131話 蝦夷国宮殿
天文14年(1545年秋)――14歳
港の浮桟橋に接舷すると、乗船していた人々が順々に船を降りていく。まずは家臣たちや移住者、そして兵士たち。人波が途切れると、今度は大量の積荷と家畜が次々と下ろされていく。
積荷の運搬には、前回の訪問時に俺が製作した大八車が活躍している。
広々と整備された道を、2列になって往来しながら、荷が滞りなく運ばれていく様子はなかなか壮観だ。
舗装はいまだ仮のもので粗削りではあるが――
いずれは“至高の匠スキル”によって、本格的な石畳へと造り替えるつもりでいる。
一行は、案内役の兵士に先導されながら、重臣一族を先頭にして城へと向かっていく。
そのあとに文官や移住者たちが整然と続いた。
一方で、オヤジたちと特殊部隊の面々は、手分けして周辺の地形調査と、管理事務所周辺の警備にあたっている。
管理事務所に残っているのは、俺の家族をはじめ、平井定武、重臣たちの妻女たち、そして北条家のご一行といった面々。
先に出発した一団を見送りながら、ひとまず皆でお茶を囲み、しばしの休息を取っていた。
そんな中、管理事務所の前に、馬車がゆっくりと10台並んで姿を現した。
これも大八車同様、前回に“至高の匠スキル”でこしらえておいた特製の馬車だ。
もちろん板バネによるクッション付きで、牛車よりは格段に乗り心地がいい……はず。たぶん。
「では皆さん、そろそろ城へ向かいましょう」
俺がそう促すと、一同は順々に馬車へと乗り込んでいった。
そのとき、定武が馬車の窓から外の景色を見て、ぽつりと呟いた。
「それにしても……あの土手ですが、やけにデカくないですか」
「あの土手は、一辺が長さ550間くらいあります。土手の内側は、これから時間を掛けて大きな街にしていく予定です」
俺は少し誇らしげに続ける。
「まだ見えませんが、土手の内側の中央にドーンと建ってるのが宮殿です。外国らしく見えるように、思いっきり南蛮風にしています。北条家の皆様には、ぜひ“異国情緒”をご堪能くださいませ」
ちょっとだけ、ガイド風に説明すると、北条家のご婦人方がクスッと笑いながら馬車の揺れに身を任せた。
スタイリッシュな西洋風の馬車の内装にも皆が目を丸くした。
宮殿までは歩けない距離ではないが、これはちょっとした“お楽しみ”として用意したものなのだ。
妻たちは思いがけない“乗り物アトラクション”に大はしゃぎ。その様子を見ている俺も、なんだか嬉しくなってくる。
やがて馬車がゆっくりと動き出し、舗装された道を進み始めた。
妻たちは揺れる車窓から景色を眺め、目を輝かせながら、あれこれ声を上げている。
やがて、土手に設けられた大きな門をくぐる。
――そしてその先に広がる光景に、思わず息を呑む声が漏れた。
「え……土手の中って、広いですね?」
「住居や兵舎みたいな建物もあるし、畑も牧場もある……道路も整ってて、立派に街の形になってますね!」
「ここに人が増えたら、本当に立派な王都になりそうですわ……」
妻たちは口々に感嘆の声を上げながら、まるで夢の中を進むような顔で外を見つめている。
馬車はそのまま、門から宮殿へとまっすぐ伸びる大通りを進んでいく。
やがて、遠くに見えていた異国風の建物が徐々にその姿をはっきりと現し始めた。
南蛮様式を取り入れたその建築は、この地にあってひときわ異彩を放ち、圧倒的な存在感を放っている。
建物の意匠はまだ見慣れないだろうが、その華やかさと威厳は誰の目にも明らかだろう。妻たちは言葉を失ったまま、馬車の中でしばしその光景に見入っていた。
宮殿がいよいよ目前に迫る。
金属製のフェンスに囲まれた建物は、内部に広がる庭園と美しく調和しており、まさに王の権威を体現するにふさわしい佇まいだ。
フェンスの港側にある大門がゆっくりと開かれ、その間を馬車が通り抜けていく。
左右に広がる庭園は丁寧に手入れされ、石畳の道沿いには、礼装を整えた兵士たちが一糸乱れぬ隊列で並び、馬車に向かって深く頭を下げていた。
そのさらに奥には、蝦夷に残っていた若手の武将たちが整列しており、その最後尾には幸隆の姿も見える。緊張と誇りが入り混じった空気が、場に静かな威厳をもたらしていた。
やがて、馬車は宮殿の正面玄関前で静かに停車する。
妻たちや北条家の人々が、一人ずつ馬車から降り立ち、初めて目にする宮殿の威容にしばし見入っていた。




