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眠り屋 〜夢の綴り帳〜   作者: 三千
真白(ましろ) −宿根カスミソウ
14/63

大切


昨日から続いている、ふわふわとした気持ちで、朝を迎える。


気持ちの持ちようとは、上手く言ったものだと思う。

こんな朝は身体のどこもが軽い。


「何だかすっきりと目が覚めました。んー、気持ちの良い朝です」


直ぐにバゲットと卵といういつものシンプルな朝食を取り、外へと飛び出す。


ぴったりと言って良い、約束の時間に到着する。

すると、もちろん。扉の看板に「open」の文字。


僕は嬉しくなって、身体中を震わせた。

横に滑るドアをカラカラと音を立てて開ける。


「いらっしゃいませ」


その声が、さらに僕に喜びをもたらす。


「こんにちは」


僕がにこっと笑うと、美しい店主も笑った。


そのままの笑顔で、どうぞ、と手で花を勧めるジェスチャーをする。

その優雅な所作に、思わず僕は見惚れてしまった。


空色のTシャツに濃紺のジーンズ姿。そしてシンプルな帆布で出来た生成りのエプロンをつけていて、そのエプロンのポケットには園芸用の軍手、切り鋏の柄、ハンドタオルがそれぞれ顔を出している。


それは完璧と言える程の、花屋の店主だ。


昨日、店の前で出会った時に着ていた花柄の明るいワンピースとは、またがらっと違った雰囲気に、少しだけ驚いた。


「どのような花をお探しですか?」


僕は、僕が仕事で花を使うことと、今は残念ながら仕事を請け負っていない旨を、簡易に説明した。


「あら、ではお花は必要ありませんね」

「いえ、今日は違う用途の花束をお願いしたいと思います」

「はい、どうぞ」

「家族の命日が明日なので、白い花束を」


女店主は、先程まで浮かべていた花のような表情を、少しだけ曇らせた。

ゆっくりと睫毛が半分伏せられて、眉も波を打つ。


その様子を見て、僕は慌ててしまった。


「あ、大丈夫です、もう乗り越えました。お気遣いなく」


そう言うと、彼女は直ぐに頭を少し下げて、言った。


「お悔やみ申し上げます」


そして、手を伸ばして一本の花を引き寄せる。


「ホワイトレースフラワーです。いかがですか?」

「とても可愛らしい花ですね。家人も喜びます」

「では、これを基調に花束を作りますが、ご予算は?」


僕は、墓参りで花を持って行くのに、このように一から作って貰ったことがなかった。いつもは出来合いの仏花を、二、三千円の予算で買っていると言うと、


「では、そのようにお作りしますね」


と言ってから、色の薄い花を指で手繰っては重ねていき、最後にその周りをかすみ草で埋め尽くすと、こんな感じでいかがでしょう、と僕に顔を向ける。


「うわあ、お上手ですね。とても可愛いです」


そして。

ふと。


彼女の、その花束を持つ指に目が留まった。


花束の根元に絡められた細くすらりと長い指が。

象牙のような乳白色に変色し、まるで血の通わない、肌の色となっている。


真白ましろ


それを見つけてしまった僕が、どう言葉を掛けて良いのか躊躇していると、彼女は薄っすらと笑って言った。


「すみません、気持ち悪いでしょ。持病があって、こうなっちゃうんです。少しこれ、持っていて貰えませんか」


白を基調に淡い色合いで集められた花たちを手渡される。

僕は、その花束より真っ白な指に、触れるか触れないかで握り直すと、彼女を見た。


女店主は側にあったハロゲンストーブのスイッチを入れると、そのオレンジ色に発光する暖かい器具に手をかざす。


その手の指はその付け根から、少し距離を置いたこの場所からも見て取れるほどに、色がなかった。


人間、これほどまでに肌の色を失えるのかと、いうほどに。


僕は仕事柄、あまり他人の事情に足を踏み入れないようにと、普段から気を配っている。

けれどこの時、この人は問い掛ければ答えてくれる、独りよがりであるかもしれないが、そんな気持ちの疎通があるように思えて、僕は敢えて問うた。


「大丈夫ですか」


すると、暖められて白い指に血が通い始めたのか、指の先がほんのりとピンクに色づいてきた。


次には指全体が白とピンクのまだら色になり、徐々にピンクの部分がその面積を増やしていく。


「暖めれば、大丈夫なんです。ご心配をお掛けして」


ほら、と手をこちらに向けて、指をにぎにぎする。

その色は赤味がかった生来の血色と肌色を取り戻していた。


僕の方へと近付いてきて、花束を受け取る。


そして、茎の長さをはさみで揃えると、そこへ水で湿らせたスポンジのようなものをあてがい、銀紙で巻いた。

最後に、丸められた包装紙を引っ張り出して、くるりと覆う。


可愛らしい花束は、女店主によって、あっさり出来上がった。

僕がお代を払おうと、財布を出したところで、声が掛かる。


「もし宜しければ、お茶でもどうですか?」


僕は、すかさず頂戴します、と答えて、彼女を笑わせた。


そして、僕がお願いした花束を器用にも作り上げていった彼女の手が、今度は要領良くコーヒーを淹れていくのを、差し出された丸椅子に座って、じっと眺めていた。


湯気のくゆるコーヒーカップを、こちらに差し出しながら、彼女は話し始めた。


膠原病こうげんびょうの一種なんです。レイノー症と言って、寒さや冷たさで、指があんな風に真っ白になってしまうんです。脳が寒さを感じるだけで、一気に血液が指先に回らなくなってしまって……人間の身体とは、不思議なものですね。原因不明の病気なんです」


カップがカチャンと音を立てる。


「あ、まだ今のところ命に別状はありませんから。お気遣いのないようにお願いしますね。冬は症状が酷いのであちこちにストーブを置いてあります。けれど、夏は大丈夫なんですよ。気温が暖かければ白くならないんです。だから出来るなら、暖かい場所に住みたいんですよね。もう赤道直下の国にでも引っ越して、サンバでも踊りたいくらい」


彼女はふふ、と笑って、自分のコーヒーカップを取り上げた。


「それで、夏の間だけの花屋さんなんですね」


僕は、差し出されたコーヒーカップに伸ばした手を、はっと止めた。


「ふふ、お聞きになりました?」

「すみません、ご近所の方でしょうか、教えてくださいました」

「心の病、みたいなこと言ってませんでした?」


僕はバツが悪いような面持ちで、カップを取って一口啜った。


「はあ、まあ」


言葉を濁しても意味がない。

けれど、そうでもしなければ、僕は途端に居たたまれなくなり、その場を離れてしまいたい気持ちになっただろう。


「良いんですよ、噂には尾ひれがつくものです。皆さんが仰ることの、半分は当たり。半分はハズレです」


コーヒーを美味しそうに飲む。

彼女のそれは、ミルクがたっぷり入れられたカフェラテ。


まだ淹れたばかりで、ミルクとコーヒーの色が混じり合っていない、そのマーブルの模様が徐々に崩れていく。そのマーブルと同じような複雑な思いを、僕は抱えた。


「夏にはお店を開けるのに、冬には引き籠ってしまう。調子の良い時と悪い時がある、うつ病などと同じ様に見えるのでしょうね。冬の間は、本当に引きこもりです。テレビを見たり、本を読んだりするぐらいで。それに冷たい水や冷気が大敵の、レイノーの私が花屋をやろうっていうのが、とうてい無理な話なんです。ふふ、花屋のくせに、秋と冬は花の名前すら知らないんですから。おかしな話ですよね」


「そんなことはありません。僕にも知らないことはいっぱいあります。それに、冬には冬の楽しみ方がありますよ。冬の間に、部屋の中でできることがたくさんあるはずです。そうだ、図書館で図鑑を借りてきて、秋や冬の花の名前を覚えるっていうのはどうですか?」


彼女はきょとんとした表情を見せてから言った。


「そうですね、そんな風に考えたことは……秋や冬の花の名前なんて、私には不要だと思って、気にもしませんでした」


そして、何かを考えるようにして俯く。

そんな彼女の様子を見て、僕は良いことを思いついた、というようにして言った。


「では、こうしたらどうでしょうか。夏はあなたが外へ出て、冬は僕があなたの元に訪れましょう。それで僕をあなたの話し相手にするというのは?」


女店主は、驚いた表情を見せた。

目を見開いて、僕をじっと見ている。


その目の持つ意味に突然気づいた僕は、慌てて言い直した。


「わ、すみません。何かナンパみたいでしたか。そんなつもりは全然ないんですけど」


あわあわとして、言い訳を探す僕を見て彼女は何と、腹を抱えて大笑いをした。


あはは、と大口を開けて笑っている顔は、その端正な顔立ちが台無しになるような、そんなくしゃくしゃの笑顔だった。


目尻に深い皺ができ、涙が滲んでいる。


「はは、ふふ。あーおかしい。ごめんなさい、ナンパだなんて、思わなかったんですけど」


そして、また笑い始めた。

今度は、くくっとおかしさを抑え込むような、そんな笑い方をして。


僕はつられて照れ笑いを浮かべながら言った。


「え、あ、うわ僕、めちゃくちゃ恥ずかしいこと言ってますね。馬鹿だなあ、」

「お名前、お訊きしてもいいですか?」


顔に笑いの余韻をたたえながら彼女が突然、思いも寄らぬことを訊くので、僕は小さく驚いた。

その驚きと共に、答える。


「矢島と言います。あなたは?」

「私は、」


しばしの沈黙。

けれど、まだその顔には薄っすらと微笑が漂っている。


小野おのです」

「小野さん、宜しくお願いします」


そして、花束の代金を払って帰る間際、彼女は言った。


「矢島さん、夏の間はお店を開けますので、是非お立ち寄りくださいね。今日はありがとうございました」


そして、僕はそんな花屋の小野さんとの出逢いを胸に抱いて、翌日墓参りに行った。


ホワイトレースフラワーの花束を持って。


僕は生涯、僕の隣で笑いながら寄り添ってくれるはずだったリエコさんと息子の七緒の墓の前で、佇んでいた。


僕の最愛だった人たちだ。


病気で仕方がなかったとはいえ、彼女と彼女のお腹の中で育まれていた息子を同時に失った痛み。それは想像を絶するもので、立ち上がるのに数年、立ち上がってから一歩を踏み出すのに、さらに数年を要した。


やっと今、こうして墓参りの場に辿り着き、少しだけ微笑むことができるようになった。

けれど、その傷は僕の中に今もどしりと腰を下ろして、僕の生を苛み続ける。


それを乗り越えていくのに、僕は「眠り屋」の仕事をその糧としてきた。


たくさんの人との出逢いや美しい想いにまみれながら、僕はやっとのことで生きているのだ。


花束を墓の前に置く。

この花の花言葉には、可憐な心、細やかな愛情、繊細などの意味がある。


「全てが、あなたに当てはまります、リエコさん」


そう呟くと、リエコさんがはにかむように笑ったような気がして、僕は嬉しくなった。

この花を選んでくれた花屋の店主に感謝したい。


「七緒と一緒に、また一年眠っていてください。来年、また会いに来ますね」


別れを告げる。


温く気持ちの良い風に、くるくるの髪を弄ばれながら、僕は事務所のある町へと僕を運んでくれるバスを待つ、停留所へと向かって歩き出した。


✳︎✳︎✳︎


日中になると、肌が少しだけ汗ばんでくるのが心地良い季節のある日。


仕事の関係で花が必要となり、僕は夏だけ開店するあの花屋へと向かっていた。


お店の前で、「open」の文字を確認すると、僕は嬉しくなって扉を開けた。


すると、リンリンと鈴のなる音がする。

見上げると、ドアベルがその音の名残りを漂わせていた。

これは前回お邪魔した際にはついていなかったように記憶している。


「矢島さんがいつ来られても分かるように、つけてみました。いらっしゃいませ」

「それは嬉しいですね、今日は仕事で使う花をお願いします」

「分かりました、どのような花を?」


どのような花をと聞かれると、仕事の内容をある程度話さなければ、適切なアドバイスを貰うことができない。なるべく依頼人の状況に沿った花を選ぶようにと、確かに僕は花言葉などを本で調べたりはするのだが、もっと花に詳しい人にも、広くアドバイスを貰いたいと、常日頃から思っていたのだ。


そんなわけで、プライバシーに抵触しない程度に今回の依頼の内容を話し始めた僕に、話の腰を折らないようにと控え目に椅子を勧めてくれた小野さんは、香りの良い紅茶とチョコレートを僕の目の前に用意してくれた。


「不思議なお仕事をしていらっしゃいますね」


依頼者の夢の中へと入って、その依頼者が抱えている問題を解決に導く。


こう説明すれば大体は不審がられるこの仕事ではあるけれど、僕は必要な時には何時でも誰にでも、臆する事なくこの仕事内容を話している。


「眠りに入る時に、あ、それを入眠って言っているんですが、花びらを使うんです。その花びらが依頼者に寄り添ったものであると、これはまあ、気持ちの問題ですけど、そういった花びらを使うことによって、僕が依頼者に寄り添うことができるというか。だから、花言葉を大切にしています」

「では、この前のご家族の命日の時にお作りした、ホワイトレースフラワーの花束は、」

「可憐な心、細やかな愛情、繊細。どれも彼女にピッタリの意味で、僕はとても嬉しかったですよ」

「良かったです。それを聞いて、ほっとしました。私、不勉強なもので。それで矢島さんは花言葉にもお詳しいんですね。この前も、ガーベラの花言葉の話をしていましたものね」

「ああ、はい。白のガーベラが珍しかったもので。あまり他では見かけませんよね」

「いつも花の色を見て仕入れているんですよ。うちのような小さなお店は、あまり種類とか揃えられないので、在庫のある花で花束を作らなきゃいけないし、そうなると配色とかがどうしても限られてきちゃうんです。なるべく、お店にある花の色を考えて仕入れるんで、あまり色味の強いものを何種類も揃えられなくて」

「なるほど、それでこの落ち着いた色合いになるんですね。僕はそれが嬉しくて仕方ありませんでしたけど」


ここで、隣町にあるチェーン店との経緯を話す。


「品揃えも豊富ですし、良いとは思うんですけど、落ち着かないっていうか」

「ふふ、矢島さんには合わないかもですね」

「そうなんですよ……って、僕が地味だって言いたいんですね。まあ、それは否定しませんけど」

「地味」の特徴の一つでもある丸いガラスの入った眼鏡をかちゃりと指で上げる。


小野さんはあははと笑って、チョコレートを口にぽいっと放り込んだ。

ここでフォローがないあたり、どうやら本心のようだ。


僕がむうっと唇を突き出していると、小野さんは笑いながら立ち上がり、奥へと入っていった。


直ぐに戻る。


手には、一本のピンクの花。

粒と言って良いほどの小さな花がぎっしりと並ぶ、可愛らしいものだった。


「ドライフラワーにもよく使われるスターチスです。花言葉は、確か『変わらぬ心』だったか、今調べますね」


園芸や切り花、果ては華道の本まで並んでいる本棚から、一冊の本を引っ張り出して、パラパラとめくり出す。


「一応、仕入れる花のことは調べるんですよ。訊かれたら困りますから。でも、すみません、ちょっとど忘れしちゃって。歳の所為せいにでもしたいところですけど、花屋失格ですねえ」


本から目を離さずに言う小野さんの表情は真剣だった。


「ああ、やっぱりそうです。『変わらぬ心』、ピンクのスターチスは、『永久不変』ですね。なんとまあ‼︎ 今回のお仕事にピッタリじゃないですか」

「本当です、ピッタリですよ」


小野さんの「なんとまあ‼︎」にやられはしたが、僕は苦笑を浮かべつつも、スターチスを受け取った。


「花びらを使うって仰っていましたけど、これは花びらというか、」


小さい粒のような花なので、このまま数個拝借して使うか、と心で思いながら、


「このまま使いますから大丈夫です。では、こちらを五本ください。数が少なくて申し訳ないですが」

「いいえ、でもこのまま、矢島さんがお持ちくださったバゲットと交換でも良いですよ」


僕が持参した、いつも朝食にしている絶品バゲットを指差して提案する。

けれど、僕は仕事で使う花を大切にしたかった。

そして、この花屋の花を、この目の前の女性がそうするように大切に思いたかった。


「ありがとうございます。けれど、花の代金は支払わせてください。そこはきちんとしなければいけません」

「そうですか」

「はい、バゲットは美味しい紅茶とチョコレートで相殺に。お願いします」


小野さんはにこっと微笑むと、この場は引いてくれた。

この人との距離感はとても気持ちの良いものだ。


僕はそれ以来、何度かこの店を訪れては花を買って帰った。


仕事の依頼もぼちぼちしかなく、よって花の購入も頻繁ではない。

しかも何十本も数が必要なわけでないので、毎回寄る度に出して貰うお茶を頂くのも申し訳ないような、そんな付き合いではあった。


けれど、小野さんはいつも明るく出迎えてくれるし、それに僕が仕事で落ち込んだ時なんかも、話を親身になって聞いてくれ、僕が元気を取り戻すのに効果的な助言もしてくれた。


この花屋は僕にとっては大切な憩いの場であった。


そして、何度目かに訪れた時。

ついに、最近になって、少し気になっていたことを口にしてみた。


「もうかなり秋が深まり出しましたが、いつ頃に休業に入るのですか?」


そう、季節は肌寒さを通り越して、すでに初冬を迎えようとしていた。


小野さんの周りにぽつんと一つだけだった電気ストーブも、一般家庭にはまだ早過ぎるだろう、ファンヒーターがその身体を揺らしていた。


設定温度はいつも緩く設定してあり、うつうつとしてしまいそうな気持ちの良い室内が保たれている。


「秋ですよねえ、本当」


見回すと、秋を代表する花の秋桜や菊、木の実をつけたものなどを残して数を減らし、種類も少なくなってきていた。


洗い物をした後、水切りをした後など、ふと気づくと、小野さんの手の指が真っ白になっている時がある。

僕はその度に、早く暖めてくださいと、急き立てていた。


「今週末くらいで、お休みに入りましょうかねえ」


自分に言いきかせるようにして、呟く。


僕が答えあぐねていると、


「なかなか楽しい夏でした。矢島さんもよくお越し頂いて、ありがとうございました」


僕の方を見ないで言う。


「お店はお休みでも、お喋りしに来ても良いですか?」


僕が以前、小野さんに言った、今でもまだあのナンパみたいなねとからかわれる、冬には僕があなたの元へ訪れます、のくだり。


同じ内容だなと頭の中で考えながらも、僕はそれを口にした。


そしてそれを僕は、彼女の方を真っ直ぐに向いて言った。

真剣に。


その空気感に気づくと、彼女は振り返って僕を見た。

笑顔だった。


「……はい、お待ちしております」


小野さんはこの店の二階に住んでいる。


店外に二階へ続く外階段があり、そこを上がって行く度に指が真っ白になってしまうんです、と苦笑いをしていた。


僕は冬の間は、僕はその階段を上がっていって小野さんに会いに行くのだと、その時は思っていた。


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