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準決勝

純粋な戦闘力では格上の相手を、俺の卓越した戦術と、観客を熱狂の渦に巻き込むエンターテイメント力で次々と打ち破っていく。その戦い方は、まさに異端。だが、王都の民は、その異端児たちが紡ぐ「番狂わせ」の物語に、熱狂していた。


そして俺とリリアナは、ついに国王杯武闘大会の準決勝へと駒を進めていた。


「おい、見たかよ、昨日の試合!」

「ああ、あのCランクコンビ、また格上を食いやがった!」

「もはや、ただのダークホースじゃねえ。あいつらは、本物の怪物だ!」


王都の酒場は、連日俺たちの話題で持ちきりだった。

アストリアの田舎英雄は、今や、この王都で最も注目を集める存在となっていたのだ。


そして、運命の準決勝当日。

闘技場に設置された、魔法仕掛けの巨大な対戦盤たいせんばんに、次の対戦カードが光の文字で浮かび上がった瞬間、会場は割れんばかりの大歓声に包まれた。


【準決勝 第一試合】

ユウキ&リリアナ vs 『鋼鉄の咆哮』


「うおおおおお! まじか!」

「因縁の対決、再び!」


かつてのライバル、ボルガ率いる『鋼鉄の咆哮』。

彼らもまた、激戦を勝ち抜き、この準決勝の舞台までたどり着いていたのだ。


試合開始直前。

俺とリリアナが闘技場へと続く薄暗い通路を歩いていると、向かいから、見慣れた巨漢たちが姿を現した。

ボルガと、そして、彼が代表として選んだパートナーである、盾役のドワーフだ。


一瞬、空気が張り詰める。

だが、そこに、もはや以前のような敵意はなかった。


「よう」


ボルガが、ぶっきらぼうに、しかし、どこか誇らしげに声をかけてくる。


「まさか、こんな舞台で、てめえらと再戦することになるとはな」

「ああ。光栄だよ」


俺がそう言うと、ボルガはごつい右手を、俺の前に差し出した。


「一つ、約束しろ」

「なんだ?」

「――全力で来い。手加減なんざしたら、俺がどうなるか分からねえぞ」


その目には、一点の曇りもない、好敵手ライバルへの敬意が宿っていた。

俺は、そのごつい手を、力強く握り返した。


「当たり前だ。最高の試合にしようぜ、ボルガ」


固い握手。

それは、言葉にならない、戦士たちの誓いだった。



「準決勝第一試合、開始!」


ゴングの音と共に、俺とボルガは、同時に吠えた。


「「――行くぞ!」」


激突。

先陣を切ったのは、リリアナとボルガだった。

リリアナのしなやかな剣閃が、稲妻のようにボルガへと襲いかかる。だが、ボルガはそれを巨大な戦斧で、的確に、そして力強く弾き返した。


「ぬんっ!」

「くっ……!」


火花が散り、金属音が闘技場に響き渡る。

以前とは、比べ物にならない。ボルガの動きは、ただの力押しではない。俺との戦いで、戦術の重要性を学んだのだろう。その一撃一撃が、洗練され、無駄がなくなっている。


だが、それは俺たちも同じだ。


「リリアナ、後ろだ!」


俺の指示と同時に、リリアナは後方へ跳躍。

その瞬間、彼女がいた場所に、『鋼鉄の咆哮』の仲間であるドワーフ戦士のハンマーが叩きつけられた。


「ちっ、読まれたか!」


俺は、神々の視点コメントと、観客の視線の動きを読み解き、戦場の未来を予測する。闘技場の最前列に座る、肥えた貴族が身を乗り出した。その視線の先には、『鋼鉄の咆哮』のドワーフ戦士がいる。来るぞ、あいつの必殺技が――観客は、そういう「お約束」を待っている!

そして、リリアナはその予測を、完璧な剣技で体現する。


互角。

いや、戦力では、まだあちらが上だ。

だが、俺たちには、この闘技場の全てを味方につける武器がある。


「――どうした、ボルガ! 押されてるぞ!」


俺は、ボルガがリリアナの一撃を弾き返した瞬間、観客席に向かって大げさに叫んだ。

その煽りに、観客席がどっと沸く。


「そうだ! いけー、ユウキ!」

「リリアナちゃん、負けるなー!」


会場の熱狂が、俺たちの『評価ポイント』を押し上げていく。

一進一退の攻防。

それは、もはや単なる戦闘ではない。どちらがより観客の心を掴むかという、エンターテイメントの戦いでもあった。


神々もまた、この最高の試合に、熱狂していた。


《名もなき神A》うおおおお! どっちも強え!

《軍略の神》ほう…ボルガめ、見違えたな。だが、ユウキの戦場支配は、そのさらに上を行くか。

《名もなき神K》どっちも応援したい! 最高の試合だ!


俺とボルガ。

二人の冒険者の成長が、神々をも巻き込んで、この準決勝を伝説の舞台へと変えようとしていた。



一進一退の攻防。

闘技場の熱狂は、もはやどちらか一方を応援するものではなくなっていた。

誰もが、この死力を尽くした戦いを繰り広げる二組の冒険者に、惜しみない拍手と声援を送っている。


だが、戦況は静かに、しかし確実に変化していた。

戦いは、もはやリリアナとボルガ、個のぶつかり合いではない。

俺とボルガ、二人の司令塔による、盤上を支配するための、高度な戦術戦へと移行していたのだ。


「――ドワーフは左! 奴の足元を崩せ!」


ボルガが吠える。

彼の指示は、的確だった。かつてのような、力任せのゴリ押しではない。俺との戦いを経て、彼は学んだのだ。仲間を活かし、戦場を支配する、本物の指揮官としての戦い方を。

ドワーフの戦斧がリリアナの足元の石畳を砕き、彼女の体勢を強制的に崩す。その逃げ道を塞ぐように、ボルガの巨大な戦斧が、完璧なタイミングで放たれた。


「くっ……!」


リリアナが、辛うじてその斧を剣で受け流す。

だが、その一連の動きは、ボルガが描いた盤上の罠だった。

リリアナは、回避行動によって、ボルガのパートナーであるドワーフ戦士の、完璧な攻撃範囲キルゾーンへと誘い込まれていたのだ。


観客席も、神々も、誰もが固唾を飲んで見守っている。誰もが、『鋼鉄の咆哮』の勝利を確信しかけていた。


だが、俺だけは、そのさらに先を見ていた。


俺の視界には、ボルガたちだけではない。神々のコメント、そして、この闘技場にいる数万人の観客の視線の動き、その全てが映っている。

ボルガが、右手を挙げた。その指が、二本、立てられる。仲間への、次なる作戦の合図だ。

観客席の最前列にいる貴族が、ごくりと喉を鳴らした。ボルガの次の手に、期待している証拠だ。


(――来るぞ)


全てが、見える。

ボルガの戦術の、その先の未来が。


「――リリアナ!」


俺は、絶叫した。

それは、誰がどう聞いても、無謀で、自殺行為にしか聞こえない指示だった。


「ボルガの斧に向かって、真っ直ぐ突っ込め!」

「えっ!?」

「いいから行け!」


リリアナは、一瞬の戸惑いの後、俺を信じて地を蹴った。

ボルガが、好機とばかりに、必殺の一撃を叩き込もうと、その巨大な戦斧を振りかぶる。


だが、その瞬間。

ボルガのパートナーであるドワーフ戦士が、信じられないものを見るような目で、硬直していた。


リリアナが突っ込んだのは、ボルガではない。

ボルガの斧が振り下ろされる、その軌道の、ほんの僅かな死角。そして、ドワーフの必殺のハンマーが振り下ろされる、針の穴を通すような、ただ一点。

ボルガの斧は、リリアナではなく、味方であるドワーフを庇うための、苦渋の盾となった。


「なっ……!?」


ボルガが、驚愕に目を見開く。

俺は、神々の視点と、観客の期待感が生み出す「物語の流れ」を読み切り、その戦術の、さらに上を行ってみせたのだ。


俺の神懸かり的な指揮が、この戦場の支配者を、完全に書き換えた瞬間だった。



戦場の支配者は、完全に書き換わった。

俺の神懸かり的な指揮は、『鋼鉄の咆哮』の完璧な連携を、内側から崩壊させたのだ。


「――今だ、リリアナ!」


俺の雄叫びが、勝敗を決するゴングとなった。

観客と神々、この闘技場にいる全ての魂を味方につけた俺たちの、起死回生の一撃。

リリアナは、敵の陣形が乱れた、ほんの一瞬の隙を突き、ボルガの懐へと一直線に切り込んだ。


「しまっ……!」


ボルガが、防御の体勢を取ろうとするが、もう遅い。

リリアナの剣の切っ先が、彼の鎧の、ほんのわずかな隙間――喉元で、ぴたりと止められていた。


シン――、と。

あれだけ熱狂していた闘技場が、水を打ったように静まり返る。


勝敗は、決した。


やがて、審判が、震える声でその結果を高らかに宣言した。


「――しょ、勝者、ユウキ&リリアナ! 決勝進出!」


一瞬の沈黙の後、闘技場は、この日一番の大歓声と、惜しみない拍手に包まれた。

誰もが、この最高の試合を演じた、両者の健闘を称えていた。



試合後。

満身創痍の俺たちが選手控室へと戻ると、そこには、壁に寄りかかり、俺たちを待っているボルガの姿があった。


「……よう」


俺たちが声をかけるより先に、彼が口を開いた。

その顔には、敗北の悔しさではなく、全てを出し切った、晴れやかな表情が浮かんでいる。


「完敗だ。てめえは、最高の司令塔だよ」


ボルガは、そう言って潔く敗北を認めると、俺の肩を力強く掴んだ。


「――だから、頼む」


その目は、真剣だった。


「俺たちの分まで、必ず、ゼノンを倒せ」


託された想い。

それは、もはや俺たち二人だけの戦いではない。

俺は、ライバルの熱い想いを胸に、決勝戦への決意を新たにする。


「ああ。最高の物語にしてやるさ」


俺は、ボルガの拳に、自らの拳を強く打ちつけた。

決勝の舞台は、もうすぐそこだ。

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