102話 アイヌとの遭遇
天文13年(1544年秋)――13歳
氏親くんの治療が終わり、氏康さんと話をしている。
「この力は豊穣神様から授かった力なのです。私はこの力と引き換えに“日の本から戦をなくし民を幸せにする”ことを神と約束することになったのです」
「それは、大変な約束をしたものだ。それにしても豊穣神様の“豊穣”とは、我が北条家の名と同じではないか? 豊穣神様と北条家は不思議な縁があるような気がする」と、氏康さんが感心している。
「北条家は、“豊穣神様”の加護を受けた北畠家と同盟を結びたいと思うがいかが?」と言ってくれた。
同盟の細かいことはお互いの家臣が詰めることにしよう。
たぶん港の利用と交易に関する取り決めになると思う。蝦夷貿易の中継地として、大いに利用させていただきたいしね。
明後日には蝦夷に出港する――という話を聞きつけて、早雲さんの子であり、北条家の外交を一手に担い、なおかつ氏康さんのご意見番的なポジションにある北条長綱さんが、「ぜひ船に乗せてほしい」と頼み込んできた。
……正直、気が重い。なのでダメ元で「船酔いとか……大丈夫ですか?」と聞いてみたんだけど、あっさり「問題ない」と言い切られてしまった。
どうせまた酔うのは俺だけなんでしょ? 情けない。
***
その長綱さん、家臣らしき大男を引き連れて、ずかずかと船に乗り込んでくる。蝦夷に興味があるっていうより、きっと「この神童、どんな奴か見てやろう」という偵察任務の方が本音だと思う。
で、その大男――どう見ても風魔だよね? ていうか、あの雰囲気……たぶん“本物”の風魔小太郎さんじゃない?
しかも、小太郎さんの横には、いかにも精鋭っぽい若者が2人付き従っている。
ってことは、この船にはオヤジたち3人と小太郎さんを合わせて、伝説級の忍者が4人も乗ってるってことか……いやなんか豪華だな。
ちなみに、山科のおっさんとは小田原城でしっかりお別れした……はず。
さすがに、これ以上の迷惑はご免こうむりたい。が、あの男のことだから、「あれ? なんでここに!?」みたいな顔で、船室のどこかから出てきてもおかしくない。
念のため、出航前に船内をくまなくチェックさせておこう。荷室の樽の中とか、天井裏とか、油断ならんからな……!
水と新鮮な野菜類を積み込んで、小田原港を出航した。
小太郎さんと俺のオヤジたちが、なんだか親しげに話し込んでいる。気が合うのか? 話が弾んでいるみたいだ。まあ“ご同業”だからね。積もる話もあるでしょう。
だけど……勝手に風魔から嫁をもらわないでね。
それだけは本気で勘弁。マジで。
***
快晴、快晴、速い、速い!
蝦夷には追い風だったので、あっという間に数日で到着しちゃいました。
北海道だ〜! なんかワクワクするぞ!
アイヌの人たち、いるかな? 早く会って話してみたいな。
ここは前世の苫小牧あたりかな。東に襟裳岬らしきものがあり、西に渡島半島らしきものが見える。きっとそうだろう。
前世の名前で言えば、苫小牧あたりなのかな。
まあ、細かい場所なんかどうでもいいのよ。
蝦夷にアイヌさんが住んでいれば、それで交易は成立だからね。
たしか渡島半島の方は、この時代だと蠣崎家が沿岸部を押さえていたはず。
でも、あんまり評判の良いことはしてなかったみたいだしなあ。
戦国時代の基本は「腹減ったの? だったら持ってるヤツから奪え」だからね。
碌な大名がいないんだよ、ほんとに。
アイヌさん、俺たちのこと歓迎してくれるかな……? 嫌われてないといいけど。
それにしても、蝦夷の先住民の呼び方は“アイヌ”でいいのかな?
まあいいか。そもそもアイヌ語すら分かんないし、通訳すらいないし! 気にしても仕方ない。
なんもわからんで、交易とかすごいな。行き当たりばったりすぎないか?
海兵たちから「これ以上、陸地に近づくと座礁の危険性があります」と言われ、日本丸は停船。錨をドボンと落として、しばらく海上待機だ。
俺たちが交易交渉している間、海軍の連中はヒマだろうから、ついでに簡単な地図でも描かせよう。ついでにこの辺の水深マップも。渡島半島の方もチェックしておきたいしな。
まずは偵察ということで、短艇でオヤジたちが数名上陸。
もちろん小太郎さんと、特殊部隊の精鋭たちも同行。なんかもう、映画の潜入チームみたいなシーンだ。
すると──前世のネット記事で見たような、アイヌの民族衣装らしき服を着た若者たちが、海岸近くの森からゾロゾロと現れた!
……全員、弓とか槍とか持ってるんですけど……!?
いや、ちょっと待て、大丈夫かこれ。話し合いの前に、戦にならないよな!?




