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【神立】神の国学園へようこそ  作者: 尾形よしあ
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第八話:憩いの汀(みぎわ)

 「天にまします我らの父よ

  願わくは御名を崇めさせたまえ

  御国を来たらせたまえ

  御心の天になるごとく、

  地にもなさせたまえ

  我らの日用の糧を今日も与えたまえ

  我らに罪を犯すものを我らが赦すごとく、

  我らの罪をも赦したまえ

  我らを試みにあわせず、

  悪より救いいだしたまえ

  国と力と栄えとは、

  限りなく汝のものなればなり

  アーメン」


 起床して直ぐに行うのは、主の祈りを唱える事。

 これを行わないと一日が始まらない。


 私エリエルは天国の門で、地上からやって来た方々の管理を担当しているのだが、今は大坪伊佐也さんの天国での生活をサポートをするように、神様から召命を頂いた。

 私と共に妹のプリエルもだ。


 プリエルの方は、ルカによる福音書を執筆された医師であったルカ先生と、天使ラファエルの元で、地上の人々の医療活動を献身的に行っていた。


 医療を満足に受ける事の出来ないような貧困国や、病が流行している地域での医療活動を、人の姿に変えて行う。

 そのような奉仕を行っていた。


 そして私達は今、伊佐也さんと共に学園生活を行っている。


 ◇


 「お兄ちゃん、もう起きてる?」


 「おはよう、もう起きてるよ」


 「良かった。朝ごはんが出来たから並べてくれる?」


 「うん、いいよ」


 リビングに向かい、朝食を並べる。

 プリエルは料理が得意だ。

 そしてとても気が利く。

 我ながら良くできた妹だと思う。


 

 「父なる神よ、御名を賛美致します。今日の糧を感謝します。今日1日を、貴方の慈愛の内に過ごす事が出来ますように。全ての生きとし生けるものに、恵みと祝福をお与え下さい。この祈り、主イエス・キリストの御名によってお捧げ致します。アーメン」



 朝食の準備が出来たので、二人で食前の祈りをし、食事を始める。


 「伊佐也さん、こっちの生活にも慣れてきたかな。」


 「そうだねぇ、少しは落ち着いてきたんじゃないかい?」


 「あたしたちがこっちに来た時も、ビックリする事が多かったもんね」


 「私達が居た地上と、天国の違いが大きかったからね」


 「食べ物がいっぱいなのにビックリしちゃった」


 「そうそう。見た事のない食べ物も沢山あったしね。プリエルなんて、感動のあまり食べ物を口に入れたままプルプル震えてた事もあったっけ」


 「だってこの世のものとは思えない位の、美味しさだったんだもの。そういうお兄ちゃんだって、泣いてたじゃない」


 「バレてた?こっそり泣いてたつもりだったんだけど」


 「バレバレよ、でもあたしは気付かないフリをしてたけどね」


 ◇


 私達は、敬虔なキリスト教徒の農家に産まれた。

 だが当時は迫害が激しく、常に怯えながら日々を過ごしていた。

 

 ある日、迫害者が私達を捕えに来た時に両親は機転を利かせて私達を逃がしてくれたのだが、逃げた先の山中で捕まってしまい、両親ともに処刑をされた。

 

 処刑方法は火あぶりだった。

 じわりじわりと体を焼かれる苦痛は、永遠に続くのではないかと思う程であった。


 だが私達家族は苦痛に顔を歪めながら、この時間を祈りの時とした。


 主の祈りを、ただひたすら繰り返し唱え続けている内に、次第に視界が暗くなっていった━━


 

 次に目を開けた時、私達は天国の門の前に立っていた。


 そう、祈りは神がおられる天の国に届いていたのだ。 


 ◇


 「伊佐也さん達はどうしてるかな」


 「きっと三人で、楽しく朝ごはんを食べてると思うよ」


 「伊佐也さんも瑠香ちゃんも、本当に良かったよねー。あたし思うんだけど、絶対に仲良し親子になるよね」


 「やっぱりそう思うよね。うちの子は、目に入れても痛くないって思ってるんじゃないかな」


 「あははっ言ってそう!!」


 「うちの娘は誰にもやらん!!とも言ってたりして」


 腕組みをし、ムスッとした顔で私が言うと、プリエルがケラケラと笑う。


 ◇

 

 「俺の娘は、誰にもやらーん!!」




 俺は腕を組みながら、高らかに宣言した。


 瑠香はというと、俺がプレゼントしたケルビムちゃんのぬいぐるみとお話しをしている。


 「引くわ」


 「え?」


 「悪いけどドン引き。昭和のオヤジじゃないんだから」


 「こんな可愛い娘を嫁に出すなんて、絶対に考えられない。てか考えない。ええ考えません」


 「」


 母さんが、アホな子を見るように俺を見る。


 「はいはい、好きなだけ言ってなさい。瑠香ちゃんに好きな人が出来るまでね」


 うわぁ嫌みを言い出したよ。


 「瑠香、瑠香には好きな子っているの?」


 そう聞かれた瑠香は、俺の顔を見ながらニッコリと答えた


 「パパが大好き」


 自分、泣いていいっすか。


 「聞いたか母さん。瑠香は俺の事が世界で一番好きなんだと」


 「そこまで言ってないでしょうが」


 「あたしね、大きくなったらね、パパと結婚するの」


 頭のなかでハレルヤが流れ始めた。

 天にも昇る心地だ。


 いや、もう昇ってるんだった。

 えーと、何処に昇ろう?

 そういう問題じゃないか。


 「ありがとう瑠香。大きくなったらお嫁さんにしてあげるからな」


 「うん!!」


 「あれよ、『パパと結婚する』がその内に、『パパきもい』とか『パパ臭いから近寄んないで』とか『視界に入らないで』に変わっていくのよ」


 それはあまりにも酷いぞ母さんよ。


 「瑠香はそんな事言わないもんねー、優しい子だもんねー?」


 「」


 ケルビムちゃんに夢中で、全く聞いてない。

 

 「プッ」


 「こら、そこ笑わないの」


 


 

 


 

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