そして宴は続く
「――姉さん!?どこに行ってたの?!」
まあそうよね。
アリアーヌの思った通りに、会場に入った途端すぐに妹が駆け寄ってきた。
そのすぐあとにシャールも続いている。
二人は踊ったのだろうか。
僅かに頬が赤いが、それは今焦っているからにも見える。
今日のピンクのドレスにピンクのバラを一輪胸元に挿した妹は、実に美しかった。
きっとシャールがいても、ダンスを誘う相手がひっきりなしに現れていただろう。
「アリアーヌ、僕もコリンヌも心配していたんだ。……どうしたんだい」
シャールが怪訝そうな顔でジュードを見やる。
彼の評判を知ってはいるのだろうが、口には出さないのがシャールらしい。
だから、アリアーヌはジュードの腕をしっかりと取って言った。
「ごめんなさい、シャール、でももう大丈夫よ。私今夜はジュードに送って貰うし」
どうぞ二人で踊って来て?
そう、一応艶然と微笑んだつもりだが、多分顔は引きつっていたろう。
でもきっとシャールにはよくは見えていない。
「……なんだって?!」
「今夜のアリィ、アリアーヌは俺と踊って貰うのでね」
ジュードがあくまで口調だけは丁寧に、シャールに告げる。
それは宣言であり、シャールの返事を聞くまでもなく、二人でフロアへと進んでいく。
「……なかなかお似合いじゃないか、あの二人は」
「ええ。そうでしょ?」アリアーヌが頷くと、ジュードも頷き、そのまま一緒にステップを踏む。
丁度テンポの速い舞曲だったのが良かったと彼女は安心する。
これがゆったりとした円舞曲なら、もっと一杯話してしまっただろうから。
コリンヌは円舞曲が好きで、シャールも好きだ。
アリアーヌはこれ位早い方が好みだけど、二人には余り口に出しては言えずじまいだった。
ジュードは流石にダンスが上手い。
気付けば人々の視線を集めているし、踊りも上手くなったように錯覚する。
今だけはアリアーヌもヒロイン気分だ。
……コリンヌは、シャールは、どうしているかしら。
そっと目を向けると、二人は茫然とこちらを見つめていた。
アリアーヌは笑いかける。
一緒に踊りましょうよ、どうせなら。
「アリィ」
そう思った時、ぐい、と躰を引き寄せられる。
「……踊っているときに、俺以外を見るなよ?」
ジュードが楽しそうに囁いてきて、アリアーヌは一瞬本気で顔が熱くなった。
これは凄い威力だ。
そう思いつつ、心の奥底は複雑だった。
踊った後アリアーヌが二人の反応を伺うと、どうやら見当たらない。
どうしたのだろう、もう帰ってしまったのだろうか。
汗を掻いたし、化粧直しもしたいので、少し外に出ることにした。
ジュードにそのことを伝え、廊下に出る。
化粧室の前まで来たとき、不意に声が聞こえたのだ。
「人の婚約者に色目を使ってるんじゃないわよ、貴女」
「そんな、あの方に婚約者がいるなんて存じませんでしたし、お誘いはお断りしました」
――コリンヌ!
慌てて彼女が中を覗くと、どこぞのご令嬢かがコリンヌに詰め寄っている。
綺麗なドレスや凝った髪形も台無しだ、その醜態じゃあ。
「隣に居た方、婚約者でしょう?しっかり捕まえて貰ってなさいな」
「いいえ、シャールは姉の婚約者です、私には、」
「あら、姉の婚約者にも手を出していたの?可愛い顔して、怖いこと」
ばん!
アリアーヌは勢い余って、力いっぱい扉を開いてしまった。
中で令嬢とコリンヌがぎょっとした顔でこちらを見ている。
「あら、あなた、うちの妹になにか?」
あくまで優雅に、出来れば艶然として、アリアーヌは中に入っていく。
流し目のつもりだがじとっとしているだろう視線を送りながら。
「い、いいえ、何も。失礼するわね」
令嬢はいそいそと化粧室を出て行った、さっきの剣幕は婚約者に捧げるといいと思う。
そうアリアーヌが思って見送った時、
「姉さん、ありがとう。……ねえ、さっきのことなんだけど」
コリンヌが思い詰めた顔で声をかけてきた。




