第二話 -王立魔法学校-
第二話-王立魔法学校-
「うわぁ!」
学校の中心にある巨大なレンガ造りの魔法塔を囲うようにガラス張りの天井が特徴の円形の大講堂。そして、また更に大講堂を囲むように建てられた教室棟。灰色を基調とした校舎はまさに一つの城のようだった。
--ついに、ここまで来たのね。
魔法塔を取り囲むこの校舎はサンディークス含む魔法使いのたまごにとって憧れの場所だった。
王立魔法学校。それは国一の高等魔法学校であり、グラッチェスの母校だ。貴族の魔法使いは皆、男女それぞれ中等教育機関であるナイト、デイム学園を卒業し、王立魔法学校にやってくる。更に学園は貴族のみの学園だったが学校からは成績優秀者の平民が厳しい試験をクリアし、やってくることもある。この王立魔法学校を優秀な成績で卒業出来れば将来の道が開けるからだ。
--そういえば、今年の平民出身者は過去最多の十五人らしく、サンディークスの父が驚いていたのを思い出した。
学校の門を通ると堅固な壁のように中を守っているように教室棟が建てられていた。まだ未熟な魔法使いのたまごはいつ、どんな時に魔力が爆発するか分からないため、この学校の周りには特殊な結界が張られていて建物自体も特別な材料で建てられているらしい。
サンディークスは入学式が行われるという大講堂へ足を運んでいると後ろから聞きなれた声が聞こえた
「サンディー! 元気にしてた?」
「フローズ! 久しぶりね」
キャラメル色の髪をざっくりと編み込み、探している女の子がこちらへ手を振った。彼女の名前はフローズ・アリス、サンディークスの幼なじみだ。土と光属性が得意な魔法使いのたまごで将来は治癒者になりたいらしい。
共に大講堂へ向かいながら、話はサンディークスとグラッチェスの休暇中に行われた授業の話になった。
「それで休暇中は騎士団長様とみっちり授業やってたのよね?どうだった?」
「ふふ、それがね--一ヶ月前におじさまから炎属性と風属性の魔力調整のお墨付きを貰ったの!」
あの日の後、炎属性を操れるようになったからか風属性の魔力調整の課題を次々にクリアし、難なく風属性の魔力調整も習得したのだ。今は光属性の魔力調整を学んでいる。
「ええ?! あの騎士団長様から!? すごいじゃない! もう炎と風属性の授業はいらないんじゃないかしら」
「どうかしらね--私はまだ魔法の詠唱も他の属性との掛け合わせも分からないから」
「それもそうね」
重厚な木製の扉の前に立ち、二人は自身の杖を掲げる。すると杖の先に埋め込まれた魔法石が輝きだし、扉がズズ、とゆっくり開かれた。
大講堂は魔法研究が行われる魔法塔への唯一の入り口だ。なのでその入口には特別な魔法が組み込まれており、予め登録された魔法使い、魔法使いのたまごのみが入ることができるのだ。
魔法研究とは文字通り魔法の研究のことであり、それは他国や外部に漏らしてはいけないとされている。悪用されたり国そのものが滅んでしまうかもしれないからだ。
大講堂へ入ると、正面に王家の象徴であるドラゴンが翼を広げ、その後ろに盾と貫く剣が編み込まれたタペストリーがあり、その下には二本の杖が円の中で交差している王立魔法学校の校章のタペストリーが垂れ下がっていた。
壁一面が白く、天井はガラス張りなので外の空が透けて見えていてどこから見知らぬ世界に来てしまったようだった。
入学式の為に設置されたのかどこか異質な焦げ茶色の長椅子がずらりと規則正しい並んでおり、席指定などは特にないようだった。サンディークス、フローズと並んで座り、休暇中に起こった出来事を式が始まるまで話尽くした。
式は魔法について、この学校で何を学んでいくか--そんなお堅いお話ばかりだった。それよりもサンディークス含め気になっているのはクラス分け。
箝口令が敷かれていたり魔法で口止めでもされているのか学校卒業者や在学生は一向にクラス分けについて何も話さない。
そろそろ皆が焦れ始めたころ、校長がクラス分けについて話し始めた。
「さて、気になっているクラス分けですが毎年恒例、勝ち残り戦で決めたいと思います」
「か、勝ち残り戦......?!」
「サンディ、勝ち残り戦ってことはみんなで戦うってことよね?」
「そうだと思うけれど、まだ私たちは魔法についてあまり知らないわ」
中等教育機関である、ナイト学園とデイム学園では主に貴族の嗜みや貴族や国の中での魔法使いの立ち位置など、魔法については座学や魔力調整の為に得意な属性を操る程度しか学んでおらず、実践魔法や防衛魔法などは自主的に教師を雇っている者くらいしか扱えないだろう。
しかも未熟な魔法使いのたまごが決闘など死人や重傷者が出てもおかしくない。
--どういうことかしら。
困惑と非難の声が上がる中、校長が破裂音を作り出し、皆を静まり返らせた。
「何もなんの準備もなしに決闘をさせようという気はありません。今からくじ引き--魔法のかかっていないただのくじです-をしてもらい十五のグループに別れてもらいます。一つのグループにつき凡そ二十五人ですね」
校長はそう言って、自身の頭上に大きな図を魔法で作り出した。
「図のようにグループ同士で戦い、残り十五名で一旦、区切りそして残り五名になるまで戦います。そしてまたくじ引きでグループ分けし初めのグループ分けで上位五名だった生徒は残り三名になるまで戦ってもらいます。その五グループの中の三名なので十五名ほどが特別クラスとなり、そして三名までに残れなかった者が上位クラスとなります。
そして中位以下は最初の勝ち抜きで分けられた百五十人からグループ分けし、勝ち残った半分が中位、下位クラスの上クラス、負けた半分が下クラスとなりますので頑張って勝ち残ってくださいね」
つまりグループの中で強い者が勝ち残っていきこの約四百人いる生徒の中で十五名しか最上位クラスになれず、そこから上位クラス三十名、中位クラスの三十名少しが二つ、下位クラスの七十五名ほどが二つ、となるわけか。初めの勝ち抜きで最低でもグループ内で十五位、全体で二百二十五位に上がらなければ中位クラスにも入れないということだ。
初めのクラス分けは重要で授業の質や幅が違うのだ。学期テスト毎にクラス試験といって一定の成績と実力を示したらクラス上げができる試験もあるが基準が厳しく中々上がることはできない。特に、特別クラスは落とされることはあっても上がることはできないと言われているほどだ。
サンディークスの狙いはもちろん、特別クラスだ。けれど、どうしたら勝ち残れるか、考えを巡らすがいい案は思い浮かばない。
「クラス分けは来週の今日。つまり貴方たちには一週間の猶予が与えられています。それを有効に使いなさい」
--この一週間、何をするかでこれからの学校生活が決まるのね。
話は終わり、というように頭上に作り出したものを消して校長の話は終わった。クラス分けでザワついていたが生徒らは校長の次に立った男に目を奪われた。
「初めまして。特別教師として招かれたグラッチェス・カエレスティーボスです」
--なんで、ここに......。息が止まるかと思った。あの人が特別教師なんて、一度も聞いたことがなかったからだ。
切れ目のスカイブルーに少し不機嫌そうな顔。今日は式典だからか、グラッチェスは国で一人しか身につけることが許されていない、王家の紋章が織られている白色のマントと式典用の騎士服を身につけていた。遠目でしか見たことのないその姿を間近で見てしまい、その姿に胸が苦しくなった。
生徒らも知らなかったのか、じっとグラッチェスを見つめていた。
「私は時間があった授業や特別講座を開く予定です。事前に連絡できずに適当に会った生徒を連れ込んで授業する時もあるのでよろしく」
我が国最強の魔法使いに授業をしてもらえる--もしかしたら手合わせもしてもらえるかもしれない。生徒たちは興奮が治まらずグラッチェスに拍手喝采を送った。
隣でフローズがつついたりして、どういうことか聞きたがっている様子だったがサンディークスの方がどういうことなのか聞きたかった。
なぜ騎士団長ともなる男が魔法使いのたまごの学校に教師として招かれるのだろうか。
「おじ、カエレスティーボス様!」
「サンディか。どうした?」
「聞きたいのはこちらの方ですわ。特別教師だなんて......」
「元々呼ばれてはいたんだ。だがお前を教えるので手一杯だったし、それ抜きにしても時間がなくてな。ようやく周辺が落ち着いたから受けたのだ」
「そう、なんですね......しかし騎士団の仕事もあるのに本当に大丈夫ですか?」
「無理だったら始めから受けんよ。大丈夫だ」
「--、では先生の授業楽しみにしてますわ」
サンディークスは笑顔で一礼してフローズの元にかけて行った。
「フランマ、スンプレティウム・フランマ......うーん、覚えたところで扱えそうにないわ」
全寮制である学校の寮の一室で教科書とにらめっこしながらサンディークスは唸った。
実践なんて始めてやるものだから咄嗟に詠唱が口から吐き出されるか自信がない。それに対策はされているとはいえ、もしかしたら他の生徒を傷つけるかもしれないのだ。
はたして自分はそれを含めて魔法を使えるのか。サンディークスは頭をかかえた。
「サンディ、いる?」
「いるわ」
フローズの声がして答えると数冊の本を持って中へ入ってきた。
「どう? 何かいい方法見つかった?」
「全然だめよ。得意な炎魔法の詠唱を覚えようとしているけれど咄嗟に使えるか分からないわ......」
「そうよね......はぁ」
サンディークスとフローズは手当り次第教科書を読んで何かないかと探った。
--魔法薬学、魔法幾何学、魔法音学、実践魔法学の攻撃魔法に防衛魔法......あ!
サンディークスは声を上げ、一冊の本を手に取った。
「フローズ! これよ! これさえあれば、負けないわ!」
「これは......っ! サンディ! あなた頭いいわ! 確かに最後の五名になるまで残ればいいものね!」
サンディークスが手に取った本、防衛魔法の教科書をフローズも手に取り頷いた。
「そうと決まれば特訓よ! これをマスターして特別クラスまで残りましょう!」
二人は杖を取って練習場として新入生用に開かれた魔法練習室へ向かった。
次はバトルシーンなので更新遅れます