第9話『詩人は語り、戦士は黙る』
静かな村に、ひとりの旅人が訪れた。
陽気な吟遊詩人と、無口な元戦士。
まったく噛み合わないようで、どこか心地よい、不思議な邂逅の一日。
「おやおや、これはこれは……まるで岩が歩いておるようだ!」
突然の声に、畑でスコップを握っていたガルドが顔を上げると、
派手な羽飾りをつけた旅人が、琵琶を片手にこちらを見ていた。
「お初にお目にかかる。拙者、“詩流れのトゥリオ”と申す者」
「……ガルド」
「ははっ、短い!いいねえ、その一言にすべてが詰まっている!勇者か君は!」
「勇者ではない」
「では、詩の題材にはぴったりということだ!」
陽気なトゥリオは、ガルドの筋肉を見て早速歌い始める。
♪鋼の腕にスコップひと振り
カボチャ飛んでく ご近所迷惑~♪
「……事実ではない」
「むしろ近所の人がそう言ってました」
「…………」
夕方、トゥリオは村の広場で即興ライブを始めた。
子どもたちも老人も、集まってきて賑やかな空気に包まれる中、
ガルドは黙って立っていた。どこか、場違いにさえ見えるほどに。
「なあガルドさん、君、音楽とか興味ないのかい?」
「……昔、遠征先の村で、一度だけ。聞いたことがある。戦の前夜だった」
「……ほう」
「仲間が……楽しそうに、手を叩いていた」
それは、ごく短く、それでも確かに届く言葉だった。
「なるほど。じゃあ今度は君が、そういう時間を作る番だな」
「……俺が?」
「その筋肉で太鼓を叩けば、きっと地鳴りみたいなリズムが生まれる」
「……検討する」
夜。
火を囲んで静かに弾かれる琵琶の音。
ガルドは黙って、それに耳を傾けていた。
言葉がなくても、何かが通じていた。
今回は“詩人”と“戦士”という、真逆のふたりの交流回でした。
言葉を飾るトゥリオと、言葉を削ぎ落とすガルド――それでも通じ合う瞬間がありました。
次回は、ミーナの誕生日を祝う“サプライズ作戦”!
ガルド、初めての“秘密工作”に挑む!?どうぞお楽しみに!




