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隠す竜6

「喚くな、小僧。番のことになると騒がしい雄じゃの」


 白い髪を耳に掛けて煩そうにする白霧様から、私を抱えたまま椅子を引いて距離を取る紫苑。


「白霧、さま?まさか貴女は、美しの白き花というやつですか?」


『好き』の気持ちには疎いが、そっちはなぜか知っている私。


「なんじゃ、それは?」


「人間の流行り言葉はわからぬ」と、不思議そうな白霧様。


「この女は王族の血を引いているから、父上の後添えの筆頭候補になったが、それまではずっと独り身だった。そして灰苑を生んだら義務は果たしたと、この離宮で暮らしている。ほぼ女達に囲まれてだ。なぜかわかるかローゼ?」

「それは、麗しの百合………」


 だめだ、くるしい


 自分にぐいぐいと押し付けるようにしている紫苑は、白霧様を睨んでいて窒息しかけている私に気付いちゃいない!


「我が趣味嗜好にとやかく申すな。これでも数年は赤明と共に過ごして堪え忍んだのじゃ。まったく、あんな雄だらけの王宮なんぞこりごりじゃ………おい、番を殺める気か」

「何だと?ああっ」


 今、気付いたか!


 私は息も絶え絶えになって、酸素を求めて上向いた。奴の驚く顔が近い。


「……し、しえん、くるし……はあ……はあ」

「うわ!ローゼ……………ロ…………ゼ」


 慌てて手を緩めてくれたので喘いでいたら、苦しさで滲んだ涙がポロっと零れた。ぼうっとしたまま大きく呼吸をしていたら、そんな私を見ていた紫苑がおかしくなってきた。


「………俺はなんてことを」

「そうじゃ、番を殺すところだったの。女の扱いも出来ぬ阿呆め」

「こ、こんなにもローゼを強く抱き締めていたとは……ああ、触れ合っている部分が多い。ローゼの匂いが凄いする」

「は?」


 白霧様が、また虫けらを見る目を紫苑に向けたが、顔を赤くして適度に失礼なことを言いやがった奴は私をじっと見ている。


「……そんなふうに俺を見て……やべ」


 緩めただけで放してくれないので、彼の胸に手をついて涙目で睨んで逃れようとしたら、眉根を寄せて目を瞑った奴がまた、ぎゅうううっと抱き締めてきやがった。


「ああ、ローゼ!ローゼ!」

「…………………こ、の」


 奴の胸に手を付いたまま押し潰されていたので、取り敢えず引っ掻いてやろうと服の上からガリガリ爪を立てたが効果が薄い。


 こいつ!なんだこんなに心臓バクバクさせやがって!私が苦しむのを見て喜ぶとは!

 ん?バクバク?ドキドキ?


「この痴れ者が!」


 スパーン、と白霧様の扇子が紫苑の頭をはたいて、彼はようやく我に返ったらしく私を解放した。

 空いている椅子に座り直して呼吸を整える私の背中を、気遣わしげに白霧様が擦ってくれる。


「大丈夫か、ローゼ」

「…………はあはあ、紫苑といたら私は短命で生涯を終える気がします。やはり白霧様の傍でお仕えしたいです。あ、百合は私初めてで、あの、手取り足取りで教えてくださったら……が、頑張りますので」

「そうかそうか、未知の世界を開いてやろうぞ」


 がくん、と床に膝を付き、青い顔に早変わりする奴を白霧様がニヤニヤしながら横目で見ている。


「あ、そうだ」


 先程の発見を確認するため、項垂れる奴の前に屈む。


「ねえ紫苑、さっき気付いたのだけどね」

「………………………………な…ん…だ……」


 地の底を這うような暗い声が返ってきた。


「ほら、貴方が言っていた『好き』の気持ち分かった気がするの!」

「は…………」


 一瞬明るい顔をしたと思ったら、白霧様を見て再び顔を曇らせる忙しい奴。


「私じゃないのよ。貴方の『好き』の気持ちのこと」

「え!」

「いや、多分違うとは思うんだけど後学の為にね確認したくて、さっき私を殺そうとした時、胸がドキドキしてたでしょ?」

「はう!?」

「あれがキュンっていうのかな?もしそうなら、貴方の『好き』なのは、ふぐ」


 空気を切り裂くような素早い動きで、私の口が奴の手に塞がれてしまった。


「むぐ?」


 毎回毎回、何でだ?


「いいかローゼ、気のせいだ。それは気のせいに過ぎない。忘れるんだ。その『好き』は気のせいではないが、気のせいだ。何か今知られたら情けない気持ちが強いから、いつか気のせいじゃないと言うまでは気のせいだ。あとで考えたらいい」


 目を反らしながら、私に呪詛のような言葉を注ぐ紫苑。


「わ、わかったな……う、唇やわらけ」


 手のひらで私の唇を一撫でして、口を解放されて、ムッと睨む。


「………忘れないわ」

「な、に」

「私を虐めるのが好きとかサイテー」

「……もう……俺の番……辛すぎる。俺は、以前の俺を殺したい。ふ、馬鹿なのは、誰だろうな」


 紫苑は、虚ろな目で床を見つめて語りかけている。

 白霧様は興味が失せたらしく、侍女さんから食後のゼリーを受け取って食べていた。


「ちゃんと伝えぬ馬鹿のせいではないかのう」













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