第1話『筋肉は裏切らない、が、パンは焼けない』
戦士としての人生を終えたガルドが選んだのは、静かな田舎での平穏な暮らし――だった。
だが、筋肉でなんでも解決してきた男にとって、“普通の生活”は最大の強敵だった。
「……燃えた」
ガルドは、無言で焼け焦げたパンを見つめていた。
炭と化したそれは、もはや武器としての機能しかなさそうだ。
彼が今いるのは、辺境の村・トゥラン。
戦いを終えたガルドが、ひっそりと移住してきた場所である。
「ガルドさん、パン焼きってのは“力技”じゃないんですよ?」
宿屋の台所で、呆れた声が飛ぶ。声の主はミーナ。
この村の宿屋で働く元気な娘で、なぜか最近は毎日のようにガルドの世話を焼いている。
「火を強くすれば早く焼ける。効率的だと思った」
「それでパンが“火球”になるって、どんな効率ですか……!」
ガルドはうなずきながら、炭になったパンをぽりっと割ってみる。
音がした。石だ。これは石だ。武器としての完成度すら高い。
「……これで叩けば、スライムくらいは倒せるな」
「パンに戦闘力を求めないでくださいッ!」
ガルドは静かに頭をかいた。
どうやら“焼く”という行為には、筋肉よりも“感性”とやらが必要らしい。
「明日は畑仕事か……力が要る作業なら得意だが」
「でもまた、鍬を3本壊さないでくださいね?あれ、全部村の備品なんですから」
「……気をつける」
筋肉。それは裏切らない。
だが、村の暮らしには……たぶん、向いていない。
それでも、ガルドは今日も村のために動いている。
不器用ながら、誰よりもまっすぐに。
「朝食は……残ったこのパンでいいか」
「やめてください、それ武器ですよ!」
ご覧いただきありがとうございました!
第1話は「筋肉 vs パン」という、村生活における最初の壁でした。
戦闘は強いのに、日常にはとことん弱いガルドさん。
でもそんな彼が、少しずつ村に馴染んでいく姿を、笑いとあたたかさで描いていきます。
次回は、畑仕事で村の農民たちを震撼させる回です。お楽しみに!




