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【神立】神の国学園へようこそ  作者: 尾形よしあ
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最終話:黄金色の夢

 「夢を見たんだよ」


 「夢ですか」


 「うん、母さんが亡くなった年のクリスマス直前にね。礼拝を終えて家に帰った後、強烈な眠気に襲われて昼寝をしたんだ」


 「その時の夢ですか」


 「薄暗く暖炉の明かりしかない部屋に俺がいて、他には牧師さんと死んだ母さんがいたんだ」


 「晶子さんと牧師さんですか。それで?」


 「輪になって座って、三人でお祈りをしていた」


 「お祈りを」


 「うん、主の祈りだったのか、それとも思い思いの祈りをしていたのか覚えてないんだけど、祈ってたんだよ」


 「うん、それで?」


 「お祈りの後に俺の母さんがさ、俺をギューッと抱き締めて頭をクシャクシャしながら、『今まで心配してくれてありがとね』と言ってくれた」


 「素晴らしい」


 「それを聞いて涙が出そうになったんだけどね、横に牧師さんがいたから『バッカ、先生が見てるんだからやめろよ』と照れながら言った所で目が覚めた」


 「なんと素晴らしい」


 「目が覚めた時に、最初に目に入ったのは自分の部屋の天井なんだけど、余りにもリアルな夢だったから、今自分が何処にいるのか分からない位だったんだ。そういう夢を見たんだよ」


 「それはまさしく神の御業ですよ。本当に素晴らしいです」


 「やっぱりエリエルもそう思うか。これが聖霊の働きなんだろうね。暫くして今のは夢だったんだと理解した後、涙しながらひたすら感謝の祈りをしていたよ」


 「その後は? 夢の中に晶子さんが現れたのは一度だけですか?」


 「いや、その後もよく現れた。俺がどこかの巨大なマンションで目を覚ましたらピンポンが鳴ってさ、出てみると今と同じくおかっぱ頭のセーラー服の母さんがいて、『皆が待ってるから行こう』と言われて外に引っ張って行かれてさ」


 「晶子さんらしい強引さですね」


 「だろ?ほんと母さんらしいよな。それで外に出てみると地平線が見える程広大な原っぱでね。そこに沢山の人がいた」


 「それ原っぱとは言えない規模ですね」


 「とんでもなく広かった。大平原と言ったほうが正しいのかも。なにしろ果てが見えなかったんだから。そしてそこにいた人達っていうのは全く知らない人達なんだけど、何故か誰なのかが分かったんだ」


 「知らないのに知っている、不思議ですね」 


 「本当に不思議だよね。こんな感覚は初めてだったよ。その後、原っぱにいた人達と話をしたり遊んだりして過ごしていたら母さんが来て、『もうそろそろ時間だから帰ったほうが良いよ』と言われた所で目が覚めた」


 ◇


 「明らかにただの夢じゃないよな、確実に何かの働きがある」


 「間違いなくそうです。伊佐也さんの信仰に神様が応えて下さったんでしょう」


 「そうだ、つい最近というか天に召される数日前にも夢を見たんだよ。これがヘンテコな夢でさ、俺と父さんと弟と死んだ母さんの四人で、北海道の留萌へ旅行に行った夢なんだ。留萌は俺の生まれた所なんだよね。」


 「思い出の土地なんですね」


 「うん。でも何も無い所だから、小さい頃は嫌いだった。子供って色々なものがないと、つまらなく感じるものだろ? 今は大好きな所だけどね」


 「はあ、そういうものなんですか。私が幼かった頃は何も無いのが当たり前でしたから」


 「そっかエリエルが小さい頃は大変な時代だったんだよな、申し訳ない」


 「いや気にしないで下さい。それでその夢の続きは?」


 「うん、そこにある旅館に泊まっていると、知らない人が次々とやって来て、それは賑やかだった。でもさっき話した夢と同じく、誰かが分かるんだよね」


 「知らないはずの知っている人ですね」


 「そう、そんな人達が来てくれて談笑している内に夕方になったので、黄金岬という場所で夕陽を見る事にしたんだ」


 「黄金岬とは素敵な名前ですね」


 「海も空も全てが黄金色に染まる観光名所でさ、とんでもなく美しい所だよ。そんな所に行ったんだけども、俺の知っている黄金岬ではなくて、絵画のような雰囲気だった。例えるなら油絵で描かれた様な」


 「幻想的な感じがしますね」


 「正にそんな感じで、絵の中に飛び込んだみたいだった。そこで真っ暗になるまで黄金色の景色を見ていた後、月が昇り始めた。しかしこれがおかしな話なんだよ。昇って来た月は、俺の知っている月じゃなかったんだ」

 

 「月ではあるが月じゃないって、謎かけか何かですか?」


 「いや、俺にもさっぱり理解出来ないんだよ。月って真ん丸のイメージだろ? でも夢の中で見た月は、タイムマシンに乗ったドラ○もんの形をしていたんだよ」


 「ドラ○もんて、あの青ダヌキの事ですよね?」


 「そう、未来の世界のネコ型ポンコツロボット。月がその形をしていたんだ。しかもかなり大きかった」


 「もう何が何だか分かりません」


 「俺にも分かんないもん。しかもそんな月を見て、『綺麗な満月だなぁ』なんて言ってんだよ俺。どう、ヘンテコな夢だろ?」


 「うーん……、確かにヘンテコですね。一体何を意味しているのでしょうか」


 エリエルは腕を組んで首を傾げている。

 こんな話を聞かされたらそうなるわな。


 「まあとにかく、一度皆で黄金岬に行ってみたいね。素晴らしい所だから。」


 「そうですね、プリエルもきっと喜ぶと思います」


 「うん、うちの瑠香もね」


  俺は自宅の居間のソファーに座り、俺の膝で寝ている瑠香の頭を撫でながら、エリエルに話をした。


 母さんは度々夢の中に現れた。


 その全てが現実感の強いものだった。


 ◇


 「あら、二人して何の話をしてるのよ?」


 母さんが放課後に買い物をして帰ってきた。


 「あー疲れた。買いすぎちゃったわ」


 「お帰りなさい晶子さん。今、伊佐也さんが見た夢の話を聞かせて貰っていたんです」


 「もしかして、あたしがいた夢の話?」


 「そうだよ、よく分かったな」


 「あれはね、夢ではないのよ」


 買って来た物を冷蔵庫にしまっていた手を止め、こちらに笑顔を向けた母さんが言った。


 「つまり、どういう事だ?」


 「伊佐也は確かにそこにいたのよ。厳密に言うと伊佐也の魂が、聖霊の働きによって天国に来ていたの」


 母さんの話で全てはっきりした。


 俺は確かに天国にいたわけだ。


 そこで母さんと再会を果たしていた。


 「て事は、俺の頭を撫でてくれたり、沢山の人がいる原っぱに連れて行ってくれたり、旅行に行ったのは、全て実際に起きた事なのか」


 「そういう事」


 「あそこにいた人達は誰なの? あとドラ○もん型の月は?」


 「あの人達は、あんたの御先祖や親戚。それにお友達よ。ドラ○もんが何なのかは、あたしにも分かんない」


 「……ドラ○もんは謎のままか。それは置いておいて、俺の身の周りにクリスチャンは一人もいなかったはずだぞ」


 「そうよ、皆仏教徒。でもほら、イエス様は十字架につけられて死んだ後、陰府(よみ)で死んだ人達に教えを説いていたじゃない?それを御先祖さん達にもしてくれたって事なの。あたしにしてくれたみたいにね」


 それで誰だか知らないのに、知っていたのか。

 そして皆イエス様を信じた結果、天国にいたんだ。

 何もかも全てに合点(がてん)がいった。

 神の御業ってやつだ。



 なんて粋な御業だろう。



 「母さん、俺泣いて良いか?」


 「何よ気持ち悪いわね」


 「こんな素晴らしい話を聞いて、泣かずにいられるかってんだよ」


 そう言っている最中に涙がこぼれだした。

 

 「あれ……、パパ泣いてるの?」


 目を覚ました瑠香が、目を擦りながら言った。


 「良いお話を聞いてたら、感動して泣いちまったよ」


 「そうなんだ、あたしもそのお話聞きたい」


 「そうかい、じゃあお話してあげるよ。ええとね━━」


 俺は夢の話を瑠香にしてあげた。

 

 その夢は神様が見せてくれた、素敵な夢の話を。


 ◇


 「素敵な夢ね。それを見せてくれたイエス様も素敵」


 「うん、瑠香にも会わせてくれたしな」


 「うんっ」


 瑠香は俺の首を抱き、ほっぺにチューをしてくれた。

 もうダメ、幸せすぎて辛い。


 「あたしもしてあげようか?」


 「それは全力で断る」


 「でもパパ、月がドラ○もんの形をしていたのは何で?」


 「それが謎なんだよ。パパにも母さんにも、エリエルにも分かんないんだ」


 「ふーん変なのー」


 そんな時、ピンポンが鳴った。


 「あたしが出るね!!」


 瑠香はそう言い、玄関へとパタパタと走って行った。


 「わぁーー!!」


 瑠香の声がしたので玄関へ行ってみると、プリエルとサタニエルがいた。

 二人とも買い物袋を持っている。


 「あれ、二人ともどうしたんだよ」


 「今晩は伊佐也くん、食材を買ってきたよ」


 「へ?」


 「晶子さんから聞いてないんですか? 今日は皆で晩ごはんを食べるんですよ。だからあたし達、買い物をして来たんです」


 「何も聞いてないぞ」


 「あ、ごめーん。あんたの話を聞いていて、すっかり忘れてたわ。今日は皆で食べるわよ」


 母さんがリビングから顔を出す。


 「今知ったよ。だからそんなに料理を作ってたのか」


 「んふふ、そういう事」


 母さんはそう言って顔を引っ込めた。


 「伊佐也さん、実はあたし達の他にも来てくださった方がいるんです。素敵なゲストさんですよ」


 「え、誰なの」


 「今晩は、伊佐也君」


 その言葉の主は、さっき俺が話していた夢を見せてくれた方だった。


 「イ、イエス様ぁぁぁぁぁ!?」


 「プリエル君にどうしてもと誘われてね、お呼ばれされる事にしたんだ。お邪魔して良いかな?」 


 「は、はい勿論です喜んで。お呼ばれされて下さってありがとうございますっ」


 「伊佐也君、言葉がメチャクチャだよ。ちょっと落ち着いて」


 サタニエルにツッコミを入れられてしまった。

 でもこんなサプライズをされたら、動揺するに決まってるじゃないか。


 俺は緊張しながらリビングへ案内し、イエス様に席について貰った。

 そして俺達は料理をしている母さんを手伝い、テキパキと食卓へ並べる。



 そして食事の準備が整い、皆が席に着いた。



 「では、食前の祈りは私がさせて頂くよ」


 イエス様がそう仰って下さり、俺達は目を(つぶ)る。



 「慈愛の父よ、御名を賛美します。

 貴方の日々のお働きに深く感謝致します。

 今日は私の兄弟姉妹をここに集わせ、共に食事に(あずか)る恵みに感謝致します。

 ここに集う兄弟姉妹に祝福を与えたまえ。

 そして天にいる者、地上にいる者全てに等しく愛を注がれん事を。アーメン」



 イエス様に続いて俺達もアーメンを唱える。



 「さあ、頂こうか」


 そして食事が始まった。

 今日のこの食事は、決して忘れる事はないだろう。

 最後の晩餐の絵画が頭に浮かんだが、これは最後ではなく未来永劫に続く日々の晩餐の一つだ。

 そして特別なもの。

 

 俺達は地上で、様々な辛い思いをしてきた。

 だけど今は天国に導かれ、全てが報われた気持ちで満たされている。


 「これは美味しい。晶子さんは料理がお上手ですね。これを毎日食べられる伊佐也君と瑠香ちゃんは幸せだね」


 「あらー、イエス様にそう言って貰えるなんて光栄ですわ。お代わりはいかがですか?まだまだ沢山ありますよ」


 「感謝します。ではお代わりを頂きます」


 「晶子ちゃん、あたしもお代わり!!」


 ……光栄ですわ?

 

 うちの母さんでも、そんな言葉づかいが出来たのか。


 ◇


 食事が一段落した時に、イエス様はこう言われた。


「私は神の教えを説く際に、(たと)え話を用いてきた。だが今日はあなた方に、喩えを用いずに話をしようと思う。瑠香ちゃん、私の膝においで」


 「はいっ」


 瑠香はイエス様の膝にちょこんと座ると、イエス様は優しく頭を撫でてくれた。




 

 


 「さて、父である神はこう言われた━━」




 


 

 

 


 

 


 


 

 


 

 


 

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