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【神立】神の国学園へようこそ  作者: 尾形よしあ
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第六話:愛するもの

 ある日の学園。

 

 今日はマグダラのマリア先生の授業の一環で、幼年部の子供達と一緒に遊ぶ事になった。


 子供は大好きなんだが、地上ではちょっとした事で不審者扱いをされるような世知辛い世の中なので、一定の距離を置いていた。

 

 だってさ、登校中の子供に「おはよう」と声をかけただけだとか、子供の後ろを歩いていただけで、保護者に不審者出没メールが送られるっていうんだから、おっかなくて近づく事すら出来ないよ。


 幼年部の体育館に到着した。

 

 もう既に子供達は集まっていて、ちょこんと体育座りをしてお利口さんに待っていた。

 

 「皆さーん、こーんにーちはー」


 マグダラのマリア先生がご挨拶をする。


 「こーんにーちわーーー!!」


 「まあ元気なお返事ですねえ。今日は高校のお兄さんお姉さんと一緒に皆さんに会いに来ました。今日は皆さんといっぱい遊びたいと思うんですが、一緒に遊んでくれる人ー?」


 マリア先生が手を挙げながら子供達に訊ねたので、俺も真似して手を挙げてみる。


 「はいはいはいはいはーーーい!!」


 元気いっぱいの返事が返ってきた。手を揚げながら自分を指差す子、跳び跳ねる子、恥ずかしがりながら手を挙げる子、色んな子がいる。

 そんな姿を見ていると、自然と笑顔になった。

 

 「じゃあ、何をして遊びましょうか?」


 「&ДⅢ¥↑→*#$@£§¤!!」


 皆が一斉に言うので、何を言っているのか全然分からない。


 「じゃあまずは、手繋ぎ鬼をやりましょうか」


 そんな状況を見かねた幼年部の先生が、提案をしてくれた。


 「はーーーい!!」


 という事で手繋ぎ鬼をやる事になった。


 手繋ぎ鬼は、最初は一人だが、逃げている人を捕まえるとその人も鬼になり、鬼同士は手を繋ぎ、次々と捕まえていくというものだ。

 最終的にはとんでもない長さの手繋ぎ鬼から逃げる事になる。


 最初の鬼は俺がやる事になった。ちっちゃい子相手だから手加減してあげないと。

 だがクラスメイトには容赦はしないぞ。

 

 俺が子供達を追い掛けると、子供達はキャッキャ言いながら走り回る。

 結構すばしっこく、予想外の動きをしたりするので意外に捕まえ辛い。


 いきなり立ち止まった後に振り向いて、俺の足の下を潜り抜けられた時は“やるな”と感心させられた。

 だが少しずつ鬼の仲間が増えていき、鬼側が優勢になってきた。


 最終的には鬼が横一列に並び、ゆっくりと逃げる範囲を狭めていき、残りの三人をいっぺんに捕まえて終了した。

 

 続いてお遊戯。

 先生と子供達に振り付けを教えてもらい、一通り覚えた後に皆でお遊戯をする。

 

 音楽が流れ始める。

 よく知っている讃美歌に合わせて皆が歌い、踊る。

 子供達が時々俺達がちゃんと出来ているかどうか、チラチラと見てくれている。

 

 ありがとな、俺も頑張るよ。


 讃美歌が終わり、何とか最後までお遊戯をする事が出来た。

 結構、充実感があるもんだなぁ。


 上手く出来たのが嬉しいのか子供達がハイタッチをしているので、俺も仲間に入れて貰い皆とハイタッチをする。


 「イエーイ」


 パチン!!


 「イエイエイエイエーーイ!!」


 パチパチパチーーン!!


 皆ノリが良いね、よっしゃ!!


 「イッエーーーーーーーイ!!」


 俺は子供を高く抱き上げた。するとそれを見ていた子供達がワッと集まってきて、オレもあたしもとお願いされたので、次々とイエーイをしてあげた。


 何人イエーイをしてあげたんだろう、肩と腰が少し痛い。

 でも良い気持ちだ。


 その後は皆でお昼ごはん。

 食べながら、何が好きか、何が流行っているのか、誰々ちゃんは誰々くんの事が好きだとか色々教えて貰った。

 

 そんな中、一人の女の子がちょこちょことやってきて、あぐらをかいた俺の上に座りご飯を食べ始めた。


 目がクリッとしたお下げ髪の可愛い子。


 なんだろうね、地上ではまずあり得ない状況なので、嬉しくて泣きそうになる。


 その子がお昼ごはんを食べながら、チラチラと俺の顔を見てくる。


 見てるかと思えば、プイと目をそらす。

 

 何だろう?照れ屋さんなのかな?


 ◇


 お昼ご飯が済んで自由時間になり。子供達と高校生が思い思いに過ごす事になった。


 一緒にグラウンドを走り回ったり、遊具で遊んだり、おままごとをしたり、戦隊ごっこをしたり。

 この光景はいつになっても変わらないんだねぇ。


 しみじみとその光景を見ていたら、いつの間にか隣にさっきの女の子がいて俺の手を掴む。

 

 

 「君は遊ばないの?」


 「瑠香(るか)


 「ん?」


 「あたし、瑠香(るか)って言うのよ」


 「瑠香ちゃんか。俺は大坪伊佐也って言うんだ、よろしくね」


 「うん、あたし知ってるよ」


 「そうなの、前にどこかで会った事あるっけ?」


 「会いたかったけど会えなかったの。だからね、ここで会えてすごく嬉しいの」

 

 


 ──この子は俺を知っている。


 


 会いたかったけど会えなかった?


 地上ではって事か?


 それで、ここでやっと会えた?

 

 

 

 俺がキリスト教を信じたくなった一番大きな理由━━


 作家である三浦綾子の著作【氷点】に書かれていた“ゆるすと言ってくれる権威あるものがほしい”の言葉。


 それが俺がずっと求めていたものだった。


 昔、自分がした事への赦しが欲しかったから。

 

 その思いは月日が経つにつれ、ますます大きくなっていき潰れそうになっていた時、何故か無性に三浦綾子の本が読みたくなった。


 三浦綾子の代表作は何だと親父に聞いて、急いで書店に行き【氷点】を買い、取り憑かれたように読んでいると、その中に俺がずっと求めていた言葉があった。


 “ゆるすと言ってくれる権威あるものがほしい”

 

 

 ━━全身に電気が走るような感覚を覚えた


 


「君が誰なのかやっと判った。瑠香、ダメな奴でごめんな。バカな奴でごめんな。辛い気持ちにさせてごめんな」


 瑠香をギュッと抱き締めて、俺はひたすら謝った。


 「大丈夫よ、だってこうやってここで会えたんだもん。あたし嬉しいよ」


 瑠香はそう言って俺の背中をぽんぽんしてくれた。

 俺は声を挙げて泣いた、次から次へと涙が出てくる。


 「ごめっ、ごめんなぁぁぁぁぁぁ!! うあぁぁぁぁぁ!!」


 嗚咽混じりに泣き続けている間、瑠香はずっと笑顔のまま背中をポンポンしてくれていた。

 

 ◇


 涙が枯れる程泣き続け、今日の授業が全て終わった後、俺と瑠香は一緒に帰る事にした。

 今日から同じ所で一緒に住む事にした。



 俺達は親子だから。

 

 

 手を繋ぎ、夕陽が赤く染め上げる街を二人で歩く。

 瑠香は繋いだ手をブンブン振り、とても嬉しそうな表情をしている。


 今まで俺は瑠香に、とても寂しい思いをさせてきた。

 そう俺は、とても酷い奴だ。

 もう絶対に寂しい思いなんてさせない。


 今までの分も合わせて、精一杯愛そう。


 

 つまり、親バカになります。



 神様、こんな素敵なサプライズを用意してくれて、本当にありがとう。

 

 

 「そう言えば、瑠香っていう名前は誰につけて貰ったの?」


 「イエスさまー」



 ……本当に何から何までありがとうございます。

  

 ◇

 

 自宅に着くと、おいしそうな匂いがしている。


 「あらお帰り、晩ごはんが出来てるから食べましょう。あら、その子は?」


 「母さん来てたんだな。えっと一応紹介しておくと、俺の子の瑠華だ。瑠香、この人は俺の母さんでね、瑠香のおばあ···」


 と言いかけたら、母さんが目の前に掌を突きだした。


 「おっとそこから先は言わせねえぜ。瑠香ちゃん、あたしの事は晶子って呼んでね」


 「はーい」


 「ばあちゃんだろうが。何で嫌がるんだよ」


 「そうなんだけど、あたしをおばあちゃん呼ばわりするのは認めない」


 もう勝手にしてくれ。


 「決めた。今日からはあたしも一緒に住むから、宜しくね」


 「うんっ!!」


 「ちょい待て、母さんもここに住むのか!?」


 「あんた一人で小さい子の面倒見られる訳ないでしょ!!」


 それもそうか、母さんにも手伝って貰わないと無理だよな。


 「うー分かったよ。じゃあ今日から宜しく」


 「任せなさい!!」


 と言って力こぶを見せる。

 うわぁこんな腕でビンタされたら、鮮血(鼻血)が飛び散るのも突然だわ。


 「瑠香ちゃんはハンバーグ好きですかー?」


 「だいすきー♪」


 

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