113話 旧勢力との対峙も必要
天文14年(1545年冬)――14歳
「30年は長いな。勘助も幸隆も、その頃にはすっかり老境だろう。俺も信長も、相応の歳になっているはずだ。ところで、天下統一戦において、幕府は北畠にどう対応してくると思うか?」
――3人の意見をまとめると、こうなる。
これまでの歴史を振り返れば、突出した力を持つ大名が現れたとき、幕府は他の諸大名に呼びかけて、その勢力に対して力の抑制あるいは排除を図ってきた。
俺がこの先、本気で覇を唱えるようになれば、幕府が「北畠を討つべし!」と全国の大名に命じる展開が想定される。前世で、信長が酷い目にあってたやつだ。
つまり、天下統一の過程においては、“幕府を解体”するのか、北畠が“将軍家の地位を継承”するのか、あるいは幕府という“制度そのものを形骸化”させていくのか――いずれにしても、あらかじめ明確な方針と、そのための準備が必要だ。
“幕府をどうするか”を、有耶無耶にはできない。
その際には、政治的な策謀を巡らす必要が出てくる。銭と利権による懐柔だよ。
多数派工作ってやつ。
だがそれを行う際においても、特定の勢力に過度に癒着すれば、いずれ手痛いしっぺ返しを食らう可能性がある。先を見据えれば癒着はダメだ。完全に“操作”できる関係を築いておくべきだろう。
まったく、室町幕府というのは厄介で不要な代物だぞ。
頭にきた誰かが倒幕してくれれば、どれほど楽か……。
いや、いっそ誰かに倒させるのがいいかな。綺麗さっぱりとね。
謀略を仕掛ける相手だが――うん、やっぱり三好家あたりが良さそう。
前世でも、幕府を襲撃して義輝を斬り殺しているという実績があるからな。
まあ、そう簡単なことではない……要検討としておこう。
「では、天下統一戦において、寺社勢力はどう動くと思う?」
――3人の見解をまとめると、こうなる。
寺社というのは基本的に、大名の支配から距離を置き、自分たちの儲けと権益が無傷である限りは、戦乱にも中立を装って静観する。
だが、我らが一度でも隙を見せようものなら、その瞬間に“神仏の名を借りたご都合主義介入”、ちゃっかり権益を広げにくる可能性が高い。
普段は牙を見せないが、隙を見せた瞬間、どこからともなく噛みついてくる。
……(こんなの、ばーかしだ)
実際、力づくで排除しようにも――
「尊い信仰を穢された」
「神仏に弓引いた」
――などと騒がれ、かえってこちらが悪者扱いされかねない。
だからこそ、手を打つなら“誰もが納得する理由”――それらしい“大義名分”が必要となるだろう。
「では、朝廷および有力公家たちは、どのように動くと見ている?」
――3人の意見をまとめると、こうなる。
主上と婚姻によって結ばれている以上、朝廷は中立、もしくは北畠家に好意的な立場を取る可能性が高い。
とはいえ、天下統一が成るまでは慎重に距離を保ち、いざ事が成就したと見るや否や、一斉に北畠家に擦り寄ってくる。
目的はもちろん、北畠家の威光を巧みに利用し、失った公家の儲けと権威を取り戻すことだ。
俺も同意見だ。
公家たちは「我こそが日の本の正統なる支配者である」との自負を胸に抱いているが、肝心の統治能力は見当たらない。
直ちに脅威とはならぬものの、政の足を引っ張る可能性は大いにある。
できることなら、どこか静かな場所に“上品にご隠居”いただければ、ありがたいのだが……。
「北畠は、どの大名や寺社を相手にしても、個別の戦では勝利しうる戦力を有している。
しかし、複数の抵抗勢力が結束すれば、さすがに苦戦は免れない。
これを回避するには、どのような手立てが考えられるか?」
――3人の見解をまとめると、こうなる。
すべての勢力を一度に敵に回すのは得策ではない。
だからこそ、どこか一つ、あるいは複数の勢力と一時的に同盟を結ぶのが、天下取りの定石である。
もちろん、同盟関係を築くとなれば、相手にはそれなりの特権や権益を認めなければならない。……(これが面倒だし、嫌だな)
いずれ天下を握った暁には――うまいこと難癖をつけて、じわじわと“お引き取り”願う必要がある。……(嫌がられるだろーな)
……要するに、“使えるうちは味方、用済みになれば疎遠に”というやつだな。
そう、天下取りってのは、腹黒くなければ務まらないということだな。
……(家康は腹黒たぬきと言われてたんだっけ)
現実的で、政治的にも有効な手法だとは思う。
ただ、それだけに後世の史書には――“冷酷非情な策士”などと書かれてしまうかもしれない。
「大名たちを屈服させるのに30年。
そこに、幕府・寺社・公家といった旧勢力を完全に無力化するまで含めたら……いったい何年かかると思う?」
……皆の見立ては、だいたい50年。
やっぱしか。
ある程度は覚悟していたが――あらためて現実を突きつけられると、やっぱり気が重い。
「そうなると、この国が真に生まれ変わるのは、俺たちの子ども――いや、孫の世代になるな。もし、その子や孫に才覚がなければ、また最初からやり直しということになるか? ……それは辛い!」
思えば、信長、秀吉、家康。
あの3人が成し遂げたことの凄まじさとありがたさを――今さらながら思い知る。
「では、幕府・寺社・公家といった旧勢力を、先に排除するというのはどうだ?」
この問いに対しては、3人とも口を揃えた――
「北畠が、全国の大名を徹底的に弱体化、あるいは制圧しきった後でなければ、
旧勢力に手を出すべきではない。時期を誤れば、国内外の反発を招き、かえって立場を危うくする恐れがある」
――とね。
「つまり、どれだけ急いでも、民はこれから先、50年ものあいだ苦しみに耐えねばならない。しかも子や孫の器量次第では、再び戦の世に逆戻りするかもしれないとなるのか」
「それじゃ、いつまで経っても民は救われないではないな。――何か、打開の手はないのか?」
やっぱり俺も、家康みたいに常識外れの長命を目指すしかないのだろうか。
……うん、さすがにそれはパスしたい。
3人は黙したまま。妙案はなさそうだ。
――俺の誇る頭脳たちよ、いまこそ光る一手はないのか……。




