はじまり
「おいおい。祭りの準備はできたのか?」
「いんや」
「お前さん。いっつもそんなだねえ」
「それなら、起こすな起こすな」
「いんや」
「お前さん。いっつもそんなだねえ……」
…………
ヒュー、ドロロロロ。
ヒュー、ドロロロロ……。
うん?
何か打ち上げ花火のような音がするな?
鯛の奴がテレビ消し忘れたか?
せっかくの修学旅行だし。
まあ、いいか……。
もう少し寝ていよう……あ、今度は祭囃子が聞こえた来たぞ!
鯛の奴!!
「いいかげんにしろ!! 明日はお城を観に行くって言っただろ! 朝早いんだぞ!!」
「あ! あれ! あれ!」
「うん?」
顔を真っ赤にしている鯛の奴が、部屋の中央で突っ立って、旅館の窓の外を指差している。それから、指差した後に布団に潜りやがった?!
「テレビ消してくれよ……あ?」
俺も窓の外を見たら、顔が真っ赤になった。
真っ赤になった一番の理由は、「ありえねえー!!」だ。
その途端。お祭り騒ぎの人々の声や、太鼓やら笛やらの音がドッと部屋に入って来た。もう頭の中までお祭り騒ぎだ。
「……なんだってんだ!! ……大きいなあ……花火」
旅館の窓の外は、確かスポーツ施設だったはずだ。
けれども、今は遥か彼方へと広がる海に、大きな花火が昇っていた。
目を擦って、「なんだ。たかだか、これは夢じゃないか。もう寝ないとな」と自分を叱咤した。
けど、布団に籠って目をつぶっても、一向に眠れない。
それどころか、祭囃子がより一層大きくなってきた。
祭りが、こっちへと近づいているんだ……。
試しに左頬を抓ってみた。
目が覚めない。
試しに右頬を引っ叩いてみた。
痛い……。
「おい! 鯛! 起きるぞ! 逃げよう!」
布団から飛び出て、鯛を叩き起こした。
布団に潜っていた鯛の奴は、ガタガタに震えやがっている。