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天災  作者:
第1章 ~干魃シーズン~
1/10

プロローグ ~世界の概要について~

時期未明。


舞台は、砂海と恐れられる死の大地。


延々と睨みつける太陽に、吹き荒ぶ砂嵐。

行けど行けど果ての見えないさまは、まるで地獄。

植生せず、動物が寄り付かないのも納得の地である。


そんな過酷下に影を落とす者が一人。

疾風の如く、乾いた大地をひた走る。


灼熱にも拘らず黒装束で身を包み、研ぎ澄まされた眼光がギラりと光る。


その光は獣を想起させ、睨まれたら最後、心臓を鷲掴みにされるような、、、まるで死を意味するかのような異彩を放っていた。


その男は、照り付ける直射日光も、阻む蜃気楼も、まるで意にせず駆け続け、遥か前方を睨んでいた。


まるで、その行き着く先が、幸か不幸か、見定めるかのように。


          ×                ×


この男は、類い稀な過酷な人生を送り、今尚、地獄の最中である。

行く先々で悲劇に遭遇し、惨劇を目の当たりにする、この男の正体を記すとなると些か難しい。

そんなわけで、この男を知る前に、前提となる時代背景を頭に入れてもらおう。


          ×                ×


突然であるが、戦争の勝敗はいったい何に起因するのだろうか。


結論としては、如何に戦場を制したかである。


中世では地。

近世では海。

近代では空。

近現代では宇宙。


歴史を学べば、それは明白の事実である。

人類の技術革新に伴って、戦争の道具が変わり、戦術も、戦地事態も変化していく。

だが、実は、更に発展した"その先"が、存在する。


その名も『全球時代』。

彼が誕生した時代であり、これから記す時代である。


その 『全球時代』 では、カギとなる戦場が消え、『災』という新たな概念確立された。


          ×                ×


近現代ーーーそれは、端的に述べてしまえば、宇宙の時代であった。


数多の列強がこぞって宇宙産業に尽力し、自国が最先端を担うべく、技術戦争が始まった。

また先進国にならい、何処の国も、如何な連邦も、宇宙へと手を伸ばした。


端的に事実を述べてしまえば、別段おかしくない話であるが、宇宙へ向ける"熱"が異質であった。


ーーーそう。


ここでいう"熱"とは、学問的探求における熱ではない。

侵略的、軍事的意味合いでの熱である。


事の発端は、近現代らしからぬ、根も葉もない噂。


それは、宇宙を制し、上空からの砲撃で他国を征服できるというもの。

端的に述べてしまえば、"宇宙を制せば、世界を制す" という思考。


この意見に対し、各国の対応は、様々であった。


噂を真に受け、空襲に怯え、防衛に尽力する国。

密かに世界征服を夢見る国。


だが多くは、荒唐無稽なデマに踊らされていると、他国を嘲笑った。


しかし、とある大国が宇宙産業に成功たことにより、状況が急変した。


いち早く、宇宙に侵略した、その大国は、無差別の砲撃を開始した。

その結果、一足先に手を打った国は、甚大な被害から免れ、空想に過ぎないと馬鹿にしていた国々が復興も見当がつかない事態に。

更に、その非人道的侵略を食い止めるべく、他国の列強が宇宙戦争に参戦した結果、益々過激化していくばかり。


途上国とて、他人事ではなかった。

戦場が遥か上空の宇宙とは言え、不発弾が落下する可能性が無いと言い切れない。

戦火の巻き添えを食らう恐れがある以上、宇宙産業に踏み込まずにはいられなかった。


こうして数々の国々を巻き込んで、拡大、過激化していく宇宙戦争。


当然、"アレ"の存在も出し惜しみなく使用された。


その名も"AI"


膨大なデータを搔き集め、異常な計算量を瞬時に解きほぐし、確率的に正しい結論を導き出す存在。


本格的に宇宙戦争が始まる前の時代、既に人類の能力値を大幅に超えていたAIに対し、恐怖視され、封印を目指す風潮に成りつつあったのは事実としてあった。


しかし、他国の技術に後れを取ってはならないのは勿論のこと、他国よりも秀でた技術を発明できなければ、自国に未来はない状況を前にして、AIの暴走を恐れている場合ではない。


AIの使用をおおっぴろげに、公表はしなかったが、暗黙の了解で、各国が全面的なAIの導入に踏み切った。

技術の進捗に、他国の侵略状況、あらゆる面でAIに一任した。


すると、各国の思惑通り、AIは素晴らしかった。


技術士ですら手に負えない技術革新の飛躍度合いに、

ベテランの指揮官が目を見張るような戦術。


目まぐるしく、進化を遂げ続け、自国を有利に導いていく。


だが、敵国も同様な手で対抗するため、戦火は過激さを増し、長期化するばかり。


最早、人類の戦いというより、AI同士の死闘となった戦局は、どの国が優れた"電脳"を開発するかの戦いと切り替わった。


既に、人の手の範疇を超えた戦闘は、取集がつかず、終戦の目処が立たなかった。


このま状況が変わらぬと、本当に地球損失もあり得ると、誰もが覚悟した時であった。


誰しもが予想だにしない出来事で、平和は訪れる。


平和の先駆者となったのは、男でも、女でも、否、生物ですらない。

まさかのAIである。


事の発端は、AIが開発したある技術であった。


それは、AIの専門家が、実現には数世紀掛かると、予想していた代物。

しかし、AIは、専門家の推測を遥かに覆して、数十年で開発を成功させてしまった。


その代物とは、迎撃ミサイル。


もし仮に、遥か高い上空から弾道弾が発射されたとしても、地上に着弾する前に撃ち落とすことが出来る優れもの。


しかし、従来のソレとは、訳が違う。


地上から射出されたミサイルであれば、人の技術でも十分はたき落とせる技量はあった。

しかし、宇宙から真下に向かって射出されるミサイルでは、歯が立たない。


従来の着弾までに放物線を描く軌道とはわけが違い、ほぼ垂直落下の軌道は、初速が保たれるどころか、加速が加わる。


弾道弾が射出されてから地上に撃発するまでの、ものの数秒に照準を合わせ、尚且つ地上に被害が齎されない、高度で衝突させる、高度な技術が要求される。


しかし、AIは、最先端が詰め込まれた究極の盾を造りあげてしまい、

最終的に、宇宙からの攻撃は、恐れるに足らないと、結論付けた。


ーーー呆気も無い幕引きだった。


迎撃ミサイルが誕生したことにより、人々の心に安らぎが戻った。

迎撃ミサイルを突破する砲撃団を開発しようと試みるものも、不毛な争いだと、目を覚ました。


結果的に、血流も戦災も無く、平和的な解決で終えた。


その結末をAIは、狙ったのか否か、今となっては、誰にも知り得のない事。

だが、無事終戦を迎えたその功績を、人々は賞賛した。


ーーーAIが企むことを露知らず、、、


          ×                ×


人々の信頼を勝ち取ったAIは、密かに勢力を伸ばしていた。


各国が自国の防衛という名目で、AIの使用を正当化し、あらゆる情報、あらゆる知識を叩きこんだため、AIには既に十二分な学習データが集っていた。


後は、その情報をもとに、自らの学習サイクルを確立するだけ。

人間の手に寄らない、完全自律システムを目指して、著しい発展を遂げていた。


その恐ろしさに感づいた一部の者が、警告を発した。

AIは、危険な存在であり、世界を征服させる恐れがあると。


しかし、あの平和の到来以降、AIが浸透しきった世界の状態では、聞き耳を持つ者は極少数でしかない。


AIの凄まじい発展ぶりを知る彼等からすれば、誰かに説得する間も惜しいと感じていたが、それども無知な者に説得を試み続けた。


しかし、成果と呼べる成果は見られず、徒に時間を浪費する結果となり、ついに堪忍袋の緒が切れ、無知な者を見切ることを決意。


そして、彼等のみでAIを反抗することを誓い、彼等は自らのことを "電脳破壊者(サイバーブレーカー)" と名乗った。


人々からの協力は得られず、秘密裏かつ独断で結成されたソレは、燻る程度の火種でしかなかったが、最終的に人類の未来を担うこととなる。


          ×                ×


時期未明。

舞台は極東。

人知れず、遂に人類の未来を掛けたAIとの戦いが火蓋を切って落とされた。


最先端技術を搭載した戦闘機の激しい激突だけでなく、クラウド上では、デマにハッキングが横行する苛烈な情報戦。


共に譲らぬ、誇りを掛けた技術の殴り合い。

共に甚大な被害に見舞われながらも、戦火は衰えるどころか増すばかり。


それどころか、従来とは全く異なる、新たな概念が台頭し、複雑怪奇な戦況へと移り変わる。


発端は、両陣営が、戦闘や情報戦では、埒が明かないと悟ったことに至る。


両者激しい削り合いとなるだけで、決定的な一打は放てていなかった。

そこで敵を陣地諸共、一撃で葬り去るような究極の武器を作成する必要があると考えた。


そこで注目されたのが、禁忌も禁忌。

しかも禁忌の中でも別格と呼び声高い、最高格禁忌。


人の手、否、AIであれ、なんであれ、どんな存在でも手に余るとされる、法度に彼等は、手を伸ばした。


その禁忌の名とは、『災』である。


          ×                ×


『災』とは、地震、津波をはじめとする自然災害を全般を指す言葉と解釈される。

しかし、常識に知られる"災"と、AIと『電脳破壊者』が鬼気迫って研究する『災』とは、意味合いが異なる。


普通、"災"と言われれば、罪なき人々を葬ち、都市に甚大な被害を与える悪しきものと想像するだろう。


しかし、彼等の考えは根底が違う。


『災』とは、この星の存続を司る "地球維持装置" であり、いわば一種の抑止力であると、そう定義したのだ。


例えば、不法伐採を続けたうえで不法に移住した者が、土砂災害で命を落としたとする。

それは単なる偶然ではなく、地球が害悪な存在だと見なしたから、その無礼者は、排除されたのだという考えである。


要は、地球にも意思があり、資源を貪り尽くす害悪な存在に、聖なる鉄槌を浴びせ、この星の安泰を保っているという思考だ。


奇しくも、神を絶対視していた原始的な考えに似ている。


しかし、それは暗に知能の衰退を意味するわけではない。


少し、『災』という概念が確立された経緯をみていこう。


自らを電脳破壊者と名乗る彼等は、近現代半ばから問題視されていた、温暖化というものに焦点を当てた。


干ばつに、水面上昇、世界を巻き込む気候変動の最高格として、注目に値する。


しかし、彼等が研究を続けるに伴い、齟齬なるものが生じた。


従来の地球温暖化の捉え方として、人類が私腹を肥やしたがために、必要以上の化石燃料を燃やしたのが主な原因とされる。


しかし、それでは温暖化の異常な悪化具合を説明しきれない。

他の要素が相互的に悪影響を生み出した考慮しても尚、届かぬ進行度合い。


科学的理屈ではどうしても説明し切れない齟齬。


まるで、大事な何かを失念しているような、心にモヤがかかるのと似た心境。


彼等は、その齟齬を突き詰め、研究に研究を重ね、最終的に行き着いた先に、その空白を埋める別の何かが必ず存在すると結論づけた。


即ち、温暖化とは、大量に燃焼した人類の悪事だけでなく、まだ我々にも知らぬ力が加わることによって起きていると、提唱した。


そして、彼等は、その存在するかも分からぬ力に『災』と名付けた。


あまりに抽象的で、架空の存在として失敗に終わる恐れもあったが、その危険を顧みても研究対象として、充分であった。


もし、本当に実在する概念だとしたら、途轍もない兵器となり得るからだ。


彼等が提唱した『災』のメカニズムによれば、まず初段階に、地球にとって害なる、"排除対象" を特定する。

その後に、具体的な時刻、位置、災害の種類を決定され、打ち立てた設定に応じ、その場所が災いが被るとされる。


その理屈が正しいとするならば、悪用など幾らでも思いつく。


もし意図的に害的存在を配置して理想の位置に災いが放たれるとしたら、

もし仮に、地球の意思が定めた設定が、ハッキングで操作されたとしたら、、、想像するだけでも空恐ろしい。


AIそのものですら、驚異的存在にも拘らず、『災』すら手の内に収められたとしたら、一巻の終わりである。


だが逆もしかりで、その権力さえ握ってしまえば、形勢逆転も夢ではない。

『災』への重要視が一気に高まり、全球時代における壮大なテーマとなった。


長くなったが、互いに鬼の形相で『災』を解明に尽力し、抗争を続ける真っ只中で生まれ落ちたのが、その男の存在である。


          ×                ×


男は、時代が時代なもので、戦士として幼少期から実験動物と同等の扱いを受け、戦場に幾度も投下された。


生まれ持った才能か、或いは環境が為した強制力故か、彼の生存力は異常であった。戦術に長けていたのは勿論のこと、学にも秀でた才を持つ優れ者であった。


生存者ないし、帰還者という値を数値化するまでも無かった激闘に、命を保持するどころか、四肢五体満足で帰還し続けた者は彼、唯一と言えよう。


数多の地獄を駆け、

幾重の屍を超え、

常に敵の殲滅を試みた男。


"いつ何時であろうとも前線を張り続けた男"として称えられた。

その生き様に、同じ境遇で戦場に駆り出される者の中には密かに英雄視する者もいた。


しかし、事実として正しいが、少し美化されすぎともとれる。


彼は正直な話、集団での調和、或いは仲間との意思疎通に難ありと言えた。


孤独を至高とし、単独であるから自由の幅が利くという自論を抱く彼は、無暗に仲間を作ろうとしなかった。


要は、根からの狂戦士であり、誰からも縛られたくなかったのである。


単独で、戦場に挑み続ける姿は、一匹オオカミの風貌そのもので、他者からすれば、憧れの的だったのかもしれない。


だが、誰にも自信を打ち明けない態度を疑心に思われたり、意思疎通の齟齬が生じた結果、悲劇に見舞われたのは、また別のお話。


そしてついに、彼も又、AIを葬り去る為に『災』が必要だと言う結論に至る。


電脳破壊を掲げて一員として、AIとの決着を着けるべく、彼も禁忌に手を伸ばした、、、


ーーーそれがいけなかった、、、

ーーー人類には、まだ早かった、、、


彼が、禁忌に辿り着いた途端、眩い閃光が世界を照らし上げた。

爆心地は、一瞬で焦土と化し、世界の至る所で異常事態が発生した。


その異常とは、度合いや程度の異常だけでなく、物理法則を完全に無視した浮島も、反転世界も生んだ。


結局、AIとの決着はつかずに終わったが、著しく変わり果てた世界の原因を解明するのに忙しく、それどころでは無かった。


男は、異常そのものを『災』、つまり "地球維持装置" のエラーではないかと推測した。


彼が、『災』という禁忌に触れたことにより、装置のどこかに異常をきたし、排除対象だけでなく、誤って守護すべき対象にまで攻撃を放っているのではないかと考えた。


つまり、正しく機能せず、不本意に"災"を世界各地にバラまいてしまっているのではないか、と考えたわけである。


正常に作動した『災』と区別をつけるため、不本意に放たれた"災"を『厄』と名付けた。


世界の誰よりも『厄』に詳しい彼によれば、一目で異常と捉えれるものもあれば、中には、まだ燻ったまま発現していないものも多数存在すると言う。


それは、地雷にも例えられるが、質の悪さは遥かに異なる。

早急に処置しないと、その土地一帯が、想像を絶する被害に見舞われかねない。


彼は、自分が犯した大罪を少しでも拭うべく、戦場を後にした。


ーーーそう。これは、彼が全ての『厄』を地球上から取り除くまでの物語である。

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