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カオナシ姫と失われた宝  作者: 弓かかし
1章 プロローグ
9/11

9 推しと縁(えにし)の後先①

推しが複数いるとタイヘン。

 「泣いたって、嘆いたって、仕方ないわ。」

 冷え冷えとしたソイラリアの声が響く。

 女王、いや、ハラミは、辛そうな表情で言った。

 「そうやのぉ……。妾は、ハバリウム国王夫妻に聖鎖を託されたのもあるし、妾自体この聖鎖に思い入れが強いのもあって、妨害しようとしておったのじゃが……妾には身に余る任じゃった……」

 ハラミが纏っていた力は霧散し、そこには巌のような老婆が残されていた。老婆は、弱々しく続ける。

 「ソイラリア様。本当は、妾は、ウチは、ずっとあなたのことが忘れられなくて……ごめんなさい、な。あなた様の妨害しかできなくて、その上、数多の人の命さえ奪って、この世界をボロボロにしたウチ……には言う資格なんてないかもしれませんけど……生きて、ください……あと、お姉さんのこと、忘れないで……」

「ハラミ様? ま、まさか……」

「貴方を倒さなければ私の命が尽きる契約、が、発動したのです。……ああ、これ、自分にかけたの、ウチ、ですから。ウチの命をもって、聖鎖、聖剣、聖鏡、聖盾の代わりとすることができるのですよ……2万年も生きた、死に損ないの最期の仕事です。ご査収ください……」

「ハラミ⁉︎ あなた、なんてことを……」

ソイラリアの声が震える。

ハラミは、最初から自分の命をもってソイラリアの呪いを解く気だったのだ。ソイラリアは、ハラミに駆け寄り、左手を握り、肩を抱いて支える。

 「やっと……再会できて、これからお話できると思っていたのに……」

 「大丈夫ですよ。だって、沢山戦え(おはなし)できましたから……ただ、お姉さんに会えなかったのだけが、心残りです、ね……」

 その時、女王は右手に、何かが押し込まれるのを感じた。それは、とても暖かいものだった。

 「これは……えっ……お姉さん、の、コア……」

 優しい赤い光がその水晶の(コア)から溢れ出していた。

 「よく……頑張りました。ハラミ様。」

 ハラミの右手を、紅き水晶と一緒に、シシィが優しく包み込んでいた。優しい桜色が、ハラミの視界を覆っていた。

 「おねぇ、さん……? 」

 「はい。ずっと、ずっと、貴方を(ここ)から見守っていました……貴方に声を届ける手段があれば、ハラミ様を、貴方を、ここまで苦しませずに済んだのかもしれませんが。ーーそれに、ソイラリア様も。」

 シシィは遠いところを見やった。ぽつり、ぽつりと言葉を紡ぐ。

 「青の魔王以外にお話するのは初めてですが……私には、前世と、前世の前の生の記憶があります。」


 前世の前の生ーーシシィは、体の弱い女の子だった。享年19歳。外の世界に憧れて、親の監視を振り切って出かけた先で交通事故に巻き込まれたのだ。外で遊ぶこともあまりなかったシシィは、物語とゲームを愛した。物語とゲームが彼女の全てと言っても過言ではないほどに。

 ただ、毎日物語やゲームをしていると、いつかは飽きがくるものだ。

 (つまらない。あれもこれもみんなみんなつまらない。)

 オンライン世界をシシィは彷徨った。これだ! 、というような出会いを求めて。絶世の美味を求めて。自分の心にポッカリ開いた孤独の穴にぴったりハマるパーツを求めて。

 ある時、シシィは運命のゲームに出会う。

 ゲームのタイトルは、『ステラアリア〜定められし花と犬神〜』

 ゲームの主人公は、勇者の妹ステラ。彼女は、赤ん坊の頃、『世界の意思』と呼ばれる天災で両親と生き別れになり、兄とともにとある村の村長に拾われ、育てられる。彼女は、相棒の犬(実は犬神。プレイヤーは犬種と毛色、性別、名前を自由に設定できる。)とともに兄勇者の冒険に同行し、生き別れの両親と世界を救う旅に出る、というのが大筋だ。ステラ達は、旅の途中で、その身に宿した時を超える能力(ゲーム内では『星の呼び声』という名が付けられている)を用いて、過去から未来にわたって多くの旅の仲間と出会う。そして、プレイヤーは、ストーリーを進めながら、様々な仲間達の固有スキルや、装備スキル、そして、ゲームオリジナルの戦闘システムである『星座の力』を駆使することで強敵を倒していく。

 ストーリーの奥深さと、戦闘面の面白さ、そして、魅力的な仲間キャラクター。それらが人気を呼び、2次創作界隈も賑わった。

 シシィは、そのゲームの中の二人のキャラクターを推していた。騎士のソイラリアと、NPCながら圧倒的な存在感を見せる未来の学園の生徒・結生ハラミである。一見共通点のない二人。どこに自分が惹かれたのさえ分からなかった。

 ハラミはNPCで、ソイラリアはSRランクのキャラ(キャラのランクは、下からR、SR、SSR、UR)でしっかり育てれば使えなくはないが、上位互換が存在する、といった位置づけだったので、二人の人気はそれほど大きいわけではなかった。それ故、シシィは自分で二次創作のイラストや小説を積極的に生産していた。

 彼女の死ぬ間際の時間は、『ステラアリア』一色だった。親に隠れて外出したのも、限定グッズ目当てだった。


 「その為、……剣翼界で、ハラミ様のお付きの自律人形に転生したときは、嬉しさのあまり心臓が止まるかと思ったんですよ。あ、自律人形に心臓はありませんけどね〜。」

 「ほんまにゲームだったのやな……」

ハラミは、呆然としながら言った。

 「それなら、シシィは、勇者に倒されることをわかっていて倒されたの? 」

 ソイラリアが問う。シシィはにっこりと微笑んで頷く。

 「ええ、それが、モブエナミーの定めですから。モブエナミーは、シナリオに、決まりに逆らわず死ぬ使命を持っていますから。それに……私が死ぬことで推しと推しが仲良くなるシナリオを私は知っていたので、むしろ蜜のような日々、宝物のような死でしたから。前世、交通事故という人に迷惑をかける手段で死んだ私が、エナミーとして倒されて有効利用していただける上、推しと推しの絡みのフラグになるとか幸運が過ぎましたわ♡ 」

 シシィはたいそう嬉しそうに話す。

「でも、一方でハラミ様を置いて死ぬのが辛かった自分がいます。ーーそして、ここからが問題です。」

 シシィは顔をきりっと改めて言った。

 「ハラミ様がゲームを作り、ソイラリア様と出会った所まではシナリオ通りでした。しかし、勇者が何者かによって封印されたり、ハラミ様とソイラリア様が異世界に飛ばされるなんてことはゲームの中では、どんな条件でさえ発生しなかった……つまり、2万年前から剣翼界は、ゲームのシナリオから外れた別物の世界になっています。予測不能な別物に。」

 ーー「それを知っていて、今まで何もせずにいたのは、何故だ? 」

 突如降ってきた声と共に、現れた青の匂う銀白色が、風のようにシシィとソイラリアから女王の姿を奪った。

 「マリン……? 」

 ソイラリアの呟きに風は人の姿をとる。

 「ソイラリア様。人形の許しを。」

 「許す。」

 ソイラリアの言葉と共に、風は青を纏う銀白色の長髪に薄紫色の目が印象的な、美しき青年の姿をとった。


 「青の魔王……? 」

 その腕の中で呟いた女王の姿は、輪郭からおぼろになっていっている。命が終わりを告げているのだ。青の魔王と呼ばれた青年は、流れるような動作で、女王の唇に口付けた。

 その途端、女王と青年は眩い光に包まれる。

 しばらくして光が収まると、そこには青年に抱き抱えられた少女の姿があった。

 青の魔王は、恍惚とした表情で腕の中の少女に話しかける。

 「やっと、君を救えた……」

それは、まばゆき情景。ここが楽園であるかと錯覚するような。

 しかし、ソイラリアの曇りなき目は、天をよぎった不審な影を見逃しはしなかった。

 「危ないっ! 」

 青の魔王と少女に駆け寄り、力いっぱい突き飛ばす。


 一拍遅れて鮮血が舞い散った。


 次の瞬間、心臓を剣に貫かれたソイラリアと、彼女を剣で貫いた黄色い頭の浅黒い男の姿があった。


 「カーッカッカッカッカ!! 」


 男は嘲り笑った。


 剣を引き抜かれたソイラリアは、糸の切れた操り人形のようにその場に倒れ伏した。


 「ソイラリア様ーっ!!!! 」

 シシィの絶叫が、壊れた屋敷の天蓋から外に溢れ出し、奈落山を揺さぶる。


 真っ赤な12の満月と、青い三日月が天を飾っていた。


 「全て、全て、俺のシナリオ通りなんだぜ。つっはーっはっは。」


 ソイラリアの血は、ドクドクと地面に血の海を作っていく。

マリンの正体は、青の魔王。何故魔王は犬になっていたのでしょうか?

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