100話 氏親くんの病と北条家の絆
天文13年(1544年秋)――13歳
そういえば北条家には、戦国ファンなら誰でも知ってる有名武将がいたはず。
北条綱成さんだ。あの“地黄八幡”の異名を持つ、北条最強の猛将!
お〜、あの3人でそれらしい武将を囲んでワイワイ話してるな。
うんうん、ちゃんと仕事してるじゃない。ちょっと安心。
「お初にお目にかかりまする。工藤祐長にござります。こちらは森可成、そして織田信長です。今後ともよろしくお願い致しまする」
祐長が代表して丁寧に頭を下げると、綱成はニッと笑って手を振った。
「かたくるしい挨拶は抜きにしようや。お主ら3人、えらく若いのにしっかりしておるな。北畠の話は殿から聞いとる。なかなか面白い国づくりをしておるそうじゃないか!」
「面白いかどうかは分かりませぬが……民が笑って暮らせるよう、日々工夫しておるだけにございます」
「ふっ、良い心がけじゃ。民の笑顔を守るのが武士の役目よ。戦だけが能ではないからの」
綱成の言葉に、皆うなずいていた。
そのあと3人は、伊豆水軍を束ねる清水康英さんのところにご挨拶に向かう。
「清水殿。お初にお目にかかりまする。工藤祐長にござります。こちらは森可成、そして織田信長です。今後ともよろしくお願い致しまする」
「ふむ。お主らの船団、なかなか面白い造りじゃな。南蛮式か?」
「はい、学びながら模倣しつつ、我らなりの工夫を加えた船でござります」
「機会があればじっくりと見せてもらいたいものよ」
「何を言われます。北条家の水軍には遠く及びませぬぞ……」
おぉ〜、伊豆水軍を束ねる清水康英さんのとこにも挨拶にいってるな。さすがわかってるな。
伊勢に帰ってからも、友好関係をキープするためには文のやり取りとか、こまめに頼むよ? 筆まめ大事だからね。
……まあ、そんなこと言われなくてもわかってると思うけどね?
(彼らなら卒なくやってくれるはず。俺より優秀なメンツだからね)
確か氏政君には、氏親君というお兄さんがいたはず。
前世の歴史では、彼は早逝していた記憶がある。体が弱かったのかもしれない。
氏康さんの家族席をチラッと見てみると――あ、多分この子かな〜という感じの子が座っている。
……やっぱり、顔色が優れない。元気もなさそうだ。
俺は挨拶がてら、氏親君のところへ向かうことにした。
当主に挨拶したら、次は嫡男に挨拶――これ、外交マナーの基本。
うん、間近で見てもやっぱり体調がよくなさそうだ。どこが悪いのかな?
俺には神様からもらった“治癒スキル”がある。今までにも何度も治療で使ってきたし、経験も積んでるよ。
しかも、豊穣神から“至高の匠スキル”と“治癒スキル”の両方を“パワーアップ”してもらってるんだ。
治癒スキルもかなりレベルアップしているはず。
今や患者をちらっと見れば、だいたいの病気やケガの概要が分かるレベルになってきた。さらに少し触れれば、内部の状態までスキャンできる。
もうこれ、“スーパー検査装置”だし、“スーパードクター”だよ。
氏親君にそっと手をかざしてみたら――はい、きた。
“胃に小さなガン”……これが原因か。
(こんな可愛くて愛嬌たっぷりの子に、そんな過酷な現実があるなんて……)と思わず胸が痛む。
治癒スキルで助けられる可能性はある。あるけど……
もし失敗して体調を崩させてしまったら? それどころか、命にかかわることになったら?
……そうなった時には、北条家との関係が氷点下まで、冷え込むだろうね。
戦国武将である氏康さんは、俺の顔のちょっとした変化も見逃さない。
……え、なんでそんなジーッと見るの?
『お前、なんで分かった?』って目でガン見されてるんですけど。
怖い、怖い、怖い! その視線、刀より鋭いんだけど!
本来、VIPの健康状態なんてトップシークレットだ。
北条家としても、嫡男の体調が万全ではないなんて、本当は外に漏らしたくないはず。
でも――氏康さんは、苦しそうな表情を浮かべながらも打ち明けてくれた。
「医師からは、腹にしこりがあると言われており……無理をさせると、そう長くは……と」
たぶん、俺が一目で見抜いたことで、
「噂に聞く神童なら、もしかして……」とその可能性に賭けてくれたのだろう。
父親としての必死さが伝わってくる……なんだか胸が痛い。
いい父親だなあ。
なんかこの親子、見ててじんわりくる。ちょっと北条家、好きになっちゃいそう。




