第七話:イケメン使徒、ゆる天使
「あだっ」
顔に何かが当たって目が覚めた。
隣に寝ている瑠香の手が、俺の顔に当たったのか。
今何時だろうと、枕元のスマホを見ると六時三十分だ。
こっちでも普通にスマホが使えると知った時は驚いたもんだが、もうすっかり慣れた。
このスマホは、地上と変わらない機能が搭載されているので、とても便利だ。
ちょっと早いけど起きる事にしよう。
瑠香を起こさないようにソーッとリビングに行くと、母さんが朝ごはんの支度をしていた。
「おはよう」
「あらおはよう、早いわね」
「まあね。何か手伝うか?」
「じゃあ魚を焼いてくれる?」
「オッケー」
「焼シャケか、良いねぇ。朝ごはんだねぇ。あ、瑠香は魚の骨は大丈夫かな」
「それなら身をほぐして、ごはんにかけてあげると良いわよ」
「あーそれ良いね。ていうか俺も食べたいかも」
「ならあんたもそうしたら良いわよ」
母さんが笑って話す
◇
瑠香が目を擦りながらリビングにやって来た。
「おはよう。よく眠れたかい?」
「うん···」
ムニャムニャしながら瑠香が答えるが、まだ目が覚めてないようだ。
「もう少ししたらごはんが出来るから、テレビでも見てなさい」
瑠香がテレビをつけると、子供向けの朝の番組が始まった所だった。
天国でもこういう番組がやっているんだな。
番組のタイトルは【ひらけ!! てんごくのもん】
「良い子のみんなー、おっはよー!!」
元気いっぱいのお兄さんが、テレビの前の良い子達に語りかける。
下に出たテロップには【ステファノおにいさん】の文字。
ス、ステファノ…。
キリスト教最初の殉教者であるステファノおにい···、じゃなくてステファノが、天国でテレビのおにいさんをやっていると言っても、地上の人は誰も信じてくれないだろう。
「今日も神様の恵みと祝福の内に、元気いっぱいで行きましょう!!」
しかしメチャクチャ爽やかにMCをやっているな。
爽やかイケメンだから、子供達以上にお母さんからの人気が高そう。
「さぁ良い子のみんな、ハレルヤ体操の時間だよ。準備は出来てるかなー?」
テーマ曲が流れ始め、ステファノおにいさんと、マスコットらしき着ぐるみの体操が始まった。
マスコットの名前は【ケルビムちゃん】と言うんだな。
……ケルビムだと!?
これ、もふもふの着ぐるみかと思ったが、このもふもふの質感…もしかして本物!?
四つの翼に、舌をペロッと出したライオンの顔。
可愛い上に、もふもふじゃないか。
本物のケルビムって、すっごくもふもふしてるんですよーと言っても、誰も信じてくれないだろうな…。
しかし、可愛いな。
実は俺、 顔に似合わず可愛いもの好きなのだ。
これはたまらん。
そんな事を俺が考えている内に、瑠香が体操を始めていた。
すっかり目が覚めたようで、元気いっぱいに体を動かしている。
「新しい朝がやってきた
僕らのテンションゲージはMAX
なぜなら神のご加護があるからさ
悪魔よ来るなら来いっての
ライトパンチでワンパンだ
僕らに恐いものは何もない
僕らのバックにゃ神がいる
わいわい皆でハレルヤ賛美
全ての人に祝福を
明日は明日考えよう
今日も一日お守りください
僕らは良い子のクリスチャン♪」
スゴい歌詞だ。
この歌も、いつか讃美歌集に収録される日が来るのだろうか……。
体操をしてすっかり目が覚めた瑠香と、朝ごはんを食べる。
前もってほぐしておいた焼きシャケをご飯にかけてあげると、喜んで食べてくれた。
おかずはタコさんウインナーと玉子焼き。それとミニサラダだ。
それを瑠香はパクパクと食べる。
さあ食事の後は、学園に行く準備を始めよう。
まずは一緒に歯磨き。終わったら磨き残しがないかを俺がチェック。
「よし、問題なし。よく出来ました」
続いて顔を洗い、母さんにお下げを作って貰う。
さすが母親だね、あっという間にお下げが出来上がった。
その後は制服にお着替え。ちょっとだけもたついたけれど、殆ど一人で出来た。
自分の子とは思えない位に立派な子だ。
ええそうですよ、親バカですが何か?
◇
準備が出来たので三人で学園へと向かう。
真ん中は瑠香、その両側に俺と母さんがついて、手を繋いで歩く。
三世代が揃って同じ学校に向かうというのは、かなり貴重な体験だよな。
地上じゃありえない。
だからこそとても楽しい。
学園に到着し、瑠香は幼年部の教室へ行く。
離れたくないのかな、行ってきまーすと何度も言いながら、結構長い時間手を振っていた。
瑠香が教室に入るまで見送った後、俺と母さんもそれぞれの教室へ向かう。
「こっちに来ていきなり孫が出来るなんて、思いもしなかったわ」
「それは俺もだよ。いきなり子供が出来たんだからな。あの時は父さん母さんには迷惑かけてごめんな。でも今は正直言ってマジで嬉しい」
「神様にも赦して貰えたんだから、もう気にしなくて良いわよ。ていうか頑張りなさいねパパ」
「あはは、分かってるよ」
俺は照れ笑いをしながら答えた。