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天災  作者:
第1章 ~干魃シーズン~
9/9

8話 再戦

時間は、黒光の(めい)により、千優が地下に囚われた者達を救出へ向かう場面まで(さかのぼ)る。


千優は、雨音の手を引き、記憶を頼りに、牢獄へと駆ける。


難無く、場所を突き止め、自慢の(ほむら)で鉄格子を歪ませて、次々と、身柄を拘束された少年少女を解き放つ。


見事な手際で、全員を檻から助け出し、一件落着と一呼吸置きたいところだが、今にも崩落しそうな、亀裂の入る不快な音が千優を急かす。


下敷きになっては元も子もないと、険しい表情を浮かべながら、一番(かよわ)な存在の手を取り、外へと繋がる出口を目指す。


だが、よくよく考えれば、千優自身、此処に連れ去られた身。

侵入経路を把握すらしていなかった。


そして、追い打ちをかけるように、前方の通路から水が押し寄せてきた。


(くるぶし)程度の高さとは言え、流れる勢いからして、止まるとは思えない。


・・・いずれ、足腰まで浸かり動きを封じられ、最悪の場合溺死に至るかもしれない、、、。


嫌な予感を感じた千優は、水のない道を選び取りながら逃げる。


だが、行く角ごとに、水流に阻まれ、逃げ道の選択肢が減っていく。

そして、追いやられるようにして、行き止まりへとぶち当たる。


・・・完全なる袋小路。


確かにまだ、元来た道を戻る手もあるが、たとえ戻れたとして、、、の話である。

水を掻き分けながら、脱出口を見つけ出し、避難できるとは到底思えない、、、。


流れてきた水が、足首を()で体温を奪う。


絶望的な冷たさに、思考が鈍る。

どのみち、これでは低体温で動くことすらままならない、、、。


・・・はてさて、どうしよう。


後ろを振り返れば、凍え苦しむ子達の姿。

迫る水に怯え、中には死を悟る者も。


ーーー本当に早く手を打たなければ、大事に至る。


絶対に、彼等彼女達を助けなければならない、という使命感が千優の魂を燃やす。


「みんな、離れて。」


覚悟を決めた千優は、皆に距離を取るよう促す。


そして、彼女は天井の亀裂を(にら)()え、(てのひら)サイズの火炎弾を撃ち放つ。


火花を散らしながら放たれた弾は、天井と衝突するや否や炸裂し、上を覆うコンクリートを粉々に破壊していく。

そして、瓦解(がかい)した天井は、次々に水飛沫を上げて落着する。


手荒なマネだと、千優自身分かってはいたが、これで()()出来ると自信に満ちていた。


、、、だがここで思わぬ誤算。


ポカリと穿(うが)いた天井から地上へと脱出する算段が、雪崩のように入り込む砂に阻まれる。


そのさまは、まるで、竪樋(たてどい)から滝のように垂れ落ちる雨水のよう。


一気に(ひざ)下までShinsekiにより、千優が地下に囚われた者達を救出へ向かう場面まで(さかのぼ)る。


千優は、雨音の手を引き、記憶を頼りに、牢獄へと駆ける。


難無く、場所を突き止め、自慢の(ほむら)で鉄格子を歪ませて、次々と、身柄を拘束された少年少女を解き放つ。


見事な手際で、全員を檻から助け出し、一件落着と一呼吸置きたいところだが、今にも崩落しそうな、亀裂の入る不快な音が千優を急かす。


下敷きになっては元も子もないと、険しい表情を浮かべながら、一番(かよわ)な存在の手を取り、外へと繋がる出口を目指す。


だが、よくよく考えれば、千優自身、此処に連れ去られた身。

侵入経路を把握すらしていなかった。


そして、追い打ちをかけるように、前方の通路から水が押し寄せてきた。


(くるぶし)程度の高さとは言え、流れる勢いからして、止まるとは思えない。


・・・いずれ、足腰まで浸かり動きを封じられ、最悪の場合溺死に至るかもしれない、、、。


嫌な予感を感じた千優は、水のない道を選び取りながら逃げる。


だが、行く角ごとに、水流に阻まれ、逃げ道の選択肢が減っていく。

そして、追いやられるようにして、行き止まりへとぶち当たる。


・・・完全なる袋小路。


確かにまだ、元来た道を戻る手もあるが、たとえ戻れたとして、、、の話である。

水を掻き分けながら、脱出口を見つけ出し、避難できるとは到底思えない、、、。


流れてきた水が、足首を()で体温を奪う。


絶望的な冷たさに、思考が鈍る。

どのみち、これでは低体温で動くことすらままならない、、、。


・・・はてさて、どうしよう。


後ろを振り返れば、凍え苦しむ子達の姿。

迫る水に怯え、中には死を悟る者も。


ーーー本当に早く手を打たなければ、大事に至る。


絶対に、彼等彼女達を助けなければならない、という使命感が千優の魂を燃やす。


「みんな、離れて。」


覚悟を決めた千優は、皆に距離を取るよう促す。


そして、彼女は天井の亀裂を(にら)()え、(てのひら)サイズの火炎弾を撃ち放つ。


火花を散らしながら放たれた弾は、天井と衝突するや否や炸裂し、上を覆うコンクリートを粉々に破壊していく。

そして、瓦解(がかい)した天井は、次々に水飛沫を上げて落着する。


手荒なマネだと、千優自身分かってはいたが、これで()()出来ると自信に満ちていた。


、、、だがここで思わぬ誤算。


ポカリと穿(うが)いた天井から地上へと脱出する算段が、雪崩のように入り込む砂に阻まれる。


そのさまは、まるで、竪樋(たてどい)から滝のように垂れ落ちる雨水のよう。


一気に(ひざ)下まで砂が侵食し、勢いのあまり、開けた穴が更に拡大していく。


前方には降り注ぐ砂、後方には押し寄せる水。


悪夢のような現状に、思わず足が(すく)む。


が、、、雪崩込んだ砂が水と混ざり合い、固めの土台となることで、砂が止んだ時には、地上に繋がるスロープと化していた。


これには、不幸中の幸いと言わざるを得ない。


砂が無ければ、地上まで()い上がることが出来なかっただろうし、

水が無ければ、踏ん張りがきかなかったことだろう。


不幸と不幸が良い感じに噛み合って、助かったという所か。


まあ、そもそも、此等(これら)に出くわさねば、酷い目に遭うはずもなかったのだが、、、。


兎にも角にも、千優は、少年少女を引き連れ、なんだかんだで、一人残らず救出を遂げる。


ーーー太陽は既に、半身を覗かせていた。


一息つきたいところだが、この明るさでは、身の隠しようが無い。


安全が確保できる領域まで逃げたかったのだが、思いの外、彼等彼女等が疲れている。


肩で呼吸する子もいれば、地にへばりつく子もいる。


恐らく、牢獄生活での悪影響だろう。

少なくとも健康とは言えない。


そんな彼等彼女等に走れと言うのは酷、、、であるが、命を前にして、そんな事は言ってられない。


千優は、情けを捨てて告げる。


「みんな、逃げるよ。」


最年少と思われる子の手を引き、神殿から遠ざかる。


、、、どれ程逃げられただろうか。


彼女の感覚からして、満足と呼べる程走れていない。

実際、村を囲む障壁すら乗り越えれていない。


だが、それも致し方なかった。


総勢、数十名と大所帯かつ、隠密で動くとなると、困難を極める。

その上、多くが幼く、体力の限界が近い。


まともに逃亡など出来る筈も無かった。


だが一方で、まだ近くに聳える神殿が、千優の心を急かす。

何度振り返っても、離れた感覚が無く、焦りのあまり、近づきすら感じる。


これでは、追手との遭遇も時間の問題だと、千優は唇を噛み締める。


、、、そして、嫌な予感通り、後方から砂のどよめきが。

明確に殺意を伴って、此方を目掛けて突進してくる。


敵意をいち早く感じ取った、千優は(てのひら)に炎を()いて迎え撃つ。


ーーー砂粒と火花が宙に舞う。


衝突した際の爆風で、濃い砂煙が霧散し、中から不穏な笑みを浮かべる男の姿が。


それも、砂岩で構築した刃を(きら)めかせ、此方に向けている。


日を(また)いだとは言え、短時間での再会。

千優は、この男が『砂嵐』であると瞬時に見抜く。


そして、人質達を庇う形で対峙(たいじ)する。

互いに睨み合って、間合いを図る。


千優自身、いつでも戦闘に迎えるのだが、背後から確かな、絶望と恐怖が。

振り返るまでも無く、怯え苦しんでいると、痛いほどに伝わってくる。


恐らく、彼等からすれば、この男とは、目に映すことすら、耐え難い存在なのだろう。


一体何をされたのか。

考えるだに恐ろしい。


ーーー彼等を、、、彼女等を、、、ここまで震えさせる、諸悪の根源が、目の前に居る。


ただ、その事実が、千優には、酷く許しがたかった。


「雨音。皆を逃がして。」


普段の明るげな口調を消し、離れるように告げる。


「、、、でっ、でも、、、。」


「でもじゃない。雨音、あんたしかいないの。」


「、、、じゃあ、千優は、どうなるの、、、?」


今にも掻き消えそうな声が。

隣に目をやれば、純粋に心配を寄せる少女の姿。

表情が(かげ)らせ、不安げに此方を見つめていた。


そんな雨音の顔を見て、千優は、ハッとする。


ーーー不安にさせちゃだめよ。ドンと胸を張ってなくちゃ。


それは遠い、千優の記憶。

その背を追い求め、追い続けてきた、ある人の言葉。


それは、誰かを守るのであれば、一抹の不安さえ、感じ取らせてはいけない、と言う教訓。


・・・()()()()()()を、不安にさせるなんて、なんと情けない。


憧れとの差に、己の未熟さを知る。


だが同時に、彼女の覚悟を更に強固にさせた。


「気にしないで、私は、大丈夫よ。

、、、いい? なるべく、人の多い所へ逃げるのよ。」


ありったけの笑みを浮かべ、雨音を逃げるよう促す。


結局、雨音の表情から戸惑いを消し去るのは、叶わなかったが、事の状況を理解したのか、雨音は少年少女を引き連れて去っていく。


・・・そう。それでいい。


後方を駆けてく足音を聞きながら、千優は耽る。


段々と音が遠のいていく。

、、、遠のいて、静寂が降りる。


不可解なことに、砂嵐は、ついぞ、彼等の逃亡を妨げる様なマネはしなかった。


恐らく、それは安々と逃がしたと言うよりも、端から眼中にないのだろう。


ーーー私だけを狙って追ってきた。


そうと考えれば、辻褄(つじつま)が合う。


加え、砂嵐から向けられる、やけに爛々(らんらん)とした眼光も、恍惚(こうこつ)とした表情も、()()()()()、頷ける。


千優は、睨め回すような視線を、そして、悪意ある期待を、的確に感じ取っていた。


普通であれば、怖気を覚える筈であるのだが、彼女は違った。


ーーー悪行の数々と数多の鬼畜。


この男が成してきた所業を思い返すだけで、彼女は、怒りで煮えくり返る。


加え、神殿に潜む化物の謎。


恐らく、死よりも尚、(おぞ)ましい何かを企んでいたのだろう。


ーーーあの正体は、一体何なのか。


その謎を晴らす義務があると、彼女は使命に燃えていた。


「ねえ、私は、アンタを絶対に許さない。何があろうと、この手で裁くわ。けどね、ひとつ、、、。何で、幼児ばかりを狙うの。」


今にも斬りかかりたい衝動を抑えつけ、睨みながら問う。


すれば、砂嵐は、千優の怒りを気に留めること無く、寧ろ、会話出来る事に喜びを示すように饒舌(じょうぜつ)に語り出す。



「それは、僕の趣味じゃないんだ。『神』がそう、御所望するからだよ。若い "肉" しか受け付けてくれないんだ。厄介だよね。」


ーーーまるで、自らが被害者かのように。


「でもさ、別に理解できない話じゃないんだ。僕らだって、新鮮な物の方が美味だろう? それと同じく、『神』も贅沢(ぜいたく)な食事がしたいんだろうな。」


ーーーまるで、此方が『神』の事情を知っているかのように。


「いや、やっぱり通じるところがあるな。僕らだって、腐った食事を出されたら、怒るだろう? なら、老いた "肉" を出されて、『神』が癇癪(かんしゃく)起こしたのも納得だろう?」


ーーーただ思いままを口にするように。


「ああ、、、そうだ。、、、そうだった。君も()()被害者だったね。詫びなくちゃ。うちの部下のヘマで、酷い目に遭わせてしまったね。その節は、御免よ。」


ーーーまるで、親しげな関係かのように。


「でも、ホント、助かってくれてよかったよ。 、、、いや、ほんと良かったよ。危うく、僕の愉悦(ゆえつ)が消えるところだった。」


・・・ベラベラと(しゃべ)る。


千優は、砂嵐の一方的な会話をジッと黙って聞いていたのだが、今すぐにも、その口を紡がせてやりたい衝動が襲う。


だが、今、手を出せば、『神』などと称する "化物" に、真に迫れぬかもしれない。

好都合なことに、この馬鹿は、放っておけば、情報をポンポンと出してくれるのだ。


謎を解き明かすまでの辛抱だと、自分に言い聞かせ、千優は握りこぶしを造ったまま、その場で耐える。


「いや、ホント『贄』の厳選って、難しいね。、、、ああ、そうだった。『贄』の話は、まだしていなかったね。

"肉" を、『贄』って呼ぶんだけど、これがまた大変で、毎日準備しなくちゃならないんだ。それに、もし『神』の、お気に召さなければ、即逆鱗。

ホント、大変な仕事だよ。」


「始めは、もっと苦労したんだ。やっぱり、『神』の信仰が薄かったからかな。誰かを捧げるなんて、まるで、僕が悪い事をしているような気分になったからね。」


「でも、良かったよ。御蔭で、渇望を見つけられたんだ。

僕は、誰かの絶望に落ちる様が好きなんだ、って。

特にね、(ひが)んで(ゆが)み落ちる所が快感なんだ。

あれは、見ていて飽きないね。」


別段、恥じ入る様子も、悪びれることも無く、ただ淡々と自分の趣きについて語る。


これには、流石に千優も黙ってなど居られなかった。


「ねえ。()()()()()の為だけに、(さら)ったの。」


彼女の声色に冗談など微塵もなかった。

けれども、彼女の怒りを気にすることなく、砂嵐は相変わらずの口調で続ける。


()()()()()って悲しいな。君には、()()()()()かもしれないけど、僕は()()()()()じゃないだ。

娯楽程度に見下してるかもしれないけど、これは生き甲斐なんだ。

『神』が啓示なさった(いや)し。そんな無下に扱っていいものじゃないんだ。」


「、、、やっぱり、こう思うと、神には感謝しないとね。面倒事も多いけど、色んな『贄』を選べる機会を得られてーーー。」


「なえ、あんた。、、、何人、何人を犠牲にしたの? 」


千優は、砂嵐の言葉を遮るようにして千優は問う。


「、、、 "犠牲" だなんて、仰々(ぎょうぎょう)しい。

彼等は言葉通り、身体丸ごと捧げてくれたんだ。寧ろ、その言葉は、彼等に侮辱だよ。失礼だと思わないか?」


「そもそも、命ってのは、ごまんと存在するんだ。たかが知れた数が、消えた所で、何も起こらんよ。決して、歯車が狂うことは無い。」


ーーーブチリ


効果音を付けるとしたら、こんな音だろうか。


「なんですって、アンタ、人の人生狂わせた自覚が無いの? 」


千優は、燃えんばかりに眼光を(たぎ)らせ、無自覚に炎を紡いでいた。


紡がれたソレは、主の周りを纏う。


「アンタ、覚悟なさい。」


そのセリフと共に、弾丸のように走り出した。


それは、何の駆け引きも無い、愚直なまでの一直線。

炎の爆ぜを糧に、加速を遂げる。


これを見て、砂嵐も武器を造形し、戦闘態勢へと入る。

そして、不敵な笑みを浮かべて、攻撃を受ける。


ーーーーー。


爆ぜる火の粉が

肌を切り裂く爆風が

砂の大地を唸らせて、衝突しあう。


火花と粒子が空を舞い、鈍い轟音が乾いた世界を奏でる。


凄まじい鍔迫(つばぜ)り合いにも拘らず、千優は問い(ただ)す。


「人を殺しておいて、良心が痛まないわけ?

もしそうなら、アンタは人で無しよ。」


「いや〜、勝手に決めつけないで欲しいなぁ。僕だって、倫理観はあるさ。辛い目に遭わせてるは重々承知だよ。、、、でも、仕方無いんだ 。」


「仕方無い、、、? 仕方無いわけ無いでしょ。」


千優の纏う焔が爆ぜる。


「いや〜、それが困った事にあるんだ。この地は『神』と一心一体だからね。世話しないと、明日が()()()()()()()()

寧ろ、感謝して欲しいくらいだよ。是迄(これまで)の平和は、僕が守ってきたからね。」


「、、、誰かの犠牲で成り立つ平穏なんて、そんなの平和なんて言わない。

"平和" ってのは、()()が笑える世界なのよ。

アンタなんかが、気安く口にしないで。」


力強い言葉と共に、握り拳を砂嵐へと繰り出す。

防御態勢であったが、それよりも凄まじい威力に砂嵐は、後方へと飛ばされていく。


千優は、殴った実感を確かめながら、砂嵐がいるであろう、衝撃波で砂の舞う、正面を睨む。


「フッッ。フッハハ。フワッハハハハ、、、」


奇妙な笑い声を上げながら、視界が明けるのを狙ったかのように、男は立ちあがる。


「いや、いや、これは失敬。あまりに、愉快(ゆかい)でね。つい、声を上げて笑ってしまったよ。いや~、まだ、こんな()()に出会えるなんて。世界は、捨てたもんじゃないな。」


「何? 馬鹿にしてるわけ。」


「いやいや。期待しているんだよ。君ならきっと、僕の渇望を満たしてくれる。」


「死を前にして、最期に発する、その音色。

苦しみ、嘆き、そして、絶望。

その全てが愛おしい。


でもそれだけでは、物足りないんだ。

やはり、強情な奴程、享楽なんだ。


信じ続けた信念が、その正義が、目前で(くずお)れる、その喪失。

そして、光と活気に満ちた目が、絶望で(かす)み消える、その軌跡。

その全てを特等席で見ていたい。」


大袈裟な手振り身振りを披露しながら、己の趣向について豪語する。


「それで、是非とも君に、その "務め" を果たしてもらいたい。」


終始、頓珍漢(とんちんかん)な言葉の連続で、完璧な理解にまで至らなかった千優だが、決して許容してはならぬことだと、脳が、体が理解していた。


「承諾するわけないでしょ。アンタをぶっ潰すまでよ。」


「ーーーそれは、残念だ。」


互いが、己の "異能" を紡いで、形どっていく。


一方は、火の雨を。

片方は、砂の海を。


空を真っ赤に染め上げんばかりの火炎の数々に、

地面を()う、無限に増築される砂の波。


炎弾は、爆ぜる勢いで粒子を蹴散らし、

(うごめ)く砂は、炎を包み込んで鎮火していく。


そこら一帯は、完全な別世界。

互いの全出力が、その空間を埋め尽くす。


ーーー完全なる拮抗。


優劣のつけ難い、好勝負に、戦いは長引くと、そう思われたが、、、。


ーーーポツリ


千優の火照った肌に水滴が()でる。


・・・雨、、、 ? ?


正面が薄い灰色に染まるほどの、突然の豪雨に、千優は戸惑いを隠せない。


その動揺は、焔にも移る。

強烈に、そして、鮮やかに爆ぜていた炎が、文字通り火力を失い、加えて、雨風が追撃するように、その火種を掻き消していく。


この戦況の変化に、砂嵐は、笑いを堪えずにはいられない。


「フハハ、天も我に味方するか。」


やけに高揚とした表情で、水分を得て固まった土壌を武器に、弱った彼女を畳み掛ける。


これには、あの千優とて、後手に回らざるを得ない。


・・・くっっ、、、あの雨は、一体()() から。


無駄な魔力消費を抑え、最低限の火炎で敵の攻撃を払いながら、雨の出所について考える。


前兆の無い、突如のスコール。


まるで誰かが操ったような、雲そのものが、意図的に動いたような

目に見えぬ力が働いたとしか思えない。


砂嵐が、自発的に作動させた可能性もあるが、反応からして、恐らく、この男は関係ない。

寧ろ、男からすれば、棚から牡丹餅的な、僥倖(ぎょうこう)な展開だろう。


・・・っつつ。


厳しい状況に、思わず言葉にならぬ詰まった息を吐く。

何とか切り抜ける手は無いかと、敵の攻撃を捌きながら、頭を働かせ、、、


「ーーーーーーーーーー。」


それは、背筋の凍り付く轟音。

それは、体の自由を奪う凄まじい振動音。

それは、耳を潰しかねない幻想種の咆哮(ほうこう)


あらゆる音で砂漠を埋め尽くし、目をくぎ付けにする、恐怖が 顕現(けんげん)した瞬間だった。


・・・ アレは、、、


千優は、目を見張るようにして、ソレを見つめる。


ソレは、遠く離れた地でも、嫌と分かる程の巨躯(きょく)で、

無造作に暴れ、破壊の限りを尽くしていた。


「、、、あれまあ、待ちきれなかったか。」


村が崩壊しているにも拘わらず、どこか他人事のように淡泊に砂嵐は告げる。

そして、尚も続ける。


「ちょっと遊び過ぎちゃったか~。"納期" に遅れてしまったぜ。でも、、、まあ、『神』のお目覚めだ。」


ニタリと不穏な笑みを浮かべた。


・・・あれが、『神』、、、。


千優は『神』と呼ぶソレを見上げ、その存在の威圧さと、恐ろしさを知る。


そして、ソレが祭壇で悲劇を招いた張本人(化物)であると、『贄』という悪習の元凶であると理解した。


ーーー気づけば、千優は、ソレへと向けて駆けていた。


少しでも被害を食い止める為に、

是迄の悲劇に一矢報いる為に。


「おいおい。、、、この僕を無視して行く気かい? 」


突如、戦いをお預けにされた砂嵐は、先回りして、千優の行く手を阻む。


「どいて。」


「もしかして、自ら、差し出しにいくのかい? それは、勤勉だ、、、


「どいてって、言ってんのよ。」


千優は、怒りに身を任せ、拳を振り下ろす。

だが、それを砂嵐は、軽く避けて(かわ)す。

そして、すかさずカウンター。


「その不機嫌具合だと、つまんなく()()()しまいそうだ。この楽しみをドブに捨てるは、御免だからね。ここらで始末させてもらうよ。」


悪意ある笑みを浮かべ、そう告げた砂嵐は、千優を四方八方から操った泥で埋め尽くす。


突如、訪れる静寂。


塊と化した泥から、微細な動きすら見受けられない。

それ、即ち、炎使いの果てであると、砂嵐は、確信した、、、瞬間であった。


ーーー爆ぜる。


内部で、爆発があったのか、塊であった泥は、散り散りとなりて、空を舞う。

そこから、現れたのは、勿論、炎を纏う千優。


目に怒りを(たぎ)らせ、反撃を試みようと、火を紡ぐ。

だが、その生成速度は、今までの比ではない。

雨風を物ともせず、目を疑う速度で拡張していく。


炎に触れた雨粒は、瞬時に蒸発し、

湧きだつ湯気の量が、その凄まじさを物語る。


だが、それだけでは終わらない。


千優の等身大程度にまで、拡大された所から、突如として四方八方から、魔方陣が展開され、そこから送り込まれる魔素を食いつくすように、炎は更なる成長を遂げていく。


これには、砂嵐も無防備では居られない。

即座に、泥で何重もの壁を設け、太刀打ちできるよう身構える。


炎の練度が上か。

砂壁の強度が上か。


ーーー淡い灰色の世界に、(まばゆ)い閃光が。


紡がれた炎は、円弧状に目に追えぬ速度で放たれていく。

その威力は、鉄骨であろうとも穴を開けかねない。


ならば、突貫工事の泥の壁など比べるまでも無い。

次々と虚しく吹き飛ばされ、炎は、かの男の元へと達す。


ーーーバチャリ。


相変わらずの豪雨の中で、際立つ、水の跳ねる音。

千優は、その音が、砂嵐を仕留めた証だと理解した。


恐ろしい事に、何度も練られた炎は、主の元から離れた今も、泥の上で燻り続ける。


空を覆う雨と、砂漠を埋める火。


何とも巫山戯(ふざけ)た光景が、彼女の前に合った。


だが、その情景になんの念も抱かず、寧ろ、見慣れた光景と言わんばかりに、自らが着けた火の海を進む。

そして、砂嵐が倒れた場所まで、足を運び、留まる。


「アンタは、命を奪っただけじゃないの。来る筈だった未来まで奪ったのよ。その重さが分かるまで、そこで草臥(くたば)ってなさい。」


そう吐き捨てた彼女は、既に砂嵐の影すら目に映していない。

『神』だと、称される、"化物" を睨みつけ、どうか一つの命でも助かることを祈りながら、先を急いだ。

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