「転生」を夢見る「最強」のいじめられっ子
ーープロローグーー
転生したら最強のイケメン剣士になった。
転生したら美少女になった。
転生したらヤ○チャになった。
ああ
そんなものク○喰らえだ。
ーーーー
何が転生だ。そんな自分に都合の良いものに生まれ変わることなんてあってたまるか。
そんなことを考えながら、ぼくは今日も教室の隅で本を読んでいる。
毎日のようにいじめられているためか、性格も捻くれてしまい、小説も最近ココロの底から楽しめないでいる。
と、誰かに肩を殴られた。
(ああ、またか…)
『おいおぉい? また一人で読書ですかあ?』『毎日飽きないねえー!? この、ぼっち野郎!』
そう
ぼくは、友達がいないいじめられっ子だ。
弱肉強食社会の『強者』であるクラスのいじめっ子が、ぼっちで根暗な『弱者』のぼくを楽しそうに殴る、蹴る、髪を引っ張る。
こんなことは日常茶飯事だ。
『いじめる人はもちろん悪いが、いじめられる人にも原因がある』と言う人もいるが、どう考えてもそれはおかしい。
だってぼくは犯罪も犯したことも無いし、いじめられる原因を作ったわけでは無い。 単にぼっちの根暗だからという理由でいじめたり殴ったりするのはどう考えてもおかしいだろう。
「さっきからしつこいんだよ!」「殴り返してやるよ!」
と言い返せば、変わるかもしれないのに、何もできずにいる。いや、本当はやり返した後、暴力がエスカレートする事を恐れているのだと思う。
結局ぼくはいじめっ子から逃げることもできない、仕返しすることもできない。
そんな『弱い』自分が
嫌いだ。
ーーー
「ああ、今日もつまらない1日だな。」
小説なんて…リアルなんて…
毎日つまらない事を考えてしまう。
しかし、今日いじめっ子に言われた「毎日読書で飽きないのか?」という言葉がどうも引っかかる。
いつもなら気にせず颯爽と家に帰るのに、何故だか今日はその言葉が気になってしまい周りの景色に目をあてる余裕がなくなっている。
確かに、一人で本に齧り付き、空想にふけるような毎日に飽き飽きしているのは確かだ。
ぼっちでつまらない毎日を送っているなんて、自分が一番わかっている。
でも、いったいどうすれば良いんだ…。
「…こんな時、漫画の主人公ならどうするのかなあ」
そんな言葉を口ずさみ、顔を上にあげた。
その時だった。
ドォーン
今までに感じたことのないような衝撃が身体に走った。
何が起きているのか全くわからない。
何だ?
何が起こったんだ?
『おい!』『大丈夫か!?』『救急車を呼べ!!』
そんな慌てふためくような人々の声が聞こえてきた。
サイレンや人々の騒がしい声を耳に、横たわっていると、身体に何かが流れているのに気づいた。
出血だ。
『しっかりしろ!』『気をしっかりもて!』
…ああ
自分への励ましなんて久しぶりだ。
ずっと一人ぼっちで、応援された経験なんてほとんどないから、こんな状況も悪く無い気がする。
励ましの言葉からか、自分の情けなさからか、久しぶりに涙が出た。
「…あぁ、ぼくはもう死ぬのか…」
「どうせなら…」
「来世はイケメンか美少女に生まれ変わりてえな…」
「も…もう、疲れたな」
そんな事を考えているうちにぼくの視界は真っ暗になった。
ーーー
あれからどれくらい経ったのか。気がつくと「ぼく」はベッドにいた。
…もしかして
…転生したのか?
そんな淡い期待を胸にソワソワしながら、あたりを見渡してみると、おそらく病院にいることがわかった。
しばらく、ベットの上でぼーっとしていると、誰かが部屋に入ってきた。恐らく医者だろう。
ぼくと目があって、目の色を変えて
『あなたがトラックに轢かれて、トラックが大破しちゃったみたいよ!』
『トラックの運転手は全治二ヶ月の重症!』
は?
『あんたは軽い怪我で済んだらしいけど… あんた何者なの?』
は?
「なるほど、つまりどういう事だ?」
『つまりこういうことだ』そう言いながら、医者は続けて言った。
『相手の信号無視による交通事故だったけど、何故か知らんが、あんたの怪我は軽症で、もう治った。後遺症とかも全く心配がないから明日退院して良い。』
「え?」
いまいち理解ができない。
「というと、ぼくは事故をキッカケに頑丈な身体に転生したってこと?
『転生? アニメの見過ぎじゃないか? あんたは事故の前と全く変わらないぞ』
『じゃ、お大事にな。』
そういうと医師は部屋を出て行った。
…
「え?」
…
「…つまり?」
この事件でぼくは気づいたのだった。
ココロのどこかで転生を夢見ていた「ぼっちのいじめられっ子」のぼくは…
「転生する必要の無い、ぼっちのいじめられっ子」である事を。
ーー続く