会議は踊らん哉
「分かった。協力しよう」
「本当に?!」
アリアーヌは耳を疑った。
まさかこんなに上手く行くとは思ってもみなかったのだ。
ひょっとしたら己は本当にジュードを篭絡しつつあるのかもしれない、いやそれはないか。
内心で苦笑しつつ、アリアーヌはできる限り色っぽく笑ったつもりだった。
恐らくは内心通りの顔にしか見えていないだろうが。
「ありがとう、そう言ってもらえると思っていたわ」
そう言うと、ジュードが此方は本当に艶やかに笑って返す。
「思ってないだろ、絶対。……お前は平凡な娘なんかじゃない、危ない馬鹿だ、俺が保証してやる」
「それ、保証されるべきことなのかしら」
美形に言われてもあまりうれしくない言葉というものはあるものだ。
アリアーヌは新たな発見が今日は多いと思っていた。
「まあ、しようがしまいがお前が見事な馬鹿というのに変わりはないだろうが。だが、面白い馬鹿であると思う。少なくとも己の婚約者と妹を結び付ける為にこんな無謀なことを考える奴は存在しないだろうからな。婚約破棄の中でも最悪にもほどがある。だから、それを成し遂げさせたいと思ったんだよ、俺は」
つまりは興味本位だ。
面白がられているだけだ。
だがそれでいいとアリアーヌは思う、ジュードのような男が動いてくれるだけで僥倖なのだ。
彼の様に悪徳と身分の有る美男子がいなければ、自分の望みはかなわない。
一人ではどうしようもないのだから。
「こんなに馬鹿バカ言われたの初めてなんだけど」
なので、少々減らず口を叩くことにする。
「ああ、俺も女にここまで馬鹿と言ったのは初めてだ!こんな馬鹿は生まれて初めて見た」
いっそ褒められている気になるのは、美形の口から感嘆符付で出るからだろうか。
被虐趣味があればさぞや楽しかったことだろう。
生憎そんなものがあれば、今こう云う状況に陥っては無いのだが。
「ちゃんと成功させて見せるから、楽しみにしてて頂戴」
「ああ、こんな話は滅多にないからな。是非ともそうしてくれ、いい退屈しのぎだ。…それに、」
「それに?」
不意に言葉が途切れ、アリアーヌは聞き返す。
ジュードは一瞬何か言いかけたが、すぐに笑って見せた。
「……いや、何でもない。お前が何を考えているのかは、出来る限り伝えておいて欲しいがな」
「そうね。取り敢えず、これから一緒に踊りませんか?」
「……ああ」
実はこれ以上のことはあまり考えていなかった。
なので取り敢えず笑って、ダンスの誘いをかける。
此処でこのまま逢引を続けていてもいいが、誰かに見つからないまま夜会が終わってはいけない。
それを聞いてジュードは、楽しげな笑みを浮かべた。
ふん、と笑った顔はここにやってきた色男のそれに戻っていて、彼は颯爽と立ち上がる。
一瞬見惚れてしまい、遅れて立ち上がろうとしたアリアーヌに、彼は手を差し伸べた。
「さあ、アリィ」
「え?」
柔らかな甘い声で、ジュードがアリアーヌを呼んだ。
「そう呼んでもいいだろう、アリィ。俺は君に落とされたんだからな」
シャールにも呼ばれたことがない、特別な愛称。
流石はジュードだ、易々とそんなことを囁いてくれるなんて。
「……ええ」
彼の手を恭しく取り、ゆっくりと立ち上がる。
今度は堂々と、二人で会場に入っていくのだ。
さあ、最初で最後の婚約破棄劇の始まりだ。