表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/71

救いの竜3

 

 夢を視た。


 春の暖かい陽気を浴びて、私は広い野原にいた。

 黄色と白の花が一面咲いていて、寝転がった私は雲の無い空を見上げていた。


 突如、青の中に小さな銀が光って、それが私に向かって降りてきた。みるみる大きくなる銀は竜で、立ち上がった私の前に降り立つと頭を上げた。

 紫の瞳を細めた竜は、口にくわえた青い花を私に差し出した。


『ローゼリア』


「紫苑?」


 うたた寝をしたらしい。

 灰苑様のベッドに上半身を預けていた私は、彼がいないことに気付き慌てて身体を起こした。

 肩に紫苑の上着が掛けてあり、滑り落ちかけたそれを持つと柑橘系の香りに包まれる。


 とても心地よい夢だった。優しくて泣きたくなるような。


 夢の余韻を頭を振って消し、辺りを見回す。二人はどこだろう。


 体の癒えた灰苑様は、もう起きていて問題ないのだが、1日の半分は眠っている。そうやって心のダメージを回復しようとしているのは分かっていたので、なるべく付き添っていたのだ。


 部屋を出ると階下で聞き慣れた声がする。小さな宿は少人数の客しかいなくて声だけが微かに響く。

 階段を降りる途中、その声が止んだ。


 階下は食堂になっていて、まだご飯時ではないので竜の兄弟しかいなかった。


「……………起きたのか」


 灰苑様と向かい合って座っていた紫苑が立ち上がり、私に近付く。背中を見せて座っている灰苑様は、こちらを見ずに手で目を擦っているようだった。


 泣いている?

 声を掛けようとしたら、紫苑に手を握られて引かれた。


「あいつは大丈夫だ」


 落ち着いた声で言うと、半ば強引に私達の部屋へと促された。戸を閉めたら直ぐに抱き締められて、手を付いて押し返した。


「あ、ローゼ?」

「何を考えてるの?」


 端正な顔を真剣に見上げたら、驚いたような顔をする。


「ねえ、白銀国に戻るなら私も一緒に行くよ。足手まといになるなら途中で置いていっていいから。一人で悩んだりしないで、私に話して」

「ロ………」

「どこかで隠れて暮らしてもいいの。私と灰苑様と貴方でずっと」


 私だって不安で怖い。もう誰も傷付いて欲しくないのに、私は何もできないでいる。紫苑の国や弟を憂う気持ちを知っていて、道を拓く術を知らない私は結局彼に決断を委ねている。


「私、紫苑の番でしょう?どんな時でも……」


 押し返していた手を取られ、紫苑が私を堪えられないといった感じで抱き締める。


「ありがとう、ローゼリア」


 嬉しそうに顔を近付けてくるので、避けてみた。


「あっ?」

「一緒にいるよね?約束して」

「約束する」


 即答してくれたことに安心したら、顔を下へ向けた紫苑が私を壁に押し付ける。


「例え俺が……」

「え?ん………」


 私の首元で囁いた言葉が聞こえなくて、聞き返そうとしたら首を噛まれた。唇で食むように肌を噛み、そこをベロリと舐められる。


「紫、苑?!」


 戸惑う暇なく抱えられ、ベッドへ転がされた。すぐにキスをされて、瞼を閉じた彼越しに天井を見る。

 それからゆっくりと目を閉じて体の力を抜いた。


 触れあった唇から『竜の精』を僅かに受け入れる。


「少しだけ………」


 紫苑が、興奮他諸々の感情を混ぜて囁いた。


「す、少しだけ?」

「す………少しだけ見たい触りたい」


 私は内心残念な気持ちで頷くと、肩に手を置いた。彼にしては、かなり積極的になったものだ。

 胸元のリボンを解いた彼が、肌をじっと見つめていたと思ったら溜め息を吐いた。胸元まで見えていて、彼を直視できない。


 感極まったように、彼が呻いた。


「…………尊い!」

「いや、えっと」


 見られ過ぎて顔を反らしてボソボソと言ってしまう。


「私、いいのよ、その」


 止めるように唇を軽く塞いでから、紫苑は「いいんだ」と微笑んだ。


「目に焼き付けておきたいんだ」


 鎖骨を優しくなぞり、大事に胸元にキスをしただけで、満たされたような表情で私を抱き締める。


「……………ローゼリア、また今度花を渡すから」

「うん」


 夢を思い出して、正夢になるのかなと思った。あの幸せな気持ちが本当になるのならいい。


 そのまま腕から抜け出せなくて、甘さが心地よくて一晩中暖かさを分けていたはずだった。


 朝、ベッドで一人きりで目覚めるまでは。


 ***********************


「きっと来ると思っていた、兄上」


 黄色と白の花の咲く野原に、黒苑は佇んでいた。

 足首を隠す草花へ向けていた視線を巡らせた先には、こちらを見つめる紫苑がいた。


「遅くなって悪かった、黒苑」


 片手で耳飾りを外し、花を踏み締めた紫苑は静かな面持ちで弟に告げた。


「今、救ってやるから」


 そうして、黒苑に長槍の矛先を向けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ