第5話『湯けむりと筋肉と、壊れた脱衣所』
戦士は温泉でも全力。
壊れた温泉の修繕を頼まれたガルドだったが――その筋力が、またも村をざわつかせる。
「ガルドさん、ちょっと困ったことがありましてな……」
村長ハンスが、いつになく深刻な顔で話しかけてきた。
「村の温泉の脱衣所が……老朽化で壊れちまっての。補修する人手が足りんのじゃ」
「……修繕、か」
ガルドは静かに立ち上がると、工具を手に取った。
何を隠そう、冒険時代には“戦闘用テント設営スピード最速記録”を持つ男である。
「任せろ。すぐに終わらせる」
その言葉に、村長は(若干の不安を感じながらも)うなずいた。
──そして数時間後。
「……うわぁぁ!? なんか要塞できてるぅ!!」
脱衣所だったはずの木造小屋は、ガルドの手により――
全身全霊の“耐攻撃型防御施設”に生まれ変わっていた。
屋根は鉄板、壁は丸太、扉には鋼鉄製のロックバー。
なぜか覗き防止に魔除けのルーンまで刻まれている。
「敵に侵入されにくい構造にした。温泉施設は、戦場だ」
「いやいやいや、リラックス施設ですってばあああ!!」
ミーナが泡を吹く中、村の子どもたちが目を輝かせた。
「うわー!これ、秘密基地だ!」「ここで寝泊まりしたい!」
「トイレもつけたぞ」
「完璧じゃん!!」
なぜか脱衣所が男子小学生の夢になっていた。
ちなみに、女湯側にはちゃんと普通の設備を用意しているあたり、ガルドなりの配慮もある。
「……これでよかったのか?」
「も、もういいです……!誰か止めてくれ……この筋肉の発想……!」
だが、夜になると――
村人たちが集まって、湯上がりに囲む焚き火と、温かい麦茶と、笑い声。
その中心には、無骨ながら器用にイスを直しているガルドの姿があった。
「……温泉、悪くない」
「うん、でも次は“普通の修繕”から始めようね?」
筋肉×建築は、時に予想を超えた創造を生む。
ガルド式“脱衣所要塞化”事件は、村の新名所として定着したとか。
次回は、村に現れた“野生のイノシシ”との遭遇回!
果たして、ガルドは肉にする前に話が通じるのか!?お楽しみに!




