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隠す竜2

 

 王妃?


「もしかして、灰苑様のお母様ですか?」

「そうじゃ。齡500年の竜であり、赤明の後妻にして、真の番ではない為に仲違いして別居中の元王妃じゃ。まあ表向きはな」


 あっけらかんとして名乗る彼女に、唖然とする。


「なんだか思っていた方と、色々ギャップが……」

「よく言われるぞ」


「気を付けろ、ローゼ。この白銀国を実質牛耳っているのは、この女だ」


 紫苑が神妙に言うが、そんな気がしてきた。でも、灰苑様のお母様なら伝えなければ。


「………白霧様、灰苑様が私達を守ってくれて、怪我をしたかもしれません」

「そうか。あの子らしいのう」


 俯いて物思いに沈む素振りを見せたのは僅か。すぐに顔を上げた白霧様は変わらない微笑みを浮かべた。聞いても落ち着いて見えるのは、長く生きているからだろうか。


「ローゼリア」


 手当てが終わりベッドに座った状態で、紫苑は泣きそうな私を見て頷いた。


「俺から話すから休んでいい」

「紫苑」

「大丈夫だ」


 ふ、と微笑むのは、私を安心させる為?


「灰苑は、そんなヤワじゃない。この女が母だぞ、分かるだろ?しぶとくて図々し」

「言いすぎじゃ」


 ベシ、と白霧様に扇子で頭を小突かれて、義理の親子なのに姉弟のような親しさだ。

 遠くここまで来たぐらいだ、信頼しているのだろう。


 私の知らない紫苑の時間があるのは当然だ。彼は100年以上生きているのだから。


 二人をぼんやりと眺めていたら、白霧様が私の頬を包んだ。


「そんな顔をしないでもよい。「紫苑の番」、さあ……」


 促され、私がいては邪魔かもしれないと思い部屋から出る。使用人の女性の案内で浴室に向かった。

 竜族は入浴が好きで一般の家庭でもお風呂は設置してあるという。浴槽は広くて、ピンクの花を浮かせた花風呂だった。


 これが白霧様から香るものと同じだと気付いて、手のひらで花を掬って鼻に近付けてみると、甘やかな優しい香りに気持ちが解れる気がした。


 赤明様と仲違いしたというから、悲しく辛い思いをして、ひっそりと暮らしているのかと勝手なイメージを持っていた。

 だが実際はとても芯の強そうな方で、私は直ぐに好感を持った。離宮に閉じ籠るというガラではなさそうだから、何か他に理由があるのかもしれない。


 その後部屋へと案内されて寝ようかと思ったのだが、目が冴えて眠れない。昨夜から色々あって疲れているはずなのに。


 時間も経っているし、白霧様と紫苑の話も終わっているだろう。昨日からのことを話したのだろうか。

 これから……紫苑は、どうするのだろう?


 私は裸足のまま部屋を出て、暗く静かな廊下を歩いた。


 もう真夜中なので眠っているだろうと思い、起こさないように扉を押した。鍵は掛かっていなくて、思いがけずすんなりと暗い部屋に入るとベッドで眠っている紫苑がいた。


 傍の椅子に座り灯りは付けずに彼を覗き込むと、背中が痛むからか、横向きにこちらを向いて目を閉じている。


 目を閉じた彼は、なかなか美青年に見える。こんなに無防備な寝顔を見たのは初めてで、新鮮だった。


 そっと額に指を当ててみたが熱は無くて、傷が痛いからと苦しんでいる様子もなくて安心する。


 じっ、と顔を眺めていたら、身動ぎした紫苑が私の方へと、すすっと片手を滑らせてきたので、少し考えてから、その手を握ってみることにした。


 戦争孤児だった私は、8歳から12歳まで孤児院で育ち、その後、半壊状態だった自宅を両親の遺産で修理して住んでいた。

 居酒屋や食事処で日々の生活費を懸命に稼いでいた幼い私は、疲労が溜まるとよく熱を出した。


 だから分かる。

 痛い時や苦しい時は、殊更誰かに傍にいてもらいたくなるものだ。

 一人で熱に苦しむ私は、とても孤独だった。

 幸いにも近所のおばさんや食事処の主人が、心配して見舞いに来てくれたり、一晩中手を握ってくれる人もいた。

 私が今までなんとかやってこられたのは、彼らのおかげだと思っている。


「手、冷たい」


 竜族は人よりも体温が低い。

 季節の気温変化にも敏感で、春や夏は平気だが晩秋や冬の寒さには弱い。体温を自ら上昇させることが難しく、動きも緩慢になるという。

 寒い時期は、家に閉じ籠り暖を取って静かに暮らすのが彼等のスタイルだそうだ。


 暖めようと、そっと両手で紫苑の手を包む。


 父親を亡くし弟に裏切られた彼の孤独が、和らぐようにと。

 私にできることは、それぐらいしかないから。


 そうして紫苑の寝顔を飽きずに見ていたら、私はいつの間にか眠ってしまったらしい。





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