106話 実戦演習、始まる!
天文13年(1544年秋)――13歳
目の前に――ほら、グレネードランチャーとか対戦車ライフルの訓練標的が、どっさり浮かんでくれている。
確かに……見た目は悪いよ、とんでもなくボロ船ばかり。
でもね、いい〜んです! 射撃訓練場だから。
安宅船に関船、小早船まで、大中小さまざまなサイズを取り揃えた、豪華なラインナップ。ちゃんと自動で動くからね。最高だよ。
一番多いのは小早船。
小粒で可愛い見た目のくせに、侮れない機動力タイプだ。
日本丸に積んでる短艇よりも、ひとまわりデカい。
人も武器も一杯詰めそうな、戦闘仕様のガチ小型船だぞ。
ちなみにうちの短艇は、完全に運搬特化。
コンパクト&安全第一の設計。
さて、海賊の編成はというと――
安宅船が5隻、関船が25隻、小早船が70隻、しめて合計100隻なり!
……いやいや、本物の“動く敵艦隊”で実戦訓練ができるなんて、こんな豪華なシチュエーション、二度と来ないでしょ。
里見さん、ほんとありがとう。心から感謝ね。
たぶん、向こうのフンドシ海賊たちは、俺たちがなぜここまで喜んでいるのかサッパリわかってない。まあ……長綱さんも、おそらく同じ顔してる。
でも、こっちとしてはテンション爆上がりなんです。
本物の的が、チョロチョロ動いてるからね? しかも100隻も。
だからこそ、ここで一気に短距離からバンバン殲滅しちゃうなんて――もったいな〜い。
せっかくだから、じっくり味わっていこうじゃないか。
大事に、大切に、1隻ずつ丁寧に……“実戦サンプル”として堪能しよう。
手旗信号で、『距離を取れ』と指示。
海軍衆は即座に理解したようで、日本丸はスッと旋回し、後方へと静かに下がっていく。
すると、案の定――
フンドシおやじたちが「逃がしてなるものかァ!」とばかりに、鼻息荒く追いかけてくる。
黄色くてガタガタの歯を剥き出しにして、まさに“全力のキモキモ顔”である。
……こっちが君らを誘ってるんだけどね。
ねえ、聞いてる?
「あぁ〜ん! 里見海賊が怖いのかよ〜! 逃げてもムダだぞ〜! イヒヒヒヒッ!」
なんて喚きながら、フンドシ姿で大興奮中。
いやもう、こっちとしてはむしろ「頼むから逃げないで!」って気持ちなんですが。
とはいえ、あんまり速く逃げてしまうと「なんか怪しいな……」と勘づかれてしまう恐れもある。
そこで日本丸の航行速度は、ほどよく“追えるギリギリ”にセーブ。
これがとても難しい。
海軍衆、いい判断だ。よく分かってるね。
いい操船技術だ。まさにプロ。
ある程度距離が取れたところで、用意していた日本丸5隻が――ピシッと横一列に展開。目標との距離、およそ600m。
もちろん、この時代にしては超画期的な装備――
俺お手製の“測距儀”を搭載済み。距離は結構正確に測れますからね。
文明の利器って最高だよなあ。
それにしても、安宅船と関船の遅さは相変わらずだな。
まあ、あの重さと構造じゃ無理もないか。
一方、小早船たちは少しだけ速く、ジリジリと先行してきている。
先頭のフンドシおやじたちは、すっかり勝った気でいるらしく――
歯を剥き、鼻を膨らませ、勝鬨の予行練習でもしてそうな勢いだ。
……うん、いいよ、そのまま真っ直ぐ来てくれ。
君らの人生のクライマックスが待っているよ。
「殿! 小早船との距離、500mに迫ります!」
その報告にうなずき、俺は即座に手旗信号で命じた。
『目標、小早船。大型ライフル、撃ち方始め』
ドゴンッ! ドゴンッ! ドゴンッ!
ドゴンッ! ドゴンッ! ドゴンッ!
雷鳴のような銃声が、日本丸5隻から一斉に響き渡る。
今回は実戦訓練だ。貴重なチャンスを活かすため、交代で射手を回しながら、1隻あたり3丁の大型ライフルを同時運用。つまり、15発が一斉に敵船を襲う。
ドゴンッ! ドゴンッ! ドゴンッ!
ドゴンッ! ドゴンッ! ドゴンッ!
小早船の船体に、次々と大穴が穿たれ、水しぶきを上げて沈んでいく。
「な、なんじゃあアアァーーーッ!? 船が……船がァァァァ!」
「穴が……! 貫通しとるぅぅぅ! どうしてくれるんだ?」
フンドシおやじたちが、黄色い歯をむき出しにして大絶叫。
だが現実は容赦ない。
小早船70隻のうち、40隻が一瞬で海の藻屑と化す。
生き残った連中は、慌てふためきながら安宅船や関船の背後へと逃げ込もうとする。
俺は、すかさず次の指示を手旗信号で連絡させる。
『小早船への攻撃中止! 目標は右端の安宅船1隻と関船1隻! 大型ライフル、撃ち方始め!』
ドゴンッ! ドゴンッ! ドゴンッ!
ドゴンッ! ドゴンッ! ドゴンッ!
今度は巨体を誇る安宅船、そして関船が狙い撃たれる。
だが、そこにいたフンドシおやじたちは――
「うおおお! じゃが……こいつはでっけぇから大丈夫よ……グハァッ!!」
「なんか船が……ギシギシいってるぅぅぅ! 高い船を、どうしてくれるんだ?」
おやじたちは、まさか自分たちの“安宅船や関船”まで、沈められるとは思っていなかったらしい。
しかし、大型ライフルの威力は木材の厚さなどお構いなし。
容赦なく撃ち抜き、沈没を加速させていく。
「殿! 安宅船と関船との距離、400mに接近!」
「よし、次はグレネードランチャーだ。目標は安宅船と関船。中央の安宅船だけは残せ。――撃ち方始め!」
ドシュッ! ドシュッ! ドシュッ!
ドシュッ! ドシュッ! ドシュッ!
火薬の煙をまといながら、爆音と共に飛ぶグレネード弾。
一隻につき1丁、計5発ずつの連続砲撃だが、炸裂した瞬間、木っ端みじんに吹き飛ぶ船体。練習のため打ち手を変えて繰り返す。
「ぎゃあああああッ! 今のは、何じゃあアレ!? 吹き飛んだ! 吹き飛んどるぞ!」
……もう完全に戦意喪失のフンドシおやじたち。
だが、中央の安宅船――大将がいると思われるそれだけは、あえて手を出さない。
誤って当たらなければいいのだが。
砲撃が止んだとき――
海は静寂に包まれていた。波の上に残されたのは、沈みゆく船の残骸と、悲鳴すら忘れて茫然とする海賊たちだけだった。
残りは、安宅船2隻、関船5隻、小早船30隻。
俺は、再び手旗信号を振らせる。
――『攻撃、停止』




