128話 隠居と建国準備
天文14年(1545年・秋)――14歳
山科のおっさんのアドバイスをもらいながら——いや、正確に言えば「アドバイスという名の有料情報」を一つ一つお金で買い取りながら——なんとか普光女王の降嫁に伴う一連のセレモニーを無事に終えることができた。
なにせ、すべてが初体験。俺も家臣たちも知らないことだらけで、頭も体もクタクタだ。
……しばらく静養が必要だな、ほんとに。
ともあれ、普光は無事に俺の妻となった。そこで間髪入れずに、信長を俺の養子とすることを正式に宣言。
家臣たちには事前に根回し済みだったので、「おお、ついに来たか」くらいの反応で、誰も驚きもしなかった。
そして、そのまま俺は信長への“代替わり”を済ませ、すべての官位を辞した。
さらに山科のおっさんから「信長公が、従五位上・北畠伊勢守に叙任されたぞ」との知らせを受ける。
うんうん、さすが仕事が早い。請求書もたぶん早いだろうけど。
しかし……俺って世間からどう見られているんだろう?
恐れ多くも“主上の姫を娶った身”でありながら、間もなくして隠居し、伊勢の山奥で静かに暮らす――などと聞けば、変わり者どころか、かなりの風変わりとして世間に受け取られても不思議ではない。
しかも、まだ14歳での隠居とあっては——
「一体、どうしちゃったの?」
「神童は老いるのも早いのか?」
……そんな声が、あちこちから聞こえてきそうだ。
(心配する者もいれば、不審に思う者もいるだろう。まあ、当然だ)
ともかく今は、蝦夷国の体制が整うまでは、“表向きは隠棲中”という建前で通しきるしかない。
『やっぱり神童って、何かと変わってるよね』——
世の中の人々が、そう受け止めてくれれば……それでいい。むしろ、その方が都合がいいのだ。
それに、こっちにもやっておかないといけないことが山ほどあるのだよ。
婚姻によって、俺と親戚となっちゃった人々——さらにその一族まるごとを、蝦夷国へ連れていくつもりでいる。
なぜかって?
それは、いずれ俺が蝦夷国の存在を公にしたとき、俺と縁戚関係にある者たちが、とばっちりで、とんでもなく危険な目に遭う可能性があるからだ。
特に、平井家の動向には細心の注意が必要だ。
すでに平井定武には隠居してもらい、家督は嫡男へと譲らせている。
定武本人とその妻、そして次男をはじめとする“蝦夷行きを希望する関係者一同”には、すでに蝦夷国への移住を準備してもらっている。
とはいえ、家督を継いだばかりの嫡男まで、すぐに動かすわけにはいかない。
だが、いずれ機を見て、目立たぬようこちらに移ってもらうつもりだ。
……まあ、いっそ“夜逃げ”でも構わないのだが、平井家としての面子もあろう。
そういう配慮は必要だと思っている。
まあ、定頼さんのように筋の通った人物なら安心なのだが……
問題は義賢。あいつは、何をやらかすか読めないところがあるからな。
慎重に動くに越したことはない。
蝦夷国からの海産物などは、すべて商社・正直屋を通じて販売しまくった。その売上で、米や麦、蕎麦などの穀物を大量に買い入れ、家畜類も数多く積み込む計画である。
そして、今回の航海では——
学校の卒業生の中から選抜した文官100名、常備兵2,000人、さらに蝦夷への移住を希望する農民500人を乗船させ、日本丸50隻を使って蝦夷国へ向かうつもりだ。
もちろん、いつものようにオヤジたちと特殊部隊も、俺とともに行動だ。
蝦夷国で大きな戦が起こるとは考えにくい。したがって、今回の2,000名の常備兵には、警備任務だけでなく、黒鍬衆の手伝いとして建設現場でも働いてもらうつもりだ。その方が体が鈍らないからね。
これから増えるかもしれない移住希望者については、今後も伊勢と蝦夷の間を、随時ピストン輸送するつもりでいる。
松坂港には、すでに日本丸50隻が整然と停泊している。俺が松坂に戻ってから、“至高の匠スキル”で少しずつ創造して、ようやくこの台数を揃えたのだ。
幸い、“忍者リクルーター”たちの尽力もあって、海兵の数も着実に増えてきている。操船要員の不足を心配せずに済むのは、本当にありがたいことだ。
その一方で、地方で「○○水軍」などと名乗っていた中小規模の海賊衆たちは、かなりの数が減っているはずだ。
優秀な若者がこぞって海軍に志願してくれているからだろう。結果として、海の治安もずいぶん良くなっていると思う。まさに“平和な海”への第一歩だ。
今回の航海では、防寒グッズはもちろん、羽布団や毛布などの寝具も山ほど積み込んでいる。蝦夷の冬は厳しいからな、備えあれば憂いなしだ。
ただ、やはり羊毛が欲しいところだな……。この寒さに対抗するには、やはり天然素材が頼りになる。落ち着いたら、どこかの国と直接貿易して、羊を手に入れるとしよう。
羊毛だけじゃなく、食用にもなる。
前世では、ジンギスカン料理って呼ばれていたけど、すごく美味かった記憶がある。




