116話 蝦夷への再出航
天文14年(1545年・春)―― 14歳
“至高の匠スキル”を使って、日本丸を最終的に50隻まで増やしていくもりだ。ついでに、松坂の港もこのスキルでドーンと整備してしまう予定。
建国に向けては、やはり頼りになるのが“至高の匠スキル”である。
とはいえ、このスキル――どうやら万能というわけでもないらしい。
たとえばキャラック船なら、一度に造れるのはせいぜい5隻まで。しかも、スキルを全力で使い切ると、しばらく“クールタイム”に突入する。だいたい5日間くらいかな。
建物のほうも同じで、あんまり巨大なものは一発では無理。どうも“1回で出せる大きさ・重さ”みたいな制限があるようだ。ゲームで言うなら、“MP不足でスキル発動失敗”みたいな感じ。
よく分からないことは、いろいろ試している最中だ。
キャラック船は1隻あたり約200名を収容できる。50隻を保有すれば、最大で1万人規模の集団移動も可能となる計算だ。もちろん食料や武器なんかも乗せるわけだから、200人目一杯は乗船できないと思う。
今回の蝦夷派遣部隊は、工藤祐長・森可成が率いる兵2,000を主力とし、これに精鋭の特殊部隊400名が同行する。
参謀は真田幸隆、彼の息子の信綱は経験を積ませるために同行することになっている。護衛役としては、冨田勢源と藤林保正の2名だ。
また、将来を有望視する若者――木下藤吉郎と嶋清興の2人も小姓として同行。
今回は見聞を広げ、実地の空気を感じさせることを目的としている。
内政官20名、建設を担う黒鍬善右衛門率いる黒鍬衆300名、そして信濃出身の移住希望者100名もあわせて連れていく。
この者たちは、もし蝦夷での建国をアイヌに拒まれた場合には、この者たちは無駄足となる可能性がある。しかし、俺はアイヌとの交渉はなんとなく上手くいく気がするため、見切り発車で連れていくことにしたのだ。
当然ながら、越冬に備えた衣類・食糧・住居資材などの物資は万全を期して積載する。さらに、アイヌの人々へのお土産、交易に用いる各種の物資も大量に準備した。
家畜については、鶏、牛、馬、猪など多岐にわたる。運搬可能な限りの数を積み込み、現地での繁殖と定着を目指す計画である。……(これも見切り発車だ)
加えて、蝦夷での厳しい冬を見据え、防寒具の整備にも力を入れている。現在はダウンコートを急ピッチで大量に製作中だ。
もっとも“ダウン”といっても、伊賀や伊勢で食用にした鶏から採った羽を利用したものだが、それでも保温性は十分だ。あわせて手袋や履物の準備も進めている。
これらの衣類は、寒冷地の冬を実際に経験してきた真田の郎党たちの意見を取り入れながら、職人たちによって開発を進めたものだ。
至高の匠スキルを使えば一気に完成させることもできるが、できるかぎりこの時代の人々の技術と労力に委ねたいと考えている。
移住を希望する者たちには、小麦や蕎麦の種子、種籾に加えて農具も持たせることにした。……(交渉が上手くいかなかったら、次々とお持ち帰りになるが、しかたあるまい)
伊賀と伊勢に残る家臣たちには、勘助を総指揮とし、領国の防衛に万全を期すよう命じておいた。
(勘助と信長がいれば、伊賀・伊勢、さらには南近江も守り抜いてくれるはずだ)
(また、望月が率いる甲賀の特殊部隊500名は、心強い戦力になるだろう)
***
俺は、日本丸30隻を率いて松坂港を出港した。
初めて船に乗る者が大勢いる。
あまり揺れないでくれよ。
船に酔わない者は富士の景色を楽しんでいる。
その後、船団は順調に航海を進め、中継補給基地として整備を進めていた大島の港に、無事たどり着いた。
船酔いしている者もいたため、大島ではしっかりと休養を取らせることにした。
ここで物資の補給を済ませ、数日後には再び蝦夷を目指して出航するつもりだ。
なお、今回は北条家への立ち寄りは見送ることに決めた。
蝦夷に新たな国を築こうとするのだ。
北条家は一切関わりないとした方が、迷惑がかからないと判断したのだ。
(それだけ、俺がやろうとしていることは“危険な一手”だということだ)
***
数日後――俺たちは再び蝦夷へ向けて船出した。
三陸沖では少し揺れが大きくなったが、順調に航行していく。
船の進みは、前よりも若干軽やかに感じられる。
操船技術が向上してきている証拠だろう。
三陸沖を抜けると、波も穏やか、船旅はいたって快適となる。
やがて蝦夷の陸地が見えてきた。
「まもなく前回と同じ浜辺に到着します」と定隆。
確かに、以前に来た記憶にある入江へ、船が近づいていく。
前回訪れた際に、海軍が作成しておいた水深マップがあるため、入江への進入路にも迷いはない。東には襟裳岬と思しき地形が、そして西には渡島半島と思われる半島が見える。位置は間違っていないようだ。
陸地のほうでは、数人の人影がこちらに向かって手を振っている。おそらく、昨年ともに酒を酌み交わしたアイヌの人々だろう。
我らの船が来たことが良くわかったものだな。常に海を見張っている者がいるのかもしれない。あとで詳しく聞いてみたい。
アイヌの人々の横で、ひときわ大きく手を振っているのは、居残っていた忍びたちだな。あれから言葉を覚えてくれただろうか。
再会を楽しみにしているぞ。




