101話 山科、だまってろよ
天文13年(1544年秋)――13歳
そんな良い雰囲気のところに、例の山科のオッサンが――はい、割り込んできました……。図々しさ全開で。
「神童殿は、病も治せるとか。のう、ホホホ……ホホホ……ホホホ……」
ホホホが長ぇよ。そしてデカいよ。声量だけは無駄に通るな、その喉。
案の定、北条家の家臣団が一斉にこっちを注目。やめてくれ、マジで。
しかも相手は「嫡男の重い病」ときた。はい、もう超絶デリケート案件。
こういう他家の“微妙すぎる家庭の事情”に関わるのは、チョーNGなんだってば!
だってさ、見えないところで絶対いろんな思惑が渦巻いてるわけよ。
氏政くんを次の当主に推す派閥もいれば、当然氏親くんには“静かに退場していただきたい”と思ってる人たちもいる。
逆に、「いやいや、跡継ぎはまだ早いでしょ」と考えてる勢力だっているわけで――
そんな中で俺がうっかり失敗でもしようもんなら? 下手すりゃ、帰れないどころか、“消される”可能性すらある!
山科……お前、勝手に話を盛るな!
しかも、なに自分がオファー出した側みたいな顔してんの? お前、俺のマネージャーかよ。
こういうときの公家って、ホント信用ならん。
『失敗しても自分は無関係、成功すれば手柄はいただきます』――絶対そう思ってるだろ。
前世の会社にもいたよ、こういう“声だけでかくて責任ゼロの世渡り上手”。
なにか起きたら「言った覚えはない」とか平気で言い出すタイプ。マジで厄介。
『余計なこと言いやがって……いい加減にしとけよ、山科〜』
俺の家臣たちも、ギロッと鋭い目つきでオッサンを睨んでる。空気をちゃんと読める人材ばかりで助かる。
で、その空気を察したのか――山科のオッサン、ネズミのように素早く退散。
しかも北条家の城内を勝手に走ってるけど……あいつ、行き先あるのか? 適当にウロついてるだけじゃないのか?
まあ、あの図々しさと生命力なら、どこに転がり込んでも何とかなりそうだけどさ。
ただな……城ってのは、れっきとした防衛施設だぞ?
下手にウロウロしてたら「この間者め!」って斬られても文句は言えないからな?
……まあ、あの“ずぶとさ”と“恥知らず力”だけは、少し見習ってもいいかもしれない。ほんの少しだけな。
「治せるのですか!」と氏康さんファミリーの熱視線が突き刺さる。
視線が……重い。痛い。責任の圧がすごい。
『治せるのですか!!』が、全方位から押し寄せてくるじゃないか……。
まあ、そりゃそうなるよね。
余命わずかと言われた可愛い息子が目の前にいれば、親なら誰だって藁にもすがりたくなるさ。
尾張のどこぞの信秀みたいに、目が見えなくなった嫡男をあっさり切り捨てるような冷血とは違う。
きっと信長も「やっぱ自分の親父とは違うよな〜」って思ってるに違いない。
氏康さんの奥さん、瑞渓院さんも、さっきまで盛り上がってた重臣たちも、酒を手にしたままフリーズしてる。宴会場が、まさかの“し〜ん”状態。
おいおい、全員こっちガン見じゃないかよ。
こりゃもしも、「頑張ったんですが……なんか逆に具合が悪くなっちゃいました。いつもはうまくいくんですけどね……本当〜にゴメンナサ〜イ……」なんて展開になったら、はい終了〜!
北条家との有効ムード、即終了だぞ!
この空気の中で、「じゃ、そろそろ失礼します〜」なんて言いながら小田原城を出ていくとか無理だろ……。
そもそも今回の訪問は、“ちょっとお土産渡して顔見せ”、くらいの軽〜い予定だったんだぞ?
なのに……気がつけば訪問の空気が激重です。誰のせいだ? 山科だ!
山科〜〜〜、この件、一生忘れんからなっ!
治癒スキルがガンに効くかどうかなんて、正直、試したことないんだよね。
完全に未経験ゾーン。
何でも治せる万能薬ってわけじゃない。効かない病気だってあるはず。
ていうかさ、ガンって……前世でもめっちゃ難病だったはず!?
無理だって……氏康さん!
……と文句を言うヒマもなく、氏康さんに促されて隣の部屋へ。いや、これもう “連行”だよ。
そして宴会場のほうはというと――シーン……って、誰一人しゃべってねぇ!
空気重すぎて耳がキーンてなるわ!
しかも氏親派の家臣さん、盃じゃなくて刀なんか握ってないよね?
気楽な表敬訪問が、なんで、いきなり命懸けの医療ドラマになってんの!?
「治療に入る前に申し上げます。必ず治るとは限りません。全力を尽くします――」
まるでどこかの医療ドラマのきめセリフみたいだけど、とりあえず言っといた。
すると氏康さんが、「治らないと言われた病です。万が一、回復しなくても恨みません。どうか気になさらず」とありがたい言質をくれた。
よし! 公式に“責任問われません”をいただきました〜!
……とはいえ、もし治らなかったら気まずさMAXだよね。
「いや〜、全力は尽くしたんですけど(目そらし)」とか言っても、場が凍ること間違いなし。
「始めます」
……頼むぞ、失敗すんなよ。神様、スキル様!
俺は横になっている氏親君の腹にそっと手を当てる。
いつものように、手から光がぶわっと溢れてきた。襖の隙間からも光が漏れてて、外にいる家臣たちも「何ごと!?」って顔してるかもな。
以前より光の出力が強い気がするんだけど……神様のパワーアップ補正、ありがたし。
しかしまあ、冷静に考えるとだよ?
“手から光を出してガンが治る”って、理屈としては完全にファンタジー。
現代医学の権威が聞いたら卒倒するぞ。
でも治るからいいんだよ。
うん。細けぇことは気にすんな!
「ずっとこのまま、微睡んでいたい。春の日差しのようなフワ〜とした気持ちです」とニコニコしながら、氏親君がうれしそうに話をしてくれている。
スキルがパワーアップされてなかったら治せなかったかもね!
「父上、母上! 体がすっごく軽いのです!」
氏親君がいきなりムクッと起き上がったかと思えば、ピョンピョン跳ねてる!
ちょ、おい! そのまま走り出すなって! 誰か止めて〜!
慌てて腹部をもう一度確認。
……うん、硬くなっていたシコリは完全に消えてる。
俺の“手のひらセンサー”も、ピクリとも反応しない。ガン、完全消滅!
氏康さんも瑞渓院さんも、氏親君のお腹をそっと触れて確かめてる。
「どうだ、ここは痛くないか?」って、胃のあたりを優しく押してる姿が、なんかもう……良い家族すぎて泣ける。
尾張の信秀とは人間力が違うよ、ホントに。
神様、スキル様、ありがとう。マジでありがとう。
これで北条家との関係、地雷踏まずに済みました。
氏康さんファミリー、みんな涙ぐんでるし、瑞渓院さんなんか俺に手を合わせて拝んでるし!
よしよし、北条家訪問、これでバッチリ好印象。
……山科、お前さえ黙っててくれれば、最初から穏やかだったんだけどな!




