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人見知りの僕と、人見知りの水森さん。

作者: ひよこのこ

※素人が趣味で書いている小説となります。文章や物語のクオリティなどは低いかと思いますが、お読みいただけますと嬉しく思います。

 高校3年生の1月。新しい年の幕開けなのにもかかわらず、僕たち高校生はお正月から少し経った日から、去年と同じように授業を受けている。高校3年生といえば受験だが、僕も含め、僕のクラスでは、ほとんどの人が推薦入試を受けたようで、年が明ける前までには受験はすべて終わり、合否発表まで出ているようだ。


 外では雪が少し降っている。雪が学校の壁にある柱に落ちると、すぐに溶けてしまう。つまらない授業を受けながら、その様子を僕は何も考えずにボーっとして見ていた。


 昼下がりの5限目の授業を受けている時だった。ボーっと外の雪を眺めていたせいかウトウトしてしまっていた。ふと気が付くと、手に持っていた消しゴムが床へと落ちているのに気が付いた。


 消しゴムを拾おうと床に手を伸ばしたところ、何か床でも消しゴムでもない感触のものに手が触れた。手の方向に目を向けると、隣に座っていた女子が僕の消しゴムを拾おうとしてくれていたのが見えた。彼女は僕が拾おうとしているのに気づくやいなや、とっさに手を出すのをやめ、僕から目をそらした。


 彼女の名前は水森 雪さん。下の名前に雪とあるように、水森さんの肌は白く綺麗だ。水森さんは、このクラスの学級委員長を務めている。ただし、クラスメイトからの評判はあまり良くないようだ。というのも、水森さんは人見知りであり、クラスメイトに対して行事などの説明をする時も、モゴモゴと喋っていて後ろの席に座っている人は彼女の声が聞こえない。クラスからは彼女のことは”人見知り委員長”と呼ばれている。


 このクラスには偶然にも”陽キャ”と呼ばれる人間が多く在籍しているのもあり、水森さんの説明の度に至る所から、「声小さくね?」「もっとはっきり喋ればいいのに。」と文句が聞こえてくる。


 だが、僕はそうは思わない。なぜなら、僕も水森さんと同じ”人見知り”だからだ。同じ人見知りだからこそ、僕も水森さんのことをよく理解できる。話したこともないのにもかかわらず、勝手に親和性というものを水森さんに対して抱いていた。


 そして次の日、いつもと同じように授業を受けていると、先生から自由にペアを組んで話し合いをするように、という指示を受けた。そう、人見知りにとって最大のピンチだ。辺りの陽キャたちは次々とペアを組んでいっている。


 どうしようかと辺りを見渡していると、ふと水森さんのことが気になった。水森さんを見てみると、辺りを気まずそうにキョロキョロと見渡している。すると、近くにいた女子が水森さんのほうを見てこう言った。


「人見知り委員長~、委員長のくせにペアも組めないの~?」


 その女子の周りにいる女子は、水森さんのほうを見てクスクス笑っている。それを見て、僕は一目散に水森さんのもとに向かいこう言った。


「あの、一緒にペア組みませんか?」


 水森さんは驚いたように僕のほうを向き、少し間を置いて頷いた。だが、水森さんは僕の目からすこし目を逸らしていた。


「あの陰キャ、ヒーローのつもりなのかな?笑」


 そんなことが周りから聞こえた気もしたが、そんなの気にしない。人見知りが原因でいじめられるのは辛い。それは僕が一番よくわかっている──。


 「キーンコーンカーンコーン」


 授業の終了時間を知らせるチャイムが鳴り、教室は一気に騒がしくなる。お腹も空いたことだしご飯でも食べようかと思ったそのとき、隣の席から僕の名前を呼ぶ声が聞こえた。


「入部くん、よかったら、教室以外の場所で一緒にご飯食べませんか?」


 水森さんは僕を自信なさげにご飯に誘った。家族以外の人と一緒にご飯を食べるなんて何年ぶりだろう。そう思いながら、僕は頷き席を立った。


 教室から少し離れた共用スペースへとやってきた。ここは他の生徒が少なく、僕も一人になりたい時などによく訪れる。


 共用スペースに設置されたベンチに座ると、水森さんは早速僕に話しかけてきた。


「あの、さっきは巻き込んでしまってごめんなさい。そして、助けてくれてありがとうございました。」


「いえいえ・・・。」


 まずい。話が続かない。人見知り同士だと、話題を振る人もいないため話がまったく続かない。


「・・・えっと、なんで、私なんかのことを助けてくれたんですか?」


「・・・え?」


 唐突な水森さんからの質問に僕は少し驚いた。


「あの、私、大きな声も出せないし、リーダーシップもないし、そもそも人と話すのも苦手なくせに、クラスの学級委員長になったんです。今までの自分を少しでも変えたい。そういう思いが私の中にあって、思い切って学級委員長になりました。ですが、そのせいで、クラスの人たちからは人見知り委員長って呼ばれるようになって、時々私のことをたたく陰口も聞こえて・・・。正直このクラスには敵しかいないのかなって今まで思ってました。」


 続けて水森さんが口を開く。


「それで、さっきの授業の時も静かにしておこうと思っていたんですが・・・、入部くんがペアになろうと言ってくれたおかげで、少し心が救われた気がしました。でも、なんで入部くんが私のことを助けてくれたのかがよく分からなくて・・・。変なこと聞いてしまっていたらすみません。」


 水森さんの声は小さいながらも、僕には水森さんが話す言葉が一言一句しっかりと聞こえた。


「・・・僕は、高校に入る前、中学生の時に水森さんと同じような状況になったことがあるんです。その、僕は人見知りなので、友達とか全然できなかったんですが、それが原因でいじめの標的にされてしまって・・・。その時、僕はものすごく辛くて・・・、だからこそ目の前に僕と同じように辛い思いをしている人がいたら、どうも居ても立っても居られなくなって、気づけば水森さんとペアを組もうと話していました。」


 僕が話し終えると、水森さんは優しい笑みを浮かべた。そして、一言小さな声で、だけどもはっきりとこう言った。


「ありがとう。」


 水森さんは今まで僕と目を合わせてくれなかった。消しゴムを拾おうとしてくれていた時も、ペアを組んだ時も。だが、今、目の前にいる水森さんの顔を見ると、僕の目をしっかりと見てくれていた。初めて、僕の目と水森さんの目が合った瞬間だった ──。



 それから月日が過ぎ、いつの間にか3月になっていた。そろそろ春が来るのを前に、学校の中にある桜の木には、桜の花が少しだけ咲いている。最近は暖かい日が続いていたせいだろう。だが、今日は昨日とは異なり、3月としては異常ともいえるほどの冷え込みとなっていた。


 今日はいつもの学校とは違う。そう、卒業式の開催日だ。僕たち高校3年生は、今日卒業し、各々の進路へと歩みを進めていく。


 僕と水森さんは、1月のあの日からよく話すようになった。あの時はお互い気まずさがあったものの、今ではだいぶ普通に話せるようになったように思える。


「あ、水森さん、おはよう。」


「入部くん、おはよう。」


 教室に入ると、水森さんが先に席に座っていた。教室にはまだ水森さん以外に誰も来ていない。机の上には、卒業アルバムや卒業記念品、卒業証書を入れるためのホルダーなどが置いてあった。


「えっと・・・、今日で卒業ですね。」


 水森さんがテンション低めに僕に話しかける。


「そうですね・・・。」


 最近はお互いの会話にも慣れてきたように思えていたが、今日はより一層緊張して話が続かない。


 今日は卒業式という人生の節目でもある日。中学校の卒業式では、ようやくこの学校から解放されると、悲しみよりも喜びのほうが大きかった思い出がある。だが、今回の卒業式ではそういった感情は一切ない。ただ、一つだけ思っていることがある。それは、水森さんのことだ。


 卒業ということは、このまま普通に過ごしていれば、この先水森さんと会うことは無いということだろう。僕と水森さんが初めて話したのは1月のこと。つまり2か月ほどしか話したことはないが、それが卒業よりも寂しいと感じている。


「・・・あの、水森さんは、卒業した後何かしたいこととかってあるんですか?」


 ふと水森さんに尋ねてみた。


「えっと、私は女子大に通って、それからは特に何も考えてないかな・・・。入部くんは?」


「僕も大学に通って・・・、そこからは特に。」


 僕と水森さんが通う大学は違う場所にあるため、同じ大学に行くということもできないだろう。そもそも、もう合否が決定している時点で、それは不可能だ。


「あ、私委員長の仕事をしてこなくちゃ・・・」


 水森さんはそうつぶやいた。卒業式当日まで学級委員長としての責務を全うするなんて・・・、クラスメイトは知らないだろうが、水森さんこそが学級委員長として適任の人なのではないか、と僕は改めて思った。


「ごめんなさい、入部くん。少し席離れま──」


「あの、水森さん!」


 僕は、水森さんの言葉を遮って言った。水森さんは少し驚いた表情をして僕のことを見た。ここで呼び止めておかないと、もう一生水森さんと会えないと、1月の授業の時に見た消える雪のようになってしまう。そう僕の直感が働いた。


「え、えっと・・・。」


「・・・どうしました?」


 水森さんは不思議そうな顔をして僕のほうを見ている。


 僕は、勇気を出して水森さんに言う。


「あの!水森さん!卒業しても、友達でいてくれますか!」


 思わず大きな声が出てしまった。二人きりの教室に、僕の大声が響く。僕は恥ずかしくて下を向いたままだ。


「・・・もちろん!」


 僕が水森さんのほうを向くと、水森さんは今まで見たことのないような満面の笑顔で涙を流していた。


「あ、雪だ。」


 教室の外から誰かの声が聞こえた。水森さんと僕が外を見ると、3月なのにもかかわらず雪が降っているのが見えた。桜が咲いている中雪が降る、雪桜だ。まるで、僕と水森さんのことを空が歓迎しているかのようだ。


 水森さんと僕は顔を合わせて笑う。


 今日は卒業式。高校生としての生活が終わる日でもあるが、なによりも将来に向けて新たな歩みを進める日でもある。


 僕と水森さんは、未来に向け、共に歩みを進めようとしている──。

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