125話 主上との対面
天文14年(1545年初夏)――14歳
蝦夷から持ってきた石炭だが、大島に倉庫を作らせ、その中に保管することにした。いずれ蝦夷で蒸気船を作る予定であり、大島は石炭の補給基地とするつもりだ。
帰りの船の中で、海軍の連中に蒸気機関の仕組みを理解してもらうため、前世で購入したことがある教材用の蒸気機関モデルを、“至高の匠スキル”で3個作成した。
この教材は卓上サイズながら、非常に本格的な構造をしている。水蒸気を発生させるための小型ボイラーに加え、実際に火を起こして加熱するための小窯まで備わっているのだ。
さらに、蒸気の圧力によって駆動するピストンの直線運動が、スライダークランク機構を通して滑らかにフライホイールの回転運動へと変換されていく様子を、目の前でリアルに体験できるようになっている。
教材としては、なかなかのクオリティ。
何より、“目で見て理解できる”というのがいい。
完成した教材は、3セットに分けて配布する予定だ。1つは、海兵たちの参考になるよう、実務にあたる海軍の本部に展示。
もう1つは、伊勢の地に設立したばかりの海軍学校に送り、若い士官候補生たちの教材として役立ててもらおう。
そして、最後の1つは俺の手元に残しておく。これは講義の際にデモンストレーションとして使うつもりだ。
続けて、前世でプラモデルを作った経験がある“黒船・サスケハナ号”だ。
その1/150スケールモデルを“至高の匠スキル”で作ろう。
こちらも同様に、1隻は海軍の拠点に、もう1隻は海軍学校へと送り、残りの1隻は自分用に大切に保管する。
この2種類の模型を通じて、少しでも多くの海軍関係者たちが、蒸気機関という新たな技術に親しみを持ち、その仕組みを理解し、蒸気船という新時代の乗り物に順応してくれればと思っている。
……どうかな……無理かな……?
***
日本丸とともに、俺は松坂に戻ってきた。
すぐさま山科のおっさんに連絡を取り、主上に拝謁できないか調整を依頼した。
このおっさん、基本的に“金さえ積めば何でもやってくれる。
もちろんそれなりに費用はかかるが——いざというときに、こちらの期待以上の働きをしてくれる。まったく、頼り甲斐のある便利な男だ。
主上との会談で、“蝦夷国の建国”について正式に説明しなければならない。そして、その話の展開によっては、“普光女王との婚約破棄”という結末も十分にあり得る。
さらに悪い方向へ話が転がれば、とんでもない事態に発展しかねない。
最悪、俺の首が胴体から離れる未来も想定しておくべきだろう。
念のため、特殊部隊200名に護衛を頼んでおいた。
主上が蝦夷国の建国をお認めくだされば、それが最善だ。
だが――もしその場の空気が一変し、険悪なものとなれば、自らの命を守るため、即座に伊賀へ向けて全力で撤退するしかない。
……その先に何が起こるかなど、考えるのも憚られる。
だが――この交渉は、命を懸ける価値があるのだ。
“普光女王の降嫁について、内々に話す”という建前で、山科のおっさんに根回しを頼んでおいたのだが……ようやく主上から「よかろう」とのお返事が下ったらしい。
設定としては——主上が、たまたま渡り廊下をお歩きの途中で、俺の“独り言”を偶然耳にした……という、なんともまどろっこしいシナリオ。
……なんだろうね? こういうの。正直、現在人の俺にとっては、面倒極まりないけどね。それが天皇の権威というものなのかな。
とはいえ、これでようやく主上と“サシで話す”チャンスを得たわけだ。
御所に入ると、案内役の人に誘導され、指定された場所まで連れて行かれた。
渡り廊下の途中、軒下に据えられた小さな待機所——風が吹くたびに木々が揺れ、かすかに葉擦れの音だけが耳に届く。
(いや、静かすぎて逆に落ち着かないんですけど)
やがて遠くから足音が聞こえてくる。だんだんこちらに近づいてくる。丹田に力を込め、気合いを入れる。大事な話だ。下手を打てば、“北畠VSオール日の本”になる可能性があるからな。
(そうなったら結構ヤバいかも!)
(北条家も敵になったりしてな)
(家臣たちはどうなんだ。俺に付いてきてくるのか?)
心配してもしかたない。
そうなったら、さっさと蝦夷国に逃げて、ずっと引きこもりでいい。
前代未聞の命懸け交渉になるな。
(ハードル高すぎだろ)
「伊勢守。直接会うのは初めてだな。長島の土地を献上してくれたこと、頼もしく思うぞ。普光のことを末永く頼むぞ」
「本日はお会いできる機会を頂き、祝着至極にございます。ところで主上に少しお話がございます。軒下にて勝手に呟きますので、お聞き届けいただけますでしょうか」
「婿になる男じゃ。どういう話か聞こうじゃないか」
(なんか圧がすごい! これが天皇のオーラというものか!)




