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別の世界ではただの日常です

声だけの恋

作者: 茅野榛人

「やっほー! あれ? 聞こえてるかな?」

 サムネイルに写っているバーチャルムーバーの彼女の格好に惹かれ、配信をチェックして一番最初にこの言葉を聞いた。

 そのVムーバーは『墨田かれん』と言う名前だ。

 僕はこの声を聞いて、何故かは分からないが、ある人を思い浮かべた。

 十四年前、僕が小学校六年生の時だった。

 僕は消極的な性格で友達が全く出来なかったのだが、僕が一人で自由帳に落書きをしている時に、同級生の女子『S』が、僕に話かけてくれたのだ。

 それからSは、積極的に僕の話し相手になってくれたのだ。

 しかしSとは小学校を卒業したと同時に音信不通になってしまった。

 Sの居場所の手がかりになる可能性がある卒業アルバム等は、全てなくしてしまい、連絡手段は何も無い。

 たった半年の付き合いだったが、今視聴している配信から聞こえてくる声を聞いた途端に、Sといた時の記憶が鮮明に思い出される。

 決して忘れていた訳ではない、しかし、墨田かれんの声を聞いた途端に、当時の記憶が一気に頭の中に広がったのだ。

 声が似ているからか? いや、最後に会ったのは十四年も前だ、流石に声変わりしているはずだ。

 ならば言葉遣い……確かに言葉遣いはどことなく似ている気がするが、あくまでも似ているというだけだ。

 まさか……墨田かれんの中の人間が……Sなのか?

 確かに当時、将来の夢の話をしている時、Sはこう話していた。

「私ね、いつか、声を使った仕事をしたいと思ってるの」

 もしその夢を叶えて……Vムーバーになったのだとしたら……。

 確かめたい衝動は日に日に強くなって行った。しかしチャットで自分の素性を明かすのは気が引ける。

 何か方法は無いかと考えを巡らせていた時、千載一遇のチャンスがやって来た。

 墨田かれんのSNSで開催する抽選で、当選した一名の方が、墨田かれんと通話が出来るというキャンペーンが始まったのだ。

 僕は早速そのキャンペーンに応募した。

 抽選で一名という、シビアなキャンペーンだが、僕はそのキャンペーンに、一縷の望みをかけた。


 あれから日付は流れ、当選者に電話がかかって来る日になった。

 どうか……当選しますように……。

 ……プルルルル!

 鳴った! 僕は慌てて電話に出た。

「もしもーし! ご当選おめでとうございます!」

「あ……ありがとうございます!」

「……強運の持ち主の貴方様! 貴方様には、今から私、墨田かれんと、十分間、お話が出来ます!」

「やった! ありがとうございます! 墨田かれんさん!」

「こちらこそ! 貴方様」

「まさか僕が当選するとは、正直思っていませんでした!」

「まあ……抽選で一名ですからね! 遠慮なさらず! 質問でも何でもお話してみて下さい!」

「はい! あ……あの! 一つ質問よろしいですか?」

「はい!」

「小学生時代の同級生で、一番印象に残った同級生とかはいなかったですか?」

「そうですね……私が小学六年生の時に、周りと全く関係を持たない男子がいたんですけど、その子ですかね……」

「そうですか!」

「まあ、どうして印象に残っているかって言うと、まあ、クラスで浮いていたってのもあるんですけど、実は私、その子に声かけて、友達になったんですよ!」

「マジですか!」

「マジですよ! 私が声をかけ続けて、半ば無理矢理友達にしました!」

「羨まし……」

「えー! 貴方様は小学生時代に友達いなかったんですか?」

「全く居なかったですよ」

「えー! 一人位は居たんじゃないですか?」

「まあ……一人だけ……」

「お!」

「小学六年生の時に……向こうの方から話しかけてくれて……でも半年だけの付き合いでしたけどね……」

「なんか……まるでその方……昔の私みたい! なんちゃって? えへへ!」

「……言われてみれば確かに?」

「もしかしたら……本当にそうなのかもしれませんね! 貴方様の声も……あの子の声に似ている気がしますし……」

「いや……仮にそうだったとしても……声変わりしちゃってるんじゃないですか?」

「どうですかね……声変わりしても……誰の声か位……分かるかもしれませんよ? なんちゃって!」

「なんか……ロマンチックですね!」

「そうですね! あの……実はですね……私……その子……私の初恋の人なんです!」

「……え? え!?」

「驚きますよね……」

「あの……実は僕もですね……あの人……僕の初恋の人でして……」

「え!?」

「偶然ですね……」

「凄い偶然ですね!」

「もしかしたら……私達……今……再会してるのでは?」

「本当に……そうかもしれませんね……」

「あの……こんなこと……本来なら御法度の行為なんでしょうけど……墨田かれんさん……貴方に……お会いしたいのですが……出来ませんか?」

「……」

「僕……いつも……心に引っかかっている何かがあったんです……それが……音信不通になってしまった……僕の唯一出来た友達の事だったんです……今……貴方の声を聞いて……あの頃の記憶を……鮮明に思い出して……ようやく理解できました……僕は……あの時出来た……僕の唯一の友達に……恋をしています!」

「……不思議なものですね」

「え?」

「私もね……貴方様の声を聞いた瞬間……思い出したんですよ……あの頃をね……」

「……」

「その友達の名前……教えてくれますか?」

「……S……Sです」

「……この後……時間ありますか?」

「は……はい……あります」

「午後十一時に、B駅前のカフェの一番奥の席で、待ってます」

「わ……分かりました」

「ロマンチックな言葉を使いますが……これはきっと……運命ですよ」

「本当に……ロマンチックですね……」

「……待ってます」

 言葉を言い終えた後、直ぐに電話が切れた。

 ほんの少し戸惑いがあったが、僕は直ぐに出かける支度をした。

 この後、あの頃に沢山の会話を交わした唯一の友達である、Sと十四年振りの再会を果たすことが出来る……かもしれない……もしSとの再会を果たせたら、何から話そうか……いや、そのようなことは、その場で考えた方がいいだろう、今は、心の準備の為に時間を使おう。


 B駅前のカフェの前に着いた。

 B駅前にはカフェは一軒しかない、場所はここで合っているはずだ。

 僕は深呼吸をしてカフェに入店し、カフェラテを注文して一番奥の席に向かった。

 その席には誰も座っていなかった。

 恐らく遅れているのであろうと考え、暫く待機した。

 しかし幾ら待っても来なかった。

 やはり、人生はカフェラテのような甘いものではない。


 あれから暫くして、墨田かれんの訃報が報じられた。

 亡くなったのは、待ち合わせをしていた日だった。

 死因等は報じられなかった。

 一体……墨田かれんの身に……何があったのだろうか……。

 事故か……他殺か……はたまた自殺か……。

 せっかくの……Sと再会できるかもしれないチャンスだったのに……。

 結局、墨田かれんがSだったのかどうかははっきりしなかった。

 僕は、あの時の恋を諦めるべきなのだろうか、自分では、答えが出せない。

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