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「お、おう!」
「まずは、旅館から出ようぜ!」
「お、ああ。大地は踊らないのか?」
「はあ、お前寝ボケてんだろ!!」
鯛の奴を連れて、この部屋のドアを開ける。
廊下はとても暗くて静かだった。
祭囃子は、階下から聞こえる。
廊下を二、三歩歩いて、気が付いた。
階下からでないと、出入り口がないんだっけ。
「とりあえずは……うーん……祭り見てみようか?」
「お、おう」
俺は鯛を連れて、階下へと向かった。
ドーン……と、打ち上げ花火の大玉が空で弾ける音がした。
それから、ザワザワと火花が落下する音がしている。
きっと、外は色とりどりの火花が落ちているのだろう。
そういえば、俺たち以外の人がいない。
同じ部屋にいるはずの戸田や酒井や深川もいない。
「ちょっと、怖いけどこれは夢だと思おう。さあ、外へ行くぞ! 祭りだ! 祭りだ!」
「いや、大地? 外は海だったぞ。どこで祭りなんかやってるんだ?」
「……あ。確かにだなあ……」
「なんか、マズくないか? これ。俺は夢じゃないような気がしてくるんだ」
「確かにだなあ……まあ、深く考えるな。きっと、夢の中だよ」
「お、おう」
俺たちは広い階段を降りて、玄関を目指した。
土産店や自動販売機を横切ると、正面に靴が雑多に脱ぎ捨てられた玄関がある。
玄関の外は、祭りでごった返している音だ。
音響のあるスピーカーからの祭囃子で、鼓膜と心臓が振動するかのようだ。
「俺も踊ろうかな?」
鯛がぼそりと言った。
「あ、俺も……」
玄関を開けると、そこには海の上に屋台に、神輿に、浴衣姿の人々がいた。みんな踊っているみたいだった。
いや、でも変だ。
みんな蜃気楼のように姿が朧気だぞ?
「これなんだ?」
「やっぱり、夢かー。なんだよ、夢なんだよこれは」
玄関先は砂浜だった。
広々とした海の上は、祭りで輝いていた。
「踊ろう」
鯛の奴が開き直って、海の上を歩き出した。