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俺が貴女の……

 

 紫苑が父親を殺した?

 父親の体調を心配していたというのに。


「夜中に陛下の寝室を出ていかれる紫苑様を見回りの者が目にしたそうです。そこで怪訝に思い寝室を確かめたところ、既に陛下は事切れていたと」

「……………………………」

「陛下の湯呑みからサーベの実の成分が残っていたので、それを混ぜられて飲まれたことによる毒殺と思われるそうです」


 緑水さんが、ショックを隠しきれない様子で教えてくれた。


「サーベの実?」


 赤い小さな実をつけるサーベは、アースレンでは年末の祝いに玄関先にリースにしたものが飾られる。可愛らしくて色合いの濃さが好まれるが、食用ではない。


「ローゼリア様を信用してお話しますが、サーベの実は竜族にとって、摂取すれば死に至る猛毒なのです」

「そうなんですか?!」

「10年前の戦の時、白銀国の貯水場にアースレンの間諜がサーベの粉末を流すという姑息な手段を取り、私達は多数の死者を出しました。サーベには独特の香りがありますが、水に混ぜると無味無臭になるのです。そんな卑怯な真似をしなければ、戦も早く終わっていたというのに」


 知らなかった。アースレンは、人道的(竜道的)ではないから批判を浴びないように隠しているのだろう。


「同じ人間として恥ずかしいです」

「そんなこと……ローゼリア様は関係ありません。あなたはその頃子供だったのでしょう?」

「そう、ですが……」


 陛下が崩御され、私が緑水さんに起こされた直後から、自室のテラスに続く窓の前と扉の外には、なぜか見張りが立っている。私を守る為と言われたが、部屋から出してもらえないんだから監禁と変わらない。


「………ところでローゼリア様、何をなさっていらっしゃるので?」

「見ての通り、脱出口を探しているのです」


 天井を見上げたり、木の床を手でペタペタ探って脆い部分を探す。うん、都合良くあるわけないね。


「うーん、火を付けて燃やそっか」

「ローゼリア様!?」

「火事の混乱に乗じて部屋を出るとか……って無謀ですよね」


 床に這いつくばっているのも疲れてきたので、ポスンとベッドに座る。


「ここを出られて、どうなさるおつもりですか?」

「勿論、紫苑に直接会って話を聞くつもりです」


 神妙な表情の緑水さんに答える。


「ローゼリア様」

「あのヒトは多分何もしていない。だから話してみてそれで……」


「誰と話すのだ?」


 音もなく開けられた扉から黒苑様が入り込んで来て、言葉を呑み込んだ。

 緑水さんを部屋から出して、再びこちらを向いた黒苑様を黙ったまま見据える。

 扉を閉める直前に見た緑水さんの固い表情に、彼女も何か思うところがあるのだと感じた。


「………ローゼ」

「黒苑様、あの」


 私が立ち上がるより早く、目の前に膝を付いた彼が私の手を握った。


「ようやくだ。ようやく貴女を救ってあげられる!」


 微笑んで私の手の甲に口付ける彼に、ただ衝撃を受けた。


 このヒトは、この状況の中で喜んでいる?

 それが物語ることに不思議と確信めいたものが頭をよぎる。


「ようやくって……救うって何から?」

「兄上の番という運命から」

「…………黒苑様、あなたは私に以前待っていてと言いましたね?まさか……こうなることを待っていてと言ったのですか?」

「そうだ」


 それがなにか?とでもいう顔をする彼に目眩を覚える。


 紫苑を捕らえるよう命じたのが実の弟である黒苑様だと聞いた時、もしやと思ったこと。

 それが現実だというのか。


「………へ、陛下を殺したのは」

「俺だ」

「紫苑を犯人に仕立てたのも、あ、貴方なの?」

「そう」


 さあっと冷たいものが身体を通り抜ける感覚。優しい笑みを浮かべる黒苑様が、今はただ恐ろしい。


「貴女に隠すつもりはない」


 私の手を握ったまま、それを自分の頬にあてがい満足そうに彼は言う。

 無意識に距離を保とうと、座ったままベッドを横に移動しようとすると、彼は私の体の両横に手を付き囲った。


「何を考えて……」


 息の掛かるほどの近さで、紫苑に似た顔が私を見つめている。


「いつかはするべきことだった。それが早まったに過ぎない」


 彼の瞳に呆然と見返す女が映っている。


「貴女と兄上の結婚が決まったのが、迷っていた俺を後押しした。兄上は貴女の番にふさわしくないのだから」


 すっ、と黒苑様が私の耳に唇を寄せた。秘密の続きが押し当てられた唇から囁かれる。


「俺が貴女の番だ」












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