技術は本当にすごいです。私、この国に来て本当によかったと思っています!」
サラが目を輝かせている。
「いや……まあ、その、いろいろ工夫を凝らしてな……船大工たちの努力の賜物というやつだ」
(……褒められると、ちょっと…… これ、“スキル”で作ったチート船なんで……)
「今すぐは無理だが、この船ならヨーロッパまで行くこともできる。……サラは、自分の生まれた国に帰りたいと思うか?」
「……戻ったところで、待っているのは死だけです」
静かに言い切るサラ。
ルーシーの方を見ると、同じように悲しげに頷いていた。
「そうか……。じゃあ、これから先、君たちはどうしたい?」
「できることなら……この国に、ずっと住まわせていただけますか?」
「もちろんだ。好きなだけいればいい。無理に働かなくてもいいし、気楽に過ごしてくれ。もし気に入った男がいれば、結婚して、家庭を持つのもいいだろう」
「でしたら――玄武王様の妻にしていただく、というのは……可能でしょうか?」
「え、俺……か? うーん……いや、それでサラが幸せになれるのなら……俺は構わないけど……。ただ、俺には妻がたくさんいてだな……彼女たちの了承が必要だと……」
ちらりと妻たちを見ると――
皆そろって優しく笑いながら、「おめでとう、サラ……」と祝福の言葉を口にしていた。
……そういうことらしい。
「よし、サラの希望を聞いて、洋風の結婚式を挙げようか」
そう提案すると、妻たちは目を輝かせながら大賛成。
どうやら、異国の文化に触れるのが楽しくて仕方がないようだ。
「それと……もう一つ、ルーシーの件なのですが」
「ルーシー? 体調でも崩したのか?」
「いえ、病気ではありません。……どうやら彼女、藤林保正様にご好意を抱いているようです」
「……ほう?」
俺は自然と保正の方を見る。
保正の顔が、みるみる赤くなっていく。
その赤さはもう、熟れすぎた柿かってくらいだ。
(おお……まさかの、保正……)
(なんにせよ――見直したぞ、保正)




