115話 海軍募集
天文14年(1545年春)――14歳
蝦夷に国を築くため、今年の初夏、再び蝦夷へ向かうことを決めた。
現在は、そのための準備に大忙し。もちろん、蝦夷にいきなり押しかけて、「今日からここは我が領地なり!」などと無茶を言うつもりは毛頭ない。
俺は版図が広がったことだけで、ニヤニヤするアホ大名じゃないからな。
目的は、幕府や寺社、公家といった旧来の権威の影響を受けない、新たな勢力の基盤をアイヌと一緒になって蝦夷に築くことにある。
領土の拡大そのものが目的となっては、日の本に跋扈する餓狼の如き脳筋大名たちと、何も変わらぬことになってしまう。
ゆえに、もしアイヌの人々がこの構想を「ノーサンキュー」と拒むのであれば、潔く蝦夷における建国案を畳んで撤退するつもりでいる。
ただその場合でも、友好関係を保ちつつ、笑顔で交易の継続はお願いしようと思っている。
「物々交換だけは頼むね……!」――そんな感じだ。
蝦夷の品々はどれも一級品、交易だけでも十二分にうまみがあるからね。建国の構想は改めて別の地で練り直せばよいのだから。
さて、日本丸の増産計画にともない、志摩衆には“海軍の増員”を最優先事項として命じている。
“親戚の親戚かもレベルまで、細い繋がりをたどって”――そんな感じで、とにかくあらゆる伝手を使い、海兵の確保に奔走してもらっている。
とはいえ、この戦国時代。他国へ赴くのは、 “お気楽なお出かけ”では済まないのだ。
道中には、追いはぎや山賊がうようよしており、旅行気分どころか、命がけのミッションなのである。
中には、“戦跡で拾ってきた槍や刀を、こっそり隠し持っている農民”なんていう、物騒な武装農家も少なくないのだ。
つまり、見かけが素朴であっても、うっかり背後は見せられない。
油断大敵、常に警戒。
そんなとんでも乱世において、最も頼りになる存在――それは忍者。
いいね。忍者! 何でもできる。
志摩衆の広大な人脈網に乗って、各地に散った“忍者リクルーター”たちが、今日も水面下で動いている。
海賊たちの酒宴に入れてもらって、さりげなく「ちょっと稼げる話があるんだが……」と耳打ち。でもね……焼酎を土産にすればいつもウエルカムらしい。
交渉上手、潜入上手、そして口が堅い――この三拍子揃った“忍者リクルーター”が、じわじわと志摩ブランドの海軍を増やしてくれているのだ。
痩せた土地に生まれ育ち、田畑は石ころだらけ。作物もろくに育たず、飢えに飢えて、仕方なく“船を襲う”という選択肢に手を伸ばす。
そういう貧しい人たちが、海賊衆と呼ばれているにすぎない。
“生きるための最後の手段”なのだ。
もちろん、襲撃だって簡単じゃない、命がけだ。
襲う相手も戦闘慣れしているし、護衛を雇っていたりする。
相手の反撃を受ければ、自分の命が吹き飛ぶ。襲撃が成功し、命が無事でも、戦果となると大勢の仲間と山分け――取り分なんかごくわずか。
そんな現実に耐えながら、今日も飢えをしのぐ。
海の民は、ロマンどころか、胃袋との戦いが日々続いているだけだ。
そんな彼らの耳に、“忍者リクルーター”の口説き文句が刺さらないわけがない。
「北畠の海軍に加わりませんか? これは海賊の募集ではありません。正規の海兵の募集です。給金も支給され、毎日、腹いっぱい飯が食べられます――今こそ決断の時……」
飢えにあえぐ者たちにとって、それはまさに救いの言葉。
その口上に、最初は半信半疑だった海賊たちも、次第に耳がダンボになる。
「えっ……腹いっぱい? しかも毎日? 酒も飲めんのか……?」
「それ、ウソ話じゃないだろうな!」
「決して、ウソではありません。ウソを言うためにこんな遠くまで来ませんから!」
忍者リクルーターが海賊たちの質問に1つ1つ答えていく。
「本当だな? そんな暮らしがあるなら、行くに決まってるじゃないか!」
「志摩まで行けばいいんだな。家族連れて行くぞ! ウソじゃないな!」
「こんなところで、海賊やってても先が見えてる。あんたについてきゃいいのか?」
海賊たちが目を輝かせて、“忍者リクルーター”を見つめる。
志摩の地を目指し、遠く瀬戸内や九州からも、海兵としての応募者が続々と集まり始めているという。
***
北畠では、志摩衆を「海軍」と呼んでいる。
海軍には大将が必要だ。そこで、一番覇気のある九鬼定隆を海軍大将に任命した。現時点では、海軍大将の位は侍大将と同格としている。
採用された元・海賊たちには、海兵としての過酷な訓練が待っている。
それを頑張って、新たな人生をチャレンジしてもらいたい。
ところで、海兵のスカウト活動を展開している時も、相変わらず小規模な忍者集団が現れては「我らもお役に立ちたい」と参入を申し出てくる。
そのおかげで、海兵の確保と同時に、腕の立つ忍者たちも数多く迎え入れることができている。
特殊部隊の補強も着実に進んでいくだろう。




