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旅立った日

エルウィンがレオンの家を訪れたのはウィライルの葬式から数日経ってからだった。今まで姿を見せなかったエルウィンの突然の訪問に驚いたのはレオンだった。そして、エルウィンの手に旅行用のカバンがあったのを見てレオンは愕然とした。

「レオン、挨拶しに来たんだ。まあ、わかるだろ?」

エルウィンはライザを連れて遠くへ行こうとしていた。自分の両親にはエルウィンがライザの今後を引き受けてレオンと話せる状態にするという旨の話があったのだ。

「エルウィン、勝手な事を」

「わかってるよ。でも、ライザがお前の傍にいたら悲しむばかりだろ?」

「それでも」

言い募るレオンに対しエルウィンは険しい表情ではっきりと告げる。

「ライザに一生深い傷を負わせたいのか?」

ウィライルの死は止められない。不可能に近い提案でしかウィライルをこの世界にとどめる方法は無いのだ。レオン達がどうにかできる方法はなかった。

だが、その事実をライザが受け止める事は難しい。ようやく両親を失った事を受け止めた矢先にウィライルが亡くなったのだ。その悲劇を嘆き、怒りを向ける対象は必然的にレオンになる。

レオンはそれでも良いと言うがまだ年端もいかないアレスがライザとレオンの事をどう受け止めるのか。

「レオン、別にライザを攫うわけじゃないし、ちゃんと連絡もできるようにする。だから今は堪えるんだよ」

同年代のエルウィンの言葉とは思えないほど重かった。レオンは何も返すことはできず、エルウィンの提案に頷いた。エルウィンは淡々と告げてレオンに連絡先を書いたメモだけ渡した。


レオンの自宅から背を向けて歩き出したエルウィンは祖父が始めた施設を思い浮かべる。自分たちを顧みず、仕事に邁進したせいで母は苦労していた。親戚も事業を始め、多忙を極めていた。親に甘える時間もなくただ事業を引き継ぐための勉強を強いられた日々に恨みがあった。唯一母は寂しさを癒そうとしてくれていたがそれも母が倒れてそのまま亡くなった事で終わった。

だが祖父が一線を引いて始めたこの小さな施設には温かさが詰まっていた。祖父は祖父なりに思うことがあったのだろう。だからエルウィンは規定年齢に達したらできるだけ祖父の施設で育った子どもたちを気に掛け、身元引受人として援助するつもりでいた。親戚も祖父に思うことがあるのかエルウィンの願いに対して協力してくれた。

人の死によって彩られた鈍色の青春が皮肉にもエルウィンを大人にさせた。決して悪いことばかりではなかったが鈍色の青春など楽しくない。エルウィンの強い願いがライザを見捨てられなかったのだ。


「ルーク、早くしてよ! エルウィンが来ちゃうでしょ!」

「わかってるわかってる」

「まあまあ、レイリア」

荷造りに苦戦しているのはルークだけだった。レイリアの小言に対しルークは珍しく焦っていたがルークの荷物は多い。ライザとレイリアがそれぞれまとめて持ち上げてルークの荷造りは終わった。その瞬間やって来たのはエルウィンだ。

「おはよう、準備は出来たか?」

「今終わったよ」

ルークが答えるとエルウィンは苦笑気味に頷いた。


道なりに行けば園長と子どもたちが傍にいた。園長は寂しそうに見守り、他の子はライザ達を見送っていた。

「じゃあ、また逢う日まで!」

「今までお世話になりました!」

レイリアとライザとルークが手を振って飛び跳ねる。園長とエルウィンは終始無言で曖昧に笑っていただけだった。だが時間は待ってくれない。

「みんな、元気でね!」

「また遊びに来てね!」

「うん、絶対行くから!」

ライザとレイリアとルークは相変わらず無邪気だった。返してくれる子どもたちも元気だった。子どもは風の子と言うが本当なのかもしれないとエルウィンはしばし考え込んだ。


しかし、船がある港へ歩き始めた途端、三人の声は止んだ。歩いているからなのかもしれないが、ライザを慮って取り繕っていたのだろう。自身の鈍色の青春に対して傍らにいたのはレオンだった。レオンは何も言わないが変わらずに友人として接してくれたのだ。エルウィンにとってレオンは大事な親友だった。そんなレオンがライザに寄りかかって、ライザがレオンを責め立てる関係を見ていたくなかった。だからといってライザ一人だけ引き取れば暗い影に心を苛むかもしれない。

ライザを理解し、変わらずに傍らにいるルークとレイリアにも協力してもらえば、不可能を可能にできるだろう。レオンがウィライルの願いを叶えようとした心を理解し、ウィライルの死を静かに受け止められる。

ルークとレイリアもライザの事は放っておけなかったのか協力すると言ってくれたのだ。行き場が無かった不安もあったのでエルウィンの提案に対し便乗したのもあるだろうが。


港につき、船を待ってると船は直ぐに来た。丁度良かったのである。三人は船に乗り、空を見上げる。

白いカモメが入道雲を切り裂くように羽ばたき、青い空を背にして何処までも飛んでいた。

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