108話 北条家の領地が増える
天文13年(1544年秋)――13歳
降伏した里見海賊との交渉は長綱さんにバトンタッチした。
長綱さんと風魔小太郎らしき人、そして特殊部隊の一部が短艇で入江に向かう。
長綱さんたちの前に、海賊衆が全員土下座しているのが見える。
城からも村からも、ボロボロになった人たちが次々と海岸に集まり、砂浜が"土下座の花"で満開だ。
交渉開始から半刻が経過。
まあ俺は、見てるだけだから楽ちんだ。
前世では東京湾で釣り船に乗って、タコ釣りに挑戦したことがある。……結果は惨敗。釣れるのはゴミばっかり。
カニの代わりに引っかかったビニール袋をチョンチョンしてたおじさんが、なぜかタコを釣り上げてたっけ。あのときは複雑な気分だったな。
それにしても、戦国時代の東京湾は本当にきれいだ。
ビニールゴミなんてあるわけもなく、海の色も前世とはまるで別物。
まるでCGかってくらい青い。
交渉を待つ間、ついあれこれ考えてしまう。
やっぱり、平和がいちばんだよな。
長綱さんがどうやって交渉したのかは分からないけど、この一帯の海賊たちは全員、北条家の配下になったらしい。壊れてボロボロの城までもが北条家の持ち物になったそうだ。
この辺りは房総半島の先っぽに近い。たぶん、前世でいうところの館山あたりだろうな?
(こんな飛び地の領地なんていらない。だからここの場所もどうでもいい!)
人質を連れて戻ってきた長綱さんいわく、「戦で勝ったのは北畠。この城と海賊たちをこの後どうするかは、小田原で相談させていただきたい」とのこと。
(正直いって里見なんかの領地をもらっても、こっちは管理が大変なだけで……)
それはそうと、里見の海賊たちが日本丸をキョロキョロと眺め回している。
まあ、あれだけ武装された船を見れば、そりゃ興味も湧くよな。
(海賊なら、なおさらか)
とにかく、こんな領地は北条家にプレゼントしよう。北条家なら交渉次第で、里見領のほかの城と交換もできるだろうし、城と賠償金を引き換えにするなど有効活用ができるはず。
「ところで、この近所に里見の海賊の港は他にもありますか?」と長綱さんに尋ねてみた。
「ここから北に3里ほどのところに、海賊の入り江があったと思います」
「ついでなので、そこも潰しておきましょう」
と俺が言うと、長綱さんがニヤリと微笑んだ。
(頼もしい婿殿……って顔してるな。でもまだ婿じゃないけどね)
日本丸は北に向けて12kmほど移動開始。
このあたり、前世でいうところの勝山って場所かな?
たしか、海水浴場もあったような……行ったことはないけど。
入り江には、安宅船が1隻、関船が4隻、小早船が40隻。
合計45隻が仲良く並んで停泊中。……わあ、見事な標的。
しかし相変わらず、どれもボロ船。
しかも、ちょっと丘を登れば、小ぢんまりとしたお城まである。
全部、迫撃砲の射程圏内だ。
これはもう、「片付けてください」と言わんばかりの配置じゃないか。
ならば、遠慮なく――きれいサッパリ、ぜんぶお掃除。
大型ライフルとグレネードランチャーを使って、安宅船、関船、小早船をどんどん沈めていく。
ドゴンッ! ドゴンッ! ドゴンッ!
ドゴンッ! ドゴンッ! ドゴンッ!
ドシュッ! ドシュッ! ドシュッ!
ドシュッ! ドシュッ! ドシュッ!
船が沈んだら、次は城だ。
まずは一発、迫撃砲の弾が、“トゥーンッ!”と空を切り裂いたかと思えば、城門近くの見張り櫓が派手に吹き飛ぶ。
(いきなり命中か)
土煙とともに、わらわらと飛び出してきた兵たち、「敵襲〜っ!」と絶叫しているような気がする。
距離がアジャストできれば、後は連射するだけ。
トゥーンッ! トゥーンッ! トゥーンッ!
ドゴォンッ! ドゴォンッ! ドゴォンッ!
城は半壊というところか。
『攻撃やめ』の合図を手旗信号で伝える。
(うんうん、海からの城攻撃って……意外と使えるじゃないか)
(これは、今後の作戦に応用できるね)
降伏した里見海賊との交渉は、いつもどおり長綱さんのお仕事。
交渉スタートから降伏完了まで、館山のときと同じ流れ。
展開が“定型”すぎて、途中で眠くなりそうだった。
ともあれ、この一帯の海賊たちも、北条家の配下に加わった。
ついでに、あのボロ城も「北条家のもの」ということに。
……またしても、領地拡大。めでたしめでたしか。
(……いや、ちょっと増えすぎじゃない? 北条家)
関東にまったく縁もゆかりもない北畠家が、
ここまで出張って里見家を追い詰めるのも……さすがに気が引ける。
というわけで、今回はここまでにして、
さっさと小田原に帰ることにした。
もう海賊は出てこないし、風は追い風。
波は穏やか、空は晴天なり。




