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【神立】神の国学園へようこそ  作者: 尾形よしあ
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第九話:聖戦

 いつもより少し早く登校し、教室でのんびりしていると、何やら外が騒がしい。

 窓から様子を見てみると、校門の所でサタニエルと誰かが口論しているのが見えた。


 ただ事じゃないのを感じ、外に言ってみると──


 「もうこっちには来ないでくれって言ったじゃないか!!」


 「いい加減に目を覚ましなさい!! あんたはここにいちゃいけないの!!さあ家に帰るわよ!!」


 取っ組み合いになっている二人がいた。


 サタニエルと、もう一人は……エプロンをつけた悪魔のおばさんである。


 強めのパーマをかけていて、額に角が一本、化粧は濃い目、可愛いドラゴンの刺繍がされたピンクのエプロンに、足元はサンダル。


 うん、間違いなくおばさんだ。


 「母さんが何を言おうと、僕はこっちでやっていくって決めたんだから、絶対に帰らないぞ」


 「あんた悪魔でしょ!? 本来の使命を果たしなさい!!」


 悪魔の親子ゲンカだ。


 いや一人は元悪魔か。

 使命というのは、前に聞いたクリスチャンを堕落させるってやつだな。


 人間に例えると、家の家業を継ぐ継がないのケンカみたいな感じなのだろうか。


 しかし天国に一人で乗り込んでくるなんて、随分と度胸のある母さんだ。

 

 始めはサタニエルも必死に抵抗していたが、母親の力の方が上のようで、段々と劣性になっていく。


 「伊佐也さん、止めに入りましょう」


 「お、おうよ」


 サタニエルの母さんが、サタニエルにゲンコツを食らわすと、呆気なく気を失った。


 「ちょっと待って下さい。サタニエル君を一体どうするつもりなんですか?」


 エリエルが声をかけると、目を回しているサタニエルをズルズルと引っぱっていた足が止まった。


 「うちの子をどうしようと、親の勝手でしょ!!」


 サタニエルの母さんの血走った目が、ギラリと光る。


 「サタニエルを地獄に連れて帰るつもりなのか? そんな事はしないでくれよ」


 「一体何なのよあんたは!! ははぁ、あんた達ね、うちのサタニエルを唆したのは!?」


 サタニエルの母さん恐いなぁ。

 何なのこの迫力。


 「い、いや俺達は唆したりしてませんよ。これはサタニエルが自分で決めた事なんだから」


 気圧されて声が震えながらも、俺は反論した。

 冷静に考えると、エプロンをつけたおばさん悪魔って笑える姿だと思うだが、本物の迫力はとんでもない。

 だがここで怯んでしまったら、サタニエルが地獄へ帰されてしまう。


 「サタニエルは悩みに悩んで、この道を選んだんだ。だからお母さんも尊重してやってくれませんか?」


 「バカな事言うんじゃないよ。そんな事が出来るわけないじゃないの!!」


 サタニエルの母さんからゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴという音とともに、赤黒いオーラが体から放出される。

 

 こ、恐い。

 マジで助けて神様。


 

 そしておばさん悪魔が掲げた右手から、何かが出てきた。

 

 悪魔と言えば槍か、槍なのか!?

 きっと禍々しい槍に違いない。

 そう思っていると…


 ボワンと手から出てきたのは、箒だった。


 「……は?」


 ごく普通の竹箒だ。

 ホームセンターで買った物だろうか?


 俺達に向けた竹箒の先が光り始め、黒い光球が俺達に向かって飛んできた。


 「伊佐也さん危ない!!」

 

 

 ドォォォォォォォォォォォォォォン!!!!

 

 

 凄まじい破壊音とともに砂煙が舞い上がった。

 エリエルが俺を突き飛ばしてくれて直撃を免れたが、左腕に怪我をしてしまった。


 「あたたたた。」


 「大丈夫ですか伊佐也さん!! プリエル!!」


 「はーい!!」


 そう聞こえたかと思うと、ナース姿のプリエルが三階の窓から飛んできた。


 ──天使が降臨しました。


 「今治療しますからねー、はーい痛くない痛くないですよー」


 子供扱いなのが気になるが、こういうのもアリな気がしたので、何も言わない事にする。


 「清くなれ」


 プリエルがそう言うと、俺の左腕に添えたプリエルの手が暖かく黄色い光を放ち始め、次第に痛みが和らいでいき傷がすうっと消えていく。


 「え、うそ。もう治ってる」


 「はい、これでもう大丈夫ですよ」

 

 「ありがとう。プリエルって凄いんだな」


 「そりゃもう、ルカ先生とラファエル先生から色々学びましたからね。よっぽどの事じゃなかったら治せますよ。ぐっちゃんぐっちゃんになったら無理ですけどねアハハッ」


 「もしそうなっちゃったら、どうしたら良いわけ?」


 俺は恐る恐る聞いてみた。


 「そうなっちゃったら、イエス様や神様にお願いするしかありませんね」


 やっぱりそうなるんだな。

 ぐっちゃんぐっちゃんにならないよう気を付けよう。


 「どうしましょう伊佐也さん、このままではサタニエル君が!!」


 禍々しい翼を広げたサタニエルの母さんが、サタニエルを肩に担ぎ今にも飛び立とうとしている。


 「くそっ、どうしたらいいんだよ!!」


 圧倒的な力の前で、このまま何も出来ず連れ去られるのを見ている事しか出来ないのか?

 そう諦めかけていた時━━


 「ちょーっと待ちなさいッッッッ!!」


 緊迫した空気を破るような声が響いた。

 声の主を見ると……、それはうちのお母様だった。

 ソフトボール部のであろうヘルメットを被り、右手には金属バットを持っている。


 ……やる気だ。


 「何なのよあんたは!?うちの家庭の事に口出ししないで頂戴!!」


 「親が子供を思いのままにするなんて、そんな事するべきじゃないわよ。子供だって自分の意思を持っているんだから」


 「なーに言ってんのよ。親だからこそ、子供が間違った事をしないよう、ちゃんと監督しなきゃいけないじゃないのさ。今がそうよ」


 「それは分かるけど、あんたのやっているのは度が過ぎてんだって言ってんの。良いからその子を離しなさい」


 そう言うと金属バットの先を、サタニエルに向ける。

 サタニエルの母さんは、肩に担いでいたサタニエルを下ろし、うちの母さんを鋭い目付きで睨み付ける。


 何だか嫌な予感がしてきたぞ。


 「どうやら拳で語らないと分からないようね。来なさい。身をもって教えてあげるわ!!」


 持っていた金属バットを両手に持ち、体の正面で剣の様に構えると、金属バットが金色に輝き始めた。


 ……うちの母さんは少年漫画の主人公なのだろうか?


 「良い度胸してんじゃないの、あんた。良いわよ、その挑発に乗ってやろうじゃないの」

 サタニエルの母さんが竹箒を両手で構えると、黒い光を放ち始めた。


 どうしよう帰りたい、おっかない。


 エリエルとプリエルは、これからとてつもない戦いが始まるのを感じ、二人から目を離せないでいる。


 母親二人の動きが完全に止まった後、激しい打ち合いが始まった。

 打ち合いが早すぎて、俺の目には殆ど見えない位だ。

 うちの母さんが金属バットを振り下ろすると、サタニエルの母さんが竹箒でそれを受ける。


 ガキィィィィィィン!!


 ほぼ互角なのか、力と力の鍔迫り合いで火花が飛んでいる。

 

 でも竹箒の使い方、間違ってるよね?


 二人が一旦離れると、サタニエルの母さんが竹箒から黒い光球を放つが、うちの母さんは金属バットでそれを弾く。


 ドォォォォォォォォン!!


 遠くで破壊音が響く。

 弾いた先は住宅街なのだが、住人の皆さんは大丈夫なのだろうか?


 

 というか、どうなっちゃうのこれ?


 

 「あんた、なかなかやるわね」


 うちの母さんがフッと笑う。


 「伊達に悪魔をやってるわけじゃないわよ」


 そう答えたサタニエルの母さんがニヤッと笑う。

 完全に少年漫画だ。


 「はあぁぁぁぁぁぁぁッッ!!」


 うちの母さんが力を溜め始めると、金属バットの光がさらに増す。そして上段から振り下ろすと衝撃波が放たれた。

 地面を削りながらサタニエルの母さんへと向かっていく。


 サタニエルの母さんは竹箒を構え、衝撃波を受ける。

 威力は凄まじく体が後ろへ押されていくが、それに耐え、力任せに後方へと弾いた。


 「悪魔をなめんじゃないわよぉぉぉぉ!!」


 弾かれた衝撃波が、俺達の校舎に向かって飛んで行った。

 

 

 ドッゴォォォォォォォォォォン!!


 

 校舎の二階と三階の外壁が破壊され、中の様子が丸見えの状態になってしまった。


 すいません、俺とサタニエルの母二人がやりましたすいません。

 

 その後、母親二人の激しい剣撃が続く。

 それはあまりにも早く、やっぱり俺の目にはよく見えない。

 そして二人が後ろに飛び、距離を取ったかと思うと力を溜め始め、互いに放った必殺技が激突する。



 そして━━


 

 ボッカーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!


 

 爆発が起きた。

 


 俺達は強烈な爆発で吹き飛ばされそうになったが、足をふんばり何とか吹っ飛ばされずに済んだ。


 そして二人はどうなったのかが気になり、爆心地を見ていると次第に土煙が晴れて、二人の姿が少しずつ見えてきた。

 どちらも倒れずに立っている。なんて頑丈な母さんなんだ。


 だが何かが変だ、二人とも微動だにしない。

 おまけに真っ黒だ。


 それに……、コントのオチの様な爆発パーマになっている。


 

 「立ったまま死んでやがる……」


 

 「「死んでないっての!!!!」」


 母さんズが息ピッタリにツッコミを入れてきた。

 やっぱ生きてました。

 そうだろうと思ったんだけど、とりあえず言ってみたかっただけなのだ。


 そんな時、全身を甲冑で身を包んだマッチョな天使達が空から現れ、二人の首根っこをヒョイと掴み、何処かへと去って行った。

 

 母親二人の激しい闘いは、こうして幕を閉じた。

 母は強しを地で行く二人であった。


 ……被害が甚大だけども。


 

 「パパー!!」


 瑠香が走り寄ってきた。


 「おー瑠香。瑠香は大丈夫だったか?」


 「あたしは何ともないよ。パパは?」


 「ちょっとだけ怪我をしたけど、プリエルに治して貰ったから心配ないよ」


 「痛かったでしょ?頑張ったのね、えらいえらい」


 そう言って、俺の頭を撫でてくれた。


 「ありがとな、瑠香は優しいね」


 「伊佐也さん」


 先生達と話していたエリエルがやって来た。


 「校舎があの状態なので、今日の授業は中止だそうです」


 「やっぱりそうなるよな。当事者の息子として申し訳ない気持ちだよ」


 「伊佐也さんは何も気にする必要はないですよ。晶子さんの方も、天国に侵入してきた悪魔を撃退したわけですから、お咎めはない筈です。それに校舎は神様が修復してくださいますから。」


 「そうなんだ。それを聞いて安心したよ。もしかしたら天国を追放されたりするんじゃないかとか考えていたもんだから…」


 「大丈夫ですよ、神様はとても寛大な方です。ただちょっとやり過ぎではありますから、お叱りは受けるでしょうね」


 「あ、やっぱり」

 

 「皆さーん、ここにいたんですね!!」


 プリエルが走ってきた。


 「怪我された方の治療も、何とか終わりました」


 「お疲れ様。うちの母さんが迷惑かけてごめんな」


 「全然気にしないで下さい。こういう時の為に私達がいるんですから」


 プリエルがドンと胸を叩く。


 「そうだ、今日の授業は中止になったみたいですけど、皆さんはこの後どうするんですか?」


 「いや特に何も考えてない」


 「じゃあじゃあ、皆でスイーツ食べ放題のお店に行きませんか?瑠香ちゃんは、スイーツは好きかなー?」


 「大好きッ!!」


 瑠香が元気よく手を挙げる。

 甘い物好きは俺に似たのかもしれない。


 「はいっ、じゃあ決まりです。さぁ皆さん行きましょう!!」

 

 

 しっかし疲れた。

 母さんは一体いつ帰って来れるのやら…。

 

 とりあえず甘いものを食べて、気分を変えよう。

 うん、そうしよう。

 

 

 

 

 


 


  

   

 

 



 

 

 

 

 

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