夏祭り
「ほら、大地も。一緒に踊ろうよ」
「ああ……」
俺も海の上に砂浜から乗っかる。
海の上は、変な感触だった。
海水は柔らかく。揺れ。足腰が不安定になる。
「これは踊りには、うってつけだ!!」
「ああ、海の上で踊るの最高ーーー!」
俺たちは海の上で、朧気な姿の踊る人々や神輿を担いでいる人々と、陽気に踊った。 最初、踊りなんて知らなかったけど、みんなの動きを真似した。鯛もそうだった。
朧気なみんなの踊りと、祭囃子に合わせて、俺と鯛は踊った。
高波、大波、荒波、つむじに、潮風に乗って、秋田竿燈まつり。鳥取しゃんしゃん祭。徳島阿波おどり。日向ひょっとこ夏祭り。馬関まつり。山形花笠まつり。博多祇園山笠。高知よさこい祭りなど、昔に一度は行ったことがある賑やかな景色が、俺の脳裏を順々に横切っていく。
もう、小一時間経ったかな。
少し疲れて。ふと、俺は踊りを止めて花火が気になった。見上げてみると、巨大な花火が打ち上げられたようだ。ヒュルヒュルと、空に昇っていく音がとても痛快だった。
「お! これは期待!」
俺は空を見上げた。
ドーーーンっと、特大の大きい音が空で鳴り響いた。
そして、パラパラと色とりどりの火花が落ちていった。
「綺麗だなあー」
「お、花火か!」
鯛も俺も踊りで少し疲れていたので、海の上にあるかき氷の屋台へ向かった。蜃気楼のように朧気な店員は、金を払うと、ニッカと気さくに笑った。
屋台の傍に、竹でできたベンチがあって、そこへ鯛と座る。
こんな厚い日だ。かき氷は、一気に食べると、頭がキーンっとするからいいんだなあ。
しばらく、鯛と一緒にかき氷をバクバクと食べていると、声を掛けられた。
「隣。いいですか?」
浴衣姿の綺麗なお姉さんだった。
団扇片手で、かき氷を持っていた。
何故かこの人だけ。姿が朧気じゃないんだな。
俺は綺麗なお姉さんから、目を逸らしてそっぽを向いた。
「あ、いいッスよ」
鯛がニッコリと竹のベンチで空きを作る。
俺は綺麗なお姉さんを見て、鼻の下を伸ばしている鯛の頭を叩くと、かき氷を口いっぱいにかきこんだ。
「かき氷。美味しいね」
「ああ、美味しいッスね!」
「……」
俺はそっぽを向いたまま、かき氷をひたすらにかきこんでいた。