表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/18

神話への序章

国王杯武闘大会から、数ヶ月が過ぎた。

決勝戦で『雷帝』ゼノンを打ち破った俺たちの名は、もはや王都で知らぬ者はいない、新たな伝説として吟遊詩人たちに歌われていた。


「おい、聞いたか? 新しいギルドができたらしいぞ!」

「ああ、あの武闘大会の覇者、ユウキたちが立ち上げたっていう……」


王都の一等地に、俺は新たなギルドを設立した。

仲間たち――リリアナ、ボルガ、そしてアストリアから呼び寄せたドワーフの店主と共に。


その名は、『物語の紡ぎ手』。


ただ依頼をこなすだけの、ありきたりなギルドじゃない。

かつての俺たちのような、力はないが、面白い「物語」を紡ぐ可能性を秘めた新人たちを発掘し、支援し、彼らの冒険が最高の「英雄譚」となるよう手助けする、全く新しい形のギルドだ。


(――まあ、俺に言わせれば、ここは俺の『チャンネル』で、やっていることは新人配信者の『プロデュース』なんだけどな)


「――ユウキ! こっちの新人パーティーの企画書、見たか!?」


ギルドの談話室で、ボルガが興奮したように声を張り上げる。


「『ゴブリンの巣に単身で乗り込み、伝説の剣を探す』だと!? 無茶苦茶だが、面白えじゃねえか!」

「まあまあ、ボルガさん。気持ちは分かりますが、安全面も考慮しないと」


リリアナが、やれやれと肩をすくめる。

ドワーフの親父は、カウンターの奥で、「その伝説の剣とやらを、この俺がいつか打ち直してやるのも一興か」と、満足げに髭を扱いている。


穏やかで、満ち足りた光景。

これが、俺が掴み取った、テッペンからの日常。


俺は、仲間たちとの笑い声に包まれながら、この平和がずっと続けばいいと、柄にもなく、そう思っていた。



そんなある日の、新人たちの冒険企画の配信(手助け)の最中だった。

突如として、《神々のインターフェイス》が、激しいノイズを発した。


『――■■■■■■■■■!』

『△△△△△、■■■■■!?』


いつもの見慣れた神々のコメントが、一瞬にして意味不明な記号の羅列に変わる。

ブツッ、とテレビの電源が落ちるような音と共に、インターフェイスは一度、完全に暗転した。


「……なんだ?」


俺の体に、悪寒が走る。

インターフェイスが、ではない。天上の、さらにその奥から、数多の巨大な「何か」が、一斉に俺に視線を向けたような、肌が粟立つほどの強烈なプレッシャー。

これまでに感じてきた神々の視線とは、格も、数も、次元が違っていた。


ノイズが収まり、インターフェイスに再び光が灯った時。

そこにはもう、いつもの賑やかなコメント欄は存在しなかった。

ただ、静寂だけが広がっている。


そして、その静寂の中心に、一つの紋章が、ゆっくりと浮かび上がってきた。

これまで一度も見たことのない、太陽のように眩い、黄金の紋章。


その紋章の下に表示されたのは、莫大なスパチャなどではない。ただ、静かに、絶対的な事実を告げる、たった一文の神託。

その一文が、俺がこれまで積み上げてきた全ての価値観を、根底から覆すことになるのを、俺はまだ、知らなかった。



俺は、ゴクリと生唾を飲み込み、インターフェイスに表示された、黄金の神託を読み上げた。


『――見事だ、人の子よ。だが、汝が登り詰めた頂は、我らが創りし、矮小な神々のための「遊戯盤」の頂に過ぎぬ』


「……遊戯盤……?」


その言葉の意味を、俺は、配信者として、そして、元ゲーマーとして、瞬時に理解してしまった。

俺たちが生きてきたこの世界。俺が戦ってきたこの舞台。それは、ただのゲーム盤だったのだ。

そして、俺たちがこれまで相手にしてきた神々は、プレイヤーですらない。そのゲーム盤の上で遊ぶことを許された、矮小な存在に過ぎないのだと。


Aランクは、あくまでこの「遊戯盤」における、人間の最高峰。

そのさらに上に、この遊戯盤を創りし「真の神々」が存在する。

彼らが求めるのは、ただの伝説じゃない。それを超越した、**「神話」**の物語。

すなわち、誰もたどり着いたことのない、Sランクの領域。


俺が、そのあまりにも壮大すぎる世界の真実に、言葉を失っていると、神託は、静かに、そして残酷に、続いた。


『汝の好敵手は、既にその神話への扉を叩いた』


「――ゼノン」


俺の口から、思わず、その名が漏れた。

敗北後、忽然と姿を消した、かつての帝王。

あいつもまた、この真実にたどり着いたのだ。そして、真の力を求め、俺よりも先に、神話への道を歩み始めている。


ぞくり、と。

武者震いが、背筋を駆け上がった。

闘技場の頂点テッペンは、ゴールではなかった。

それは、遥か高みに存在する、本物の「神話」の世界への、スタートラインに過ぎなかったのだ。



俺は、インターフェイスを閉じ、仲間たちへと向き直った。

ボルガも、リリアナも、ドワーフの親父も、ただならぬ俺の様子に、固唾を飲んで俺を見つめている。


俺は、天上の神々から告げられた、この世界の真実を、仲間たちに語って聞かせた。

この世界が、矮小な神々のための「遊戯盤」であること。

そのさらに上に、本物の「神話」を求める、「真の神々」が存在すること。

そして、Sランクへの道、その神話への扉を、好敵手であるゼノンが、既に叩いていることを。


あまりにも壮大で、荒唐無稽な話。

誰もが、言葉を失うだろうと、俺は思っていた。


だが。


「……面白え」


最初に沈黙を破ったのは、ボルガだった。

彼は、絶望するどころか、その口の端を吊り上げ、獰猛な、戦士の笑みを浮かべていた。


「神話、だと? 上等じゃねえか! てめえのライバルは、ゼノンだけじゃねえ。この俺がいることを、忘れるんじゃねえぞ」


リリアナは、何も言わなかった。

ただ、静かに俺の隣に立ち、その手に握られた剣の柄を、強く、強く握りしめる。その瞳には、絶対的な信頼と、どんな困難にも共に立ち向かうという、揺ぎない覚悟が宿っていた。


ドワーフの親父は、満足げに、深く頷いた。

「神話の英雄が使う武具か……。職人として、これほど血が滾る話はねえな」


仲間たちは、誰一人として、その無謀な挑戦に怯まなかった。

そうだ。こいつらもまた、最高の「物語」を求める、俺の共犯者なのだ。


俺は、インターフェイスの向こう側、未知なる「真の神々」へと、意識を向けた。

そして、隣に立つリリアナ、ボルガ、仲間たちの顔を見渡し、配信者として最高の、不敵な笑みを浮かべる。


「――なあ、お前ら」


俺は、仲間たちに、そして、この物語を読んでくれている、全ての読者に向かって、高らかに宣言した。


「次の冒険の行き先、決まったぜ。今度の物語は、神話になる」

「ご愛読ありがとうございました! さらにスケールアップした第二部も読んでください!」

『【神回】最強ランカー倒してテッペン獲ったと思ったら、全部チュートリアルだった件について。真の神々が求めるSランク(神話級)の物語目指すんで、セカンドシーズンも登録よろしく!』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ